三国志の定番、吉川英治の名作を、単行本で大きな活字で味わいたい、という読者の要望に応え、全10巻を刊行。
美しさ、リズム感、臨場感のある文章と、スケールの大きな構想は、読者をぐいぐい引き込んでいく魅力があり、成功し、失敗し、泣き、笑い、苦労する登場人物の姿には、生きるヒントがあふれています。
初めて吉川文学に触れる人は、読書がますます楽しくなることでしょう。
かつて胸躍らせて『三国志』を読みふけっていた人には、再びあの感動を、読みやすい大きな文字でお届けします。
富貴、栄達、それが何だ!
呂布も強い。関羽も強い。武勇の面では優劣がないだろう。しかし、心の持ち方には、天地雲泥の差があった。
呂布は、富貴、栄達が約束されると、主君を殺して敵方に身を翻した。美女、妻子の言葉に迷い、貫く信念もなかった。まさに「偉大なる煩悩将軍」である。やがて曹操の大軍に包囲されると、家臣の裏切りにあって捕らえられ、処刑されていく。因果応報だ。
関羽は、苦境に追い込まれても、主君との誓いを守り、信義を貫いた。その姿勢は、敵将の曹操をも「ああ麗しい人だ。忠義な人だ」と感動させるほどであった。
関羽は、曹操の大軍に包囲される。惨敗を認め、潔く討ち死にを覚悟した時、意外にも曹操から「忠義を貫いたまま生きる」道を与えられた。信義を大切にする関羽の生き方が、絶体絶命のピンチを救ったのである。