賢木の巻:危険な恋
正妻を急病で失った光源氏は、翌年、父・桐壺院とも死別しました。
その後、権力を握ったのは、朱雀帝(すざくてい)の祖父・右大臣の一族でした。
特に力を持っていたのは右大臣の娘で、帝の母親である弘徽殿大后(こきでんのおおきさき)です。
かつて、光源氏の母をいじめ抜いて死に至らしめた張本人で、当然、源氏のこともうとましく思っています。
気の弱い朱雀帝は、この母や祖父の言いなりです。
右大臣と敵対する源氏や左大臣一家の昇進はなく、右大臣側に媚びて、多くの者が光源氏から離れていきました。
そんな中で、源氏は右大臣の6番めの娘、大后の妹の朧月夜(おぼろづきよ)との危険な恋にのめり込んでいきます。
彼女は、桜の宴の夜に出会い、一夜を過ごした姫です。
光源氏との恋のために、妃として入内(じゅだい)ができなかったのですが、彼女は女官の立場で朱雀帝から寵愛を受けていました。
しかし一方で、朧月夜は心惹かれる光源氏とも宮中で密会を重ねていました。
源氏はあろうことか、朧月夜が実家に戻っている時にも、毎夜逢いに行きました。
そして、事件が起きたのです。
朧月夜との関係が発覚
季節はちょうど夏です。
いつものように源氏が朧月夜とたわむれていると、急に雷がゴロゴロと鳴り、恐ろしい勢いで雨が降りだしました。
雷を恐れて、日頃は人けのない朧月夜の閨(ねや)近くに、この晩は女房たちが身を寄せ合っています。
そのため光源氏は夜が明けても帰ることができず、おろおろとしていました。
やがて雷がやみ、小雨になった頃、突然、右大臣が娘の様子を見に来たのです。
当時は、父親といえども、成人した娘の寝室を直接訪ねてくることは考えられませんでした。
朧月夜は驚いて閨から飛び出ます。
「どうだ、変わったことはないか」
と娘を見て、今度は父がびっくり仰天。娘の衣に男物の帯がからまっているではありませんか。
「何だその帯は?中に誰がいるのだ!?」
短気な右大臣がすぐさま部屋をのぞき込むと、背の高い男がしどけなく横たわっています。
袖で顔を隠していても、その麗しい容姿から、光源氏であることは一目ではっきりと分かりました。
右大臣は激しく怒り、すぐに弘徽殿大后にすべてを話します。
これまで何かと源氏に対する恨みつらみをつのらせていた大后は、父親をはるかにしのぐ凄まじさで怒りの炎を燃え上がらせたのでした。
(かえって右大臣が、弘徽殿大后に話したことを後悔したほどです)
「私たちをバカにするにもほどがある。もう我慢ができない!」
「光源氏を都から追放してやる」
と大后は強く決心したのでした。
花散里の巻:癒しを求めて
重苦しい気持ちの光源氏は、花散里(はなちるさと)を訪ねます。
今では兄と妹のような関係になりましたが、ほっと心安らぐひとときです。
つらくて行き場のない時、訪ねる女人でした。
実は、花散里は独りの寂しさに耐えきれない時もあるのですが、そんなそぶりは全く源氏に見せないのでした。
さて、光源氏の人生は、どのようになっていくのでしょうか…。
人物紹介:花散里
光源氏の父・桐壺帝の女御であった麗景殿の女御の妹。大臣の娘と思われる。
桐壺院の死後、姉妹で光源氏の庇護を受けていた。
かつては光源氏と愛情を交わした仲であるが、兄妹のような関係になっていく。
器量はよくないが、心優しい癒し系の人。
寂しい時、慰められたい時にふと訪れる光源氏を、心を込めてもてなす。
この呼称は「橘の香をなつかしみほととぎす花散る里をたづねてぞとふ」という光源氏の歌から。
花散里について、詳しくお知りになりたい方はこちらの記事をご覧ください。
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※賢木(さかき)は、神木として植えられていたツバキ科の常緑樹です。
源氏物語全体のあらすじはこちら
源氏物語の全体像が知りたいという方は、こちらの記事をお読みください。
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