【帚木】貴族の男たちの「雨夜の品定め」
光源氏は17歳。正妻・葵の上とはぎくしゃくした仲で、ずっと継母の藤壺女御を恋慕しています。
五月雨の降り続く夜、親友で正妻の兄弟、頭中将(とうのちゅうじょう)や2人の男たちと恋愛談義になります。
有名な「雨夜の品定め」です。
貴族の女性を身分や家柄で3つに分けて、「中流層には意外に魅力的な女性が隠れている」という話になります。
その時の、「階層に分けても、時の流れの中でそれぞれの家の浮き沈みがあるから、固定したものではないだろう」という源氏の言葉は考えさせられます。
とは言いながらも、上流層の女性しか知らない光源氏は、興味津々で話を聞いていたのでした。
男たちは、出逢ったさまざまな女の話をします。
嫉妬深いけれどもひたむきに自分を愛して死んだ女、風流で好ましいと思っていたら浮気していた女、相当な才女であまりにも学問や理屈詰めで応じてくるので、辟易としてしまった女など、いろいろな体験談が披露されます。
頭中将は、ある内気で素直な女との間に娘まで儲けたのに、正妻を怖がり行方をくらました女性の話をしました。
結局、身分や容姿よりも、気立てがよくて家事や世間の付き合いを上手にこなす女性がいい、夫の浮気には「可愛いな」と思えるほどの焼きもちを焼く人が理想だ、という話で恋愛談義は終わりました。
光源氏の恋心と空蝉の憂い
翌日、光源氏は「自分も未だ知らない中流層の女に逢ってみたい」と願いながら、紀伊守(きのかみ)の邸を訪ねます。
そこには紀伊守の、老いた父の後妻になっている空蝉(うつせみ)がいました。
興味を掻き立てられる源氏は、夜、彼女の部屋に忍び入ります。
空蝉は小柄で柔らかな風情の女でしたが、なかなか手折れない。
必死になって、強引に口説き落とした源氏は、彼女の思慮深さに引き付けられるのでした。
しかしこの後、何度もアタックしますが、隠れられたり、薄い小袿だけ残して逃げられたり…。
若くて誇り高い光源氏の自尊心はこっぴどく傷つけられます。
この痛手は長らく引きずるのです。
ただ空蝉自身は、まだ独身の時であったなら…と切なく思うのですね。
美しく気高い光源氏に心は揺れても、あまりの身分の違いや、夫のある身であることを思うと、拒絶するしかなかったのです。
空蝉は父の死により入内(じゅだい)も叶わず、中流層の老いた男の後妻になった女性でした。
ままならぬ人生を憂いながらも、あるべき生き方を守って、ときめく恋心を封印したのでした。
作者の紫式部に一番近い女性ではないか、ともいわれます。
人物紹介:空蝉
衛門督(えもんのかみ)の娘。
父は入内させたかったが、早く亡くなったため伊予介の後妻となる。
光源氏との不意の一夜の逢瀬のあとは、切ない恋心との葛藤で苦しみながらも、源氏を拒みとおす。
結果的に、源氏の心に深く残る女性となった。
作者・紫式部は空蝉に自己を重ね合わせていたのでは、と言われる。
空蝉について、より詳しくお知りになりたい方は、こちらの記事をご覧ください。
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※帚木(ハハキギ)は、遠目には箒(ほうき)を立てたように見えるが、近寄ると見えなくなってしまうという伝説の木。源氏物語において、「帚木」・「空蝉」・「夕顔」の三帖をまとめて「帚木三帖」と呼ぶことがある。
※頭中将は長らく葵の上の「兄」とされてきましたが、本当は葵の上の「兄弟」としか分かりません。光源氏より4歳上の正妻の兄が、光源氏の親友、というのも合わないので、弟とする人が増えました。
源氏物語全体のあらすじはこちら
源氏物語の全体像が知りたいという方は、こちらの記事をお読みください。
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