学生の頃、郷里を離れて好きなことをしたいと夢と希望を抱いた。実家を飛び出て、54歳になった。
ふと、立ち止まり人生を振り返る。何も残らない薄っぺらなものだと落胆した。
血気盛んな青年期が勇猛果敢で、資格取得と仕事に充実した歩みだった。
加えて、結婚、子育て、家建設と人生街道の軌道もそれずにひたすら走ってきた。
病や不慮の出来事にもみまわれず、途中、人生の汚点も残した。
女性問題でおどされ、物盗りと騒がれ、キリストの信仰に夢中となり、「十戒」を心の中心にして生涯の礎にと決意もした。
しかも、人間力を高めるために、仕事の専門性を磨き、励んだ。親の言葉もふり切って顧みぬままやって来た。
永年の畑も草をはびこらせ、だめにしてしまった。
貪欲な自分が、幸せな歩みを色あせさせ、子供の信頼を得ることなく、家庭内別居で孤独をエンジョイし気楽だ。
父権もなくす。自分の弱さをさらけ出す勇気もなく、おびえ、人の言葉におろおろする。
ねたみや競争でしのぎを削り、能力もないのに、あるかのようにウソで固める。
優しさもないのに、冷淡で他者をふり落とす醜い心が一杯だ。
本当は性悪な自分。怠惰を好み安逸を求める。
祟り障りに、過去の因縁に縛られる。
高層ビルから飛び降りる勇気もなく、周囲の流れに合わせる。
個性も色もなく、悶々と苦悩をひきずる。
初老の身に輝きなく、ダメな部分、弱く力なく、不満と不安が一杯の自分が見える。
後半生。苦痛の伴う歩みを、七転八倒を繰り返し、死にむかう。
食べて寝て役立たずの濡れ落葉で粗大ゴミかもしれない。
自由のない、混乱した自分が見てとれる。
『なぜ生きる』の本をむさぼるように読む。
難解だけれど、今迄の生きざまを語られ、うなずける。
なぜかと問われて明快に答えられず思い悩む。
ウソの自分が、阿弥陀の救いで、何かハッとするものを感じる。
心配を棄て、極楽浄土へ往けなくとも、何か捨て難く得難いものの探求を目覚めさせた。
今は、難易度が高く盲目で理解できそうになくても、すがる思いで、読んでいくなら、読んだ者しか味わえない、念仏を称えた者に見える何かを、扉を開いてくれる。
わからなかったものが何か得られ、自覚できるものが、『なぜ生きる』の書物にちりばめられている。
私は、的はずれのものに精魂を使い果たしてきてしまった気がする。
でも、満たされそうな期待できる何かを見つけられそうな気がする。
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