「子育てしている私自身が、自己肯定感が低いと感じています」
これは、多くのお母さんが抱えている悩みです。
今の30~40代を中心とした親世代で、特に「自分の自己肯定感が低い」と感じる人が多いのは、育った時代というのも一つある、と心療内科医の明橋大二氏は指摘しています。
その中には、自分の存在に対する自信(安心)が全く持てず、「こんな自分が、子どもなんて育てられるはずがない」と悩み、自殺まで考える人もあります。
そこまで極端に自己肯定感が低くなってしまう原因は、いったい何なのでしょうか。
さおりさん(仮名)の手記を紹介します。
私にとって親の手は、繋ぐものではなく叩くものでした
第一子の長女というのは理不尽な目に遭いやすいのでしょうか。
第二子~第四子はあまり怒鳴られたり殴られることはありませんでした。私が下の子を、親から守っていたからかもしれません。
父にパチンコ屋に連れて行かれ、2時間ほど入り口の前で待たされ、寒くて「お腹が空いた」と泣くと殴られました。「お前みたいなクズはいらん」と吐き捨て車を発進させる父を、泣きながら追いかけました。4歳の時です。
母親に怒鳴られ殴られて(理由は思い出せませんが、たぶんうっかりお茶をこぼしたとかだと思います)、泣きながらご飯を食べていると、父がニヤニヤ笑いながら「泣きながら食うメシはうまいか~?」と聞いてくるので、奥歯を食いしばっていると、「何だその態度は!」と母が殴りに来る。小学校低学年の時です。
怒鳴る殴るの人格否定が当たり前の毎日
でも、両親とも私より2つ下の弟は可愛くて仕方がないようで、極端なえこひいきをされてきました。
もうすぐ30歳になる弟は、離婚で両親や弟妹に迷惑をかけたにも関わらず、家に大したお金も入れず、貯金もせず、実家暮らしでベタベタに甘やかされ、のうのうと生きています。
思い出せばキリがないのですが、怒鳴る殴るの人格否定が当たり前で、私は親のストレスの吐け口というか、家族の痰壺みたいな存在でした。
「学校でイジメられている、辛くて死にたい」と初めて親に助けを求めた時も、「そりゃ~よかった。はよ~死ねや」と両親は顔を合わせて鼻で笑っていました。
こんな自分が親になれるわけがない
そんな私が子どもを授かりました。
妊娠中は、自分が親になれるわけがない、同じことをして子どもを傷付けたらどうしよう、と思い悩み、自殺まで考えました。
それでも、生まれてみれば可愛いこと可愛いこと…。こんなに愛しくて可愛くて大切な物が、この世にあるのかと、本当に驚きました。
私は普通の家庭で育っていません。世の中の人と大きくズレているんじゃないかな、と思うこともたくさんあります。そして、さんざん利用され、傷付けられてきたことも多かったので、世間が、人間が、あまり好きではありません。
しかし、1歳の娘とお散歩していると、いろんな人が微笑んで、温かい眼差しをくれます。
「可愛いねぇ」「賢い子だねぇ」「いい子だねぇ」と声を掛けてくれます。
この小さな小さな娘が、世の中と私を繋げてくれているのです。
自己肯定感なんて、全くなかった
可愛い服を選んで、好きなおもちゃで一緒に遊んで、お菓子を作って、たくさん抱きしめて、大好きだよって伝えて…。
「もう今さら叶わない」と思っていたことが、「まだこれから」になるなんて、思ってもみませんでした。
自己肯定感なんて、全くなかった。死ね、いらない、と言われ続けてきたのですから。
そんな私を、娘は「おかーしゃん」と呼んで笑ってくれます。
「あぁ、生きてて良かったなぁ」と毎日思えるようになりました。
娘が笑うたびに、小さい頃の自分が笑っている気がするのです。
(さおりさんの手記より)
親から否定された子どもは、なぜ極端に自己肯定感が低くなるのか
児童期に虐待を受けるなどして、親から否定されて育つと、どうして極端に自己肯定感が低くなるのか、ということについて、明橋氏は、「一言でいうと、こんなにひどい扱いを受けるのは、自分に価値がないからなんだ、と子どもは思うからです」と言われています。
そんな子は、自分を価値ある存在だと思えず、心のトラウマを抱えることになります。
大切にされないのは、自分が悪い子だからなんだ
ちゃんと自己肯定感が確立して、大人になっている人が、不当な扱いを受けても、相手に対する怒りが起こるだけで、自分に存在価値がないからだ、とは思いません。
しかし、子どもの場合は、何よりも大切なのは親です。
どんなに虐待を受けている子でも、親のことを悪く思いたくない、親は、本当は、優しい人なんだ、愛情のある人なんだ、と思いたいのです。
それなのに、これだけ殴られたりするのは、自分が悪い子だからだ、自分に価値がないからなんだ、と思うのです。
自分が大切にされないのは、相手がおかしいのでなく、自分が、大切な存在ではないからなんだ、と思うのです。
さおりさんも、次のように語っています。
「子どもは『助けて』って言えないんですよね。虐待されている本人は、いつだって自分が悪いと思っているし、親が正しいと思っているから」
心の傷を治す第一歩は
いつも悪いのは自分だと思っているわけですから、「虐待を受けた人の心の傷を治す第一歩は、『きみは、決して悪くなかった。きみは、決して価値のない人間なんかじゃない、大切な人間なんだよ』と伝えることから始まる」と明橋氏は言われています。
さおりさんは、子どもを授かり、いろんな人に接して初めて、「あの時、自分は悪くなかったんだなぁ」と気づいたそうです。
苦しかったことを、これからも重ねる必要はない。
自分の気持ちに気づき、肯定できたことによって、自己肯定感を育むことができたのです。
そして最後に、次のように語ってくれました。
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娘を生んでしばらくして、お婆ちゃんになった母が、小さな娘を抱きながら「あの時はごめんね…」と絞り出すように呟いたことがありました。
あの時、というのが心当たりが多過ぎてどの時なのか分かりませんが、私の口からついて出たのは、「お母さん、辛かったんだよね」という言葉でした。
自分の口から親への許しの言葉が出たことは、今でも本当に不思議に思います。
そしてそれは、娘がそうさせてくれたのだと思います。
子育てって、すっっっっっっごく大変です。でも、親になってからのほうが、ずっとずっとずっと人生が楽しいです。
娘が大きくなっても明橋先生の本を読み返して、「あなたのことが大好きで大事で愛しているんだよ」と毎日伝えていきたいと思っています。
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自己肯定感について詳しく知りたい方へ