正直、私は誉められた子どもではなかった。保育園をよく抜け出した。先生に反抗し、叱られて泣き、その腹いせに保育園を抜け出したのだった。友だちにちょっかいを出し、喧嘩となり、最終的に私が相手を泣かしたことも多々あった。今思えば、手がかかる子どもだった。
そのたびに父母へは保育園から連絡が入り、時に保育園に呼ばれて懇談を受けたらしい。相手の父母に頭を下げたことも一度や二度ではない。私はさほど記憶にないのだが、「あのころのお前は本当にひどかった」と、母が嘆くほどだから相当だったに違いない。もっとも、今ではその思い出も親戚が集う場所では笑い話となっている。
私に子どものころの記憶がほとんどないのは、父母に叱られた記憶がないからだろう。間違いなく私は、今で言う保育園の「問題児」であり、父母にとっても「厄介者」だったに違いないのだ。にも関わらず、父母は私を叱ったことがないのは正直、不思議だった。
「お前は本当はいい子なんだ」。
何か問題を起こすと、父母は私にいつもこの言葉をかけてくれた。普通だったら「お前のせいで私たちがこんな目に遭ったんだぞ。どうしてくれる」という具合に、叱りとばすはずである。なのに、私の父母は私を叱ったことがなかった。「お前は本当はいい子なんだ」を繰り返すばかりだった。
その父母の行為の意味が、大人になっても私には理解できなかったが、本書を読み、納得した。例えば「生まれ変わった道楽息子」。道楽息子に手を焼いた父母は、親戚から「勘当しろ」と言われながらも、最後まで息子の味方をしようとする。その通りなのだ。親の役割は最後まで子どもの味方となり、支えることにある。だから私の父母は、私がどんなに悪行を繰り返そうとも、決して批判者とはならず、味方となって支えてくれていたのである。
「お前は本当はいい子なんだ」という言葉をかけてくれた両親は「アナトール・フランスの母」に通じるものがある。アナトール・フランスの母は、周囲からからかわれる息子の味方となり、どんな困難にあっても「どんどんお書き。おまえには才能があるよ。いつかきっと努力が実る時が来るから」と声をかけ続けた。
私の両親も同じだった。どんなに悪さをして保育園から叱られても、「お前は本当はいい子なんだ」と言い続けてくれた。きっと周囲から、「もっと厳しく叱ったら」とか、「お宅の息子さんのせいで」とか、陰口をたたかれたに違いないのだ。にもかかわらず両親は、常に私を励まし、支え続けてくれた。
おかげで私は、小学校まではなかなか立ち直れなかったが、中学校で無事に立ち直り、現在に至っている。もし両親が私を常に叱りとばす親であったら、私は道を誤っていたに違いない。励まし続けてくれた両親と、アナトール・フランスの母親が重なり、目頭が熱くなったのも当然だった。
その私が数年前に父親になった。今は5歳の息子と1歳の娘を授かり、一家4人の生活を営んでいる。思い出すのは常に両親の私に対する接し方である。保育園に通うようになった息子は私に似てわんぱくで、生意気な子どもに成長した。先生を口で負かしたり、保育園の仲間と喧嘩をしたりすることがある。
かと思えば、「今日は保育園に行きたくない」と、頑として動かず、私や妻を困らせることもある。妻などは苛々して息子を叱りとばすのだが、私は我が身を振り返り、まず息子の話をじっくり聞いてやることにしている。その上で息子の言うとおり保育園を休ませ、私も早めに帰宅して息子の相手をする。自分が両親にしてもらった接し方を、我が子に対しても実践している。これは全て両親のおかげである。
本書に「『親』という字は『木の上に立って見る』と書く」があった。わが子が帰って来るのを山頂の切り株に立って待っている母親の話だったが、私は別の意味でこの言葉を聞いたことがある。
「親は常に木の上から子どもを見守っているつもりで接しなさい」。
育児に関する講演だったが、そこで「親」の文字の意味を、そう教わった。ようは、あまり近づきすぎると育児もたいへんさが増すので、木の上に立っているように時に離れて見守り、子どもに任せなさいということだった。なるほどと納得しながら講演を聴いた私だったが、たしかに本書にあるように「切り株の上に立ち、息子の帰りを待ちわびているのが親」とも解釈できる。「親」の文字の意味が広がってうれしくなった。
素敵な両親に育ててもらった私だからこそ、我が子にとっても素敵な両親であるように努めたい。いまは心からそう思う。
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