セルフ・コンパッションから学ぶ自己肯定感を育むセルフケア #1

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頑張るのが苦しいのはなぜ?自己肯定感を高めるセルフ・コンパッションの考え方

セルフ・コンパッションという言葉をご存じでしょうか。
自分のことを受け入れる、自分を肯定する、ということですが、「自分をねぎらう心」「自分を思いやる心」と訳している人もあります。

このシリーズでは、「自分のことが好きになれない」と悩む人に向けて、自己肯定感を高める方法を、精神科医の高木英昌氏に紹介していただきます。

頑張ることが苦しいのはなぜか

「自分をほめようとすると、できていないところばかり目について、逆に責めてしまいます。どうすれば自分をほめることができますか」
「自己肯定感を高めるには、どうしたらいいですか」
そんな質問をよく受けます。

というのも、自分をほめるというのは意外と難しく、特に日本人は慣れていません。

自分のほめ方を教わる機会はあまりなく、むしろ自分には厳しくなければならない、とよく言われます。
「甘えていてはいけない」「弱音を吐くな」「もっと頑張れ」と、叱咤激励が世に溢れています。

できていないところを正し、改善して、成長していく。そうしていくことも大切ですが、そればかりでは、真面目な人ほど息が詰まりがちです。
休むことに罪悪感を感じて、果ては倒れてしまう人もいます。

「一体何のために、こんなに頑張っているんだろう」
そんなため息が聞こえてきます。

厳しさの裏には、優しさが必要です

「人には優しく、自分には厳しく」
それは決して間違いではありませんが、それにとらわれすぎて、自己肯定感が下がり、苦しんでいる人がいることも、また事実なのです。

私たちはよく、他人にも「あなたのためを思ってあえて厳しくしているんだ」という言い方をします。

ここで注意したいのは、厳しさが本当に「その人のためになる」には、大前提があるということです。

それは、その厳しさの裏に優しさがあるかどうかです。

本当の厳しさは、成長を促し、幸せになるためのもの。それは優しさと表裏一体であるべきです。
しかし、肝心の優しさが置き去りにされている場合が少なくないようです。

自己肯定感を高めるセルフ・コンパッションの考え方

では、自己肯定感を高めるためには、どうしたらいいのでしょうか。
自己肯定感を育て直す方法はいろいろありますが、最近欧米で話題の「セルフ・コンパッション」を参考にご紹介します。

セルフとは「自分で」、コンパッションは「慈悲」ということですから、セルフコンパッションは、「自分への慈悲心」「自分をねぎらう心」「自分を思いやる心」などと訳されます。

仏教で教えられる慈悲からヒントを得た考えです。
自分を思いやる心を大切にし、自分にとっての幸せとは何かを見つめ直し、そこに向かって成長していく方法を教えられたセルフケアです。

慈悲は、「抜苦与楽の心」といわれます。
「苦しみを抜いて、楽を与える」ということですから、苦しんでいる人を放っておけない、何とかしてつらさを和らげ、幸せになってもらいたい、という心です。

例えば、子どもが風邪で辛そうにしていれば、少しでも楽になるように、病院に連れて行ったり、食べやすいおいしいものを作ったりするのは、親の慈悲の心でしょう。
友達が落ち込んでいれば、話を聞いたり、側にいたり、何か力になりたくなります。

「そんな優しさを、自分にも向けていきましょう」というのが、セルフ・コンパッションの考え方です。

「自分に優しく」とは、「自分を甘やかす」ことではない

「そういわれても、自分に優しくするなんて抵抗があってできない」「なんか恥ずかしくて」という人もあるかもしれません。
それだけ私たちは、「自分を認める」ことに慣れていないのだと思います。
また、「自分に優しくする」ということへの誤解もあるかもしれません。

