下痢が続いている子どもを病院に連れていった時に、小児科や内科の先生から、「おなかの風邪ですね」と言われて、ちょっとホッとした経験はないでしょうか。
「感染性胃腸炎」と聞くと、何か大変な病気のように思いますが、「おなかの風邪」のことです。
今回は、内科医の佐々木彰一先生に、感染性胃腸炎の原因や治療の方法、注意が必要な症状についてお聞きしました。
おなかの風邪は、胃から始まり腸へ移る
感染性胃腸炎は、おなかにウイルスや細菌が入ることによって起きる病気です。
人の食べ物の通り道(消化管)は、口・食道・胃・小腸・大腸・肛門へと続いています。
ウイルスや細菌はほぼ、口から体の中に入りますので、まず胃の症状(吐き気・お腹の上側の気持ちの悪さ)が起こり、その後に腸の症状(腹痛・下痢)が起こります。
吐き気や下痢の一部は、おなかの中に入った悪い物を、体が外に出そうとする反応です。
腸管は長いので、感染性胃腸炎の人のおなかを触ると、どこを触っても「張った感じがある」と言われることが多いです。
感染性胃腸炎は、通常数日で症状が治まります。
患者さんから、「昨日吐いて、今日はおなかが痛くて下痢をしている。今までもこんなことはあった」と言われたら、「感染性胃腸炎かな?」と思いながら診療を進めています。
原因はほぼウイルス。薬は効きません
人間の腸の中には非常に多くの細菌が住んでおり、体重60kgの人で約1kg、数にして100兆個の細菌がいるといわれ、これらは私たちが生きていくのを助けてくれています。
人の体は、約60兆個の細胞でできているといわれますので、私たちの体の細胞の数よりも多くの腸内細菌が住んでいるということです。
感染性胃腸炎は、原因の多くがウイルスです。
ウイルスは細菌ではないので、細菌をやっつける薬は効きません。
細菌が起こす感染性胃腸炎もときどきあるのですが、抗菌薬は、もともと住んでいる腸内細菌をやっつけてしまうため、血便が出るとか、極端に下痢が多いといった状況でないと、使うべきではないといわれています。
残念ながら、薬で胃腸炎の原因を取り除くことはできないことが多いのです。
しかし、そのような治療をしなくとも、ほとんどの場合、体が自然に治してくれます。
体に負担のかかることを避け、ゆっくり休むことが最も大切です。
水分補給ができない時は要注意!
感染性胃腸炎の人の中に、気持ちが悪くて水分が取れなくなる人があります。これは要注意です。
下痢で水分や塩分を失い、かつ口から水分や塩分を補給できなくなると、体の調子は悪くなります。
水分補給として、
経口補水液 [ 水500mlに砂糖20g(大さじ2と1/3)、塩1.5g(小さじ1/4)を加えたもの ]
常温のスポーツドリンク
すまし汁
などを飲んでいただきたいのですが、難しいようであれば病院を受診して点滴を受けてください。
点滴は、血管に直接水と塩分を補う治療で、このような時は非常に有効です。
感染性胃腸炎にかかっていても、食事が食べられる時は、自分の便と同じ程度の硬さの物を口にするのが目安です。
おなかの痛みを取る薬や下痢を止める薬は、腸の動きを抑える薬です。腸の中にいるウィルスや細菌がなかなか外に出なくなるため、感染性胃腸炎の治りが遅くなる可能性がある、という人もあります。
ただ、やむを得ない時には使っていただいて構わないと思います。
初期症状の見分け方は?
感染性胃腸炎の初期は、他の病気との区別が付きにくいことが知られています。
- 血便が出る
- おなかが普段の風邪の時よりずっと痛い
- 高い熱がある
- 下痢が10回以上出る
などの場合は、ぜひ病院を受診してください。
予防の基本はやっぱり手洗い
感染性胃腸炎の原因であるウイルスや細菌は、口から入ります。
口からウイルスや細菌が入るのは、食べ物にそれらがついていた(食中毒)からか、または手についていたからです。
食中毒を予防する方法は、[ 政府広報オンライン 食中毒を防ぐ3つの原則、6つのポイント ] によくまとまっていますので、ご参照ください。
細菌やウイルスが、人の手から手に移ることも、よくあります。
これを体の中に入れないようにするには、流水・石けんでの手洗いが一番です。
洗い残しのない手洗いの方法も、先ほどご紹介したページに載っていますので、ご参照ください。
手洗いをする時間がなければ、市販のアルコール消毒液を使っていただくのも有効です。
物を口に入れる前に、手から細菌やウイルスを除く習慣をつけていただければ、感染性胃腸炎にかかる可能性が大幅に下がるでしょう。
感染性胃腸炎にかかっている人が家族にいる間は、共用のタオルが感染の元となるので、外しておいたほうがよいと思います。