朱雀帝の嫉妬
光源氏には母親の違うきょうだいが10人います。
中でも物語に大きな影響を与えているのが、兄の朱雀帝です。
母親は右大臣の娘・弘徽殿。光源氏の母をいじめ抜いた妃たちのリーダーでした。
彼は生まれた時から「将来は帝に」と大切にされます。
優雅で温厚な性格で、容姿も端麗。しかし猛烈な教育ママに育てられたためか、大変気弱な男性に成長しました。
即位後も政治は父・桐壺院が行い、院の死後は母や祖父の言いなりでした。
そんな彼は幼い頃からいつも、弟・光源氏の引き立て役でした。
あらゆることに抜きん出た才能を発揮する源氏の前では、学問も技芸も振る舞いも、全てが精彩を欠きます。
それだけではありません。
かつて左大臣の娘を妃にと望んだものの断られ、なんと彼女は源氏の正妻に。さらには、寵愛する女官の朧月夜にも、源氏との度重なる密通が発覚したのです。
いくら温和といっても、さすがの朱雀帝も悔しい気持ちを隠せません。
月の光
源氏が朧月夜とのスキャンダルで都を追われていた頃のこと。朱雀帝は朧月夜にこう語りかけました。
「あの人<光源氏>がいないのは、実に物足りない。私以上にそう思う人も多いだろう。何につけても光が消えた気がするね」
今も源氏を恋している朧月夜の心中を察して、わざとこう言うのです。
続けて、「私が死んだら、あなたはどう思うだろう。源氏が都を離れたほどにも悲しんでもらえそうもないのが妬ましいよ」
それを聞く朧月夜は涙をぽろぽろこぼします。すかさず朱雀帝、
「さりや。いずれに落つるにか」(それごらん、どちらの男のために流す涙かな)
と聞くのでした。
源氏への嫉妬心を抑えることができなかったのですね。
譲位
源氏が帰京した後、朱雀帝は朧月夜に
「どうして私の子を生んでくれなかったのか。残念なことだ。光源氏のためには、今にも子ができるに違いないと思うと悔しい」
と言っています。
やがて朱雀帝は、在位わずか8年で、
「わが世残り少なき心地する」(自分の残された人生も短く感じられる)
と譲位を決意します。
その時、涙を流して朧月夜にこう告げました。
「この先あなたは望みどおり、源氏とよりを戻すのだろうな。けれども、彼は私ほどあなたを愛することはないだろう。それを思うと、あなたが不憫でつらい」
朧月夜は今更ながら、”朱雀帝ほど自分を思ってくれる人はいないのに、なぜ源氏とあんなスキャンダルまで起こしたのか…”と恥ずかしい気持ちで一杯になるのでした。
この後も、朱雀帝との微妙な兄弟関係が、光源氏の人生を大きく左右していきます。
源氏物語全体のあらすじはこちら
源氏物語の全体像が知りたいという方は、こちらの記事をお読みください。
話題の古典、『歎異抄』
先の見えない今、「本当に大切なものって、一体何?」という誰もがぶつかる疑問にヒントをくれる古典として、『歎異抄』が注目を集めています。
令和3年12月に発売した入門書、『歎異抄ってなんだろう』は、たちまち話題の本に。
ロングセラー『歎異抄をひらく』と合わせて、読者の皆さんから、「心が軽くなった」「生きる力が湧いてきた」という声が続々と届いています!