これは、自分を甘やかすことでも、怠けることでもありません。自分を哀れんだり、自惚れたりすることとも違います。

自分を甘やかすとは、自分と向き合わず、できることもしようとしないことです。
怠けるとは、自分を大切にしようとせず、問題を先送りにすることです。

反対に、自分に優しくするとは、自分ときちんと向き合うことです。

自分が傷ついていることや苦しんでいることに「気づく」

自分の頑張りをきちんとねぎらう

自分の欠点と向きあうけれども否定はしない、責めない

それが苦手なんだよね」「嫌だったね」と自分の気持ちをそのままに受け入れる

ということです。

自分を過小評価したり過大評価したり、人生はどうにもならないとあきらめたり、逆に強がったりと、どこかに窮屈だったり無理しているのは、自分に優しくない生き方ではないでしょうか。

自己肯定感を高めるために不可欠なこと

「自分に優しくする」というのは、まさに自己肯定感を育むということです。
というのも、自己肯定感とは、「自分の気持ちをわかってもらえる(認めてもらえる)」「自分のいいところも悪いところも、全部受け入れて愛してくれる」という感じのことです。

優しい人とは、自分を甘やかして、堕落させる人のことではないですよね。
優しい人は、いいところはいいとほめてくれて、悪いところもそのまま受け止めてくれて、そのうえで、私にとっての幸せは何かを考えてくれる人ではないでしょうか。

「自分は生きていていいんだ」「自分には価値があるんだ」「自分は自分でいいんだ」と思わせてくれる人を、私たちは「優しい人」と感じます。

自己肯定感を高めるためには、周りの人の、このような関わりも大切ですが、自分で自分のことを認めていくことが不可欠です

周りの人が認めてくれても、自分がそれを受け入れることができなければ、生きづらいままだからです。

まずは自分のツラさに気づきましょう

そのためには、自分に優しくなる、自分を大切にすることの重要性が、もっと叫ばれていいのではないかと思います。

競争社会といわれて久しいですが、周りと比べて評価される競争は、他人の期待に応えてなんぼです。
しかも、「できて当たり前、できなければ見捨てられ仲間外れにされるかもしれない」という不安が常につきまといます。

こういう空気の中では、「できない」とは言いにくく「大変」「つらい」と助けを求めることすら「困った人、できない人」のレッテルを貼られかねません。
そうなると、自分の気持ちは押し殺さざるを得なくなります。

周りに合わせ、自分の気持ちを見て見ぬふりをして生きるのは、とても生きづらいと思います。

人生に苦しみの波は絶えませんが、私たちは決して苦しむために生まれてきたのではありません。苦しみにひたすら耐えるために生きているのでもありません。

忙しい毎日の中ではつい忘れてしまいがちですが、自分にとって、何が本当に大切なのか、少し立ち止まって考えてみる時間をとってみてはいかがでしょうか。

1人で抱え込まず、頼ることも大切です

セルフ・コンパッションは、まず「自分のツラさに気づこう」と勧めています。

私たちは忙しさのあまり、心や体が出しているSOSのサインを見過ごしていることが少なくありません。

苦しみや悩みは、自分一人で抱えなければいけない問題ではなく、共有してつながりを求めるためのきっかけです。

「大人になるということは、自分一人で何でもやろうとすることではなく、頼り上手になること」という言葉もあります。

頼ることは迷惑をかけることではありません。
ツラい時の友達こそが、本当の友達ともいわれますよね。

自己肯定感は、簡単に高まるものではありませんが、だからこそ少しずつ積み重ねていくことが大切です。

自分に優しくする種まきとは、どういうものか、次回以降、解説していきたいと思います。

 

【参考文献】
・クリスティーン・ネフ著、石村 郁夫・樫村 正美訳(2014年)『セルフ・コンパッション あるがままの自分を受け入れる』金剛出版
・SELF-COMPASSION Dr. Kristin Neff https://self-compassion.org/
・明橋大二著(2017年)『3~6歳の これで安心 子育てハッピーアドバイス』1万年堂出版
・高垣忠一郎著(2004年)『生きることと自己肯定感』新日本出版社
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