児童虐待事件が相次いでいることを受け、3月19日、親による体罰禁止を明記した法律の改正案が閣議決定されました。
この日、『見逃さないで! 子どもの心のSOS』や『子育てハッピーアドバイス』など多くの著書がある精神科医の明橋大二氏は、テレビ朝日の報道ステーションの取材に対し、「体罰によるリスクを知る必要がある」として、3つのリスクを説明しました。
そして、「体罰はいいことだ、という考えにブレーキはない。それがエスカレートして虐待につながっていく。体罰が必要だという考え方を改めなければならない」と訴えました。
体罰が子どもに与える3つのリスクとは
東京・目黒区で船戸結愛ちゃん(当時5歳)が亡くなってから1年がたちました。
今年1月に10歳で亡くなった野田市の栗原心愛ちゃんのニュースも、記憶に新しいと思います。
虐待によって幼い命がこれ以上失われないように、3月19日に閣議決定された児童虐待防止法の改正案には、「親による体罰禁止」が明記されました。
明橋氏は、
「科学的には体罰は子どもの成長によくないことがはっきり証明されています。
(体罰を)長期的に受け続けると3つのリスクが上がるといわれています。
1つは、攻撃的になる、2つめは反社会的な行動が増える、3つめは精神疾患の発症率が上がる、うつ病とかそういうものです。
体罰を受けた子どもは、言葉や社会性の発達が後れる傾向があったともいわれています」
と言います。
体罰を長期的に受け続けると…
- 攻撃的になる
- 反社会的な行動が増える
- 精神疾患の発症率が上がる(うつ病など)
体罰を容認する人は6割もいる
また、明橋氏は、「体罰によって脳が傷ついている」とも指摘します。
前頭前野が委縮して痛みに鈍感になるため、自らを傷つけたり、扁桃体が変形して感情のコントロールができなくなることが分かっています。
国際NGOの公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが2017年に全国で行った調査によると、しつけのための体罰を容認する人は56.8%に上り、しつけのために子どもをたたくことを「すべきである」と回答した人も60.0%ありました。
これに対し、明橋氏は、
「体罰はいいことだ、体罰が必要だ、と思っている体罰にブレーキはないんですね。それがどんどんエスカレートして虐待につながっていく、ということなんです。
ですからまず、体罰は必要だと思っている考え方を、改めないといけない」
と訴えました。
初めは「しつけ」のつもりでも…
明橋氏は、著書の中でも、
多くの虐待は、「しつけのための体罰」と称して行われていることから、体罰は、虐待の温床となっているともいわれています。
(『子育てハッピーアドバイス 大好き!が伝わる ほめ方・叱り方2』)
「虐待と体罰は違う」という人がいますが、最初は軽い体罰のつもりでやっていたことがだんだんエスカレートして、虐待につながっているのです。
(『親と子の心のパイプは、うまく流れていますか?』)
と書いています。
世界に先駆け体罰を全面禁止したスウェーデンの例
また明橋氏は、著書に、世界に先駆けて体罰全面禁止の法律を制定したスウェーデンの例を紹介しています。
体罰を全面的に禁止した国では、体罰の危険性と、体罰に代わるしつけの方法を大々的に啓発した結果、体罰は激減し、それとともに虐待も確実に減少しています。
スウェーデンは世界に先駆けて、1979年に体罰全面禁止の法律を制定し、その結果、体罰を使う人の数は、約5分の1に減少しました。その結果、虐待も減少し、親と分離して社会的養護が必要となる子どもの数は3分の1減少しています。体罰をしないと、子どもが増長して、悪い行動がエスカレートするのではないか、という人もあります。しかしスウェーデンでは、若者による窃盗、薬物の使用、若者間の暴力、強姦などの犯罪が減少し、同時に若者の自殺も減少しているのです。
同様に、体罰を禁止したフィンランド、ドイツ、ニュージーランドでも、子どもを殴る、蹴るなどの暴力が、明らかに減少していることが報告されています。(『親と子の心のパイプは、うまく流れていますか?』)
子どもが健やかに育つ社会を
日本はこれまで、国連の子どもの権利委員会からも、法律で体罰を全面的に禁止すべきと何度も勧告を受けてきました。
明橋氏は長年「子どもが健やかに育つ社会を目指すなら、まず日本でも、法律で体罰を全面的に禁止すること。そしてそれに代わるしつけの方法(コモンセンス・ペアレンティング、ポジティブ・ディシプリン等)を大々的に啓発することが急務であると私は思います」と訴えてきました。
2019年3月19日、スウェーデンから遅れること40年。
日本はやっとスタート地点に立ったのです。
紹介した本