1万年堂出版が開催した
読者感想文コンクールの
入賞作品の一部をご紹介します。

銀賞

『なぜ生きる』を読んで

前田一男さん(74歳・石川県) 一般の部

妻と死別してから、早いもので今年で11年目を数えた。

以前から病弱な体質ではあったが、間もなく盆を迎える8月の初め、いつもの様に病院に出掛けて、そのまま2度と帰って来ることはなかった。

病院から連絡を受けた時は、余りにも急な事だったので、にわかには信じがたく、驚いた。本人もまた、予期しなかった事だったろうと思う。

朝、家を出る時「行ってきます」と言いながら見せた笑顔は、現在も鮮明に私の記憶に残っている。そしてもっと大切に幸せにしてやりたかったと思う一念と共に、後悔先に立たずとはこんな事かと残念でならず、日夜心の中で詫びつづけたものだった。

ただ、その日から困ったのは、生来不調法だった私は、妻に家事一切を取り仕切ってもらっていたので、どこに何があるのか皆目見当がつかず、さして広くもない家内をいたずらに右往左往するばかりで、食事の煮炊きもままならず、外食に頼らざるを得ない日々がつづいた。

あげくの果てには淋しさの余り、飲む酒量も増えて、夜中に病気で倒れ、これも自業自得、どうにでもなれとヤケッパチな心を抱いていた時、目に留まったのが、地元新聞紙上の「なぜ生きる」の文字であった。

本来不信心な私は、いよいよとなれば頼れるのは己だけだと考えていたが、どんな心境の変化があったのか、生まれて初めて、書信で購入を申し込んでいた。

送られて来た本の表紙もすばらしく、ページをめくっていていつの間にか、時がすぎるのを忘れて読みふけっている自分に気がついた。また、その内容にも深く感動し、暗夜に光明を見た様な思いがして、以後発刊を知れば求めて、最近の『歎異抄をひらく』を含めて現在7冊を所有している。

私は足腰が不自由なので、北陸の山間に所在する老人施設で生活する身なので、市中の書店まで出向けず、御社から直接送付していただいたが、共に生活しているホームの皆も読んで、深い感銘と共に、心の支えになったと話し合っている。

また、昨年求めた日めくりカレンダーの字句にも学ぶ事が多々あって、今日はどんな事柄が記してあったかなと考えながら、毎日の日めくりに楽しみを覚えると共に、今後は更に強い心を持って生き抜くぞ、と妻の写真の前で自分に言い聞かせながら、もし本書に出会えなかったら、自分の生はあっただろうかと感謝の念を禁じえない。