1万年堂出版が開催した
読者感想文コンクールの
入賞作品の一部をご紹介します。

銀賞

『翼ひろげる子』を読んで

渡邉真紀さん(40歳・アメリカ) 一般の部

私は4歳になったばかりの息子と6カ月の娘の母親だ。普段、子どもと接していて、こんな時はどうしたらいいの、という疑問にぶつかってばかりいる。

アメリカ在住で、気軽に相談できる人もまわりにはいない。なので、昨年の秋、プリスクール(幼稚園)に通い出した息子が、セパレーション・アンザイェティー(子供が親離れできないこと)から私につきまとい、ちょっとしたことで泣きわめくようになった時は困り果てた。そんな時に明橋大二先生の『翼ひろげる子』のことを知り、日本にいる母に頼んで早速、送ってもらった。

この本ではいくつかの例をあげて、子どもがどうして問題行動を起こすのか、その時、まわりはどう対処すればよいのかということを、わかりやすく説明してある。自分の子どもたちよりは大きい子の例が多かったが、参考になることはずいぶんとあった。

その1つが子どもは10歳まで徹底的に甘えさせる、ということだ。これまで、そういう風に考えたことがなかったので、これは新鮮だった。明橋先生は、自立しようという意欲のもとになるのは安心感で、甘えることのできる人が自立し、甘えることを知らない人は自立につまずきやすいと書いている。

私自身は、どちらかというと子どもに対しては厳しいほうだろう。基本的なしつけというものは、きちんとするべきだと思うからだ。

ただ、息子を感情的に叱ってしまうことがあるのが自分でもわかっていて、それが気になっていた。元々、それほど子ども好きでもない私が、一日中、子どもとつきあっているのだ。悪いところも目に付くし、イライラして怒鳴ってしまうこともある。息子はもちろんかわいいのだが、息子がそれを実感できているかどうか、考えてみると自信がない。

この本を読んで、これまでより意識的に子どもにスキンシップをするようになった。6カ月の娘には自然にキスしたりできるのが、4歳の息子だと親のほうも少し照れくさかったりするが、子どもが甘えたい時に甘えられる親でいるように、息子をかわいいと思う気持ちを、もっと言葉や態度で示していこうと思う。甘やかすのではなく、甘えさせるのだ。

また、体罰は子どもの発達に悪影響を与える、ということも、この本を読んで確信した。

ずいぶん前から体罰はいけないと言われ、私自身も子どもにそういうことはしないようにしてきたが、たまにカッとして、思わず手が出てしまったこともある。そんな時、息子は大泣きすることもあれば、自分の部屋に走って行くこともあった。大人に抵抗できない幼い息子ができる精一杯のことだが、子どもなりに悔しいのがわかる。時にはささいなことで泣きわめく息子を前に、殴りつけたい欲求にかられ、そうしないようにと私がバスルームに閉じこもったこともあった。

この本を読んで、体罰はやはり子どもの心に大きな影を落とすことがわかり、それからは決して手を出さないように、また、思わず出てしまった時は、後で謝るように心がけている。

こんな風に書くと、私はよい親のように思われるかもしれないが、実は、この本を読んで、一番ドキッとしたのが、キレない子どもを育てるにはどうしたらいいかという質問に対しての答えだった。それは「親がキレないこと」。親がキレてばかりいると、それを見て子どもはこういう時にはキレてもいいんだなと学習すると明橋先生は書いている。

これを読んで、私は普段の自分を本当に反省した。私は未熟な母親で、イライラしては息子相手にヒステリックにわめき散らしたことが数え切れないほどある。優しい息子がキレる子になるはずなどないと思いこんでいたが、こんな母親の姿を目の当たりにしていたら、どうなるかわからない。まず、私が落ち着いた優しい母親にならなければ。

ここ数年、日本で急激に増えた少年犯罪の報道を見ると、どうしてこんな風になってしまったんだろうと考えないではいられない。育児をしながら迷う人も多いだろう。多くの人にこの本を読んで、自分の育児を振り返ってみてほしい。また、自分だけでなく、まわりの人にも教えてあげてほしい。

ところで、体罰が子どもの攻撃性、反社会性に悪影響を与えるということがわかっているのに、なぜそれがもっと認識されないのだろうか? 体罰といえば聞こえはいいが、これは大人が無抵抗の子どもにふるう暴力だ。「ほとんどの加害者はかつて被害者であった」という言葉もこの本にある。大人から子どもへのこの暴力をやめれば、すさんだ心の人が減り、日本で起こっている事件の数もずいぶんと減るのではないだろうか? どうか、明橋先生、このことをもっともっと訴えてください。