5割の人が関係あり?日本は水害リスク大国
昨年の7月におきた西日本豪雨の死者・行方不明者は245人で、平成時代を通じて最悪の豪雨災害となりました。
今回は「水害リスク」に焦点を当てた土地選びのポイントについて、述べたいと思います。
前回の「土砂災害遍」では、「災害の危険のある土地には住まない」という選択によって、災害から免れることを提案しました。
それは、西日本豪雨でおこった土砂災害では、「住んでいる場所が生死を分けた」シビアな事例が多発していたからです。
前回の記事はこちら
これは水害についても同じことが言えます。
しかし、「水害の危険のない土地を選ぶ」ことが現実的に可能なのか?という問題があります。
洪水氾濫域(洪水時の河川水位よりも地盤の低い区域)は日本の国土の1割程度ですが、その区域に全人口の約5割が住んでいるというショッキングな国土交通省のデータがあります。
山地の多い日本では住みやすい平地は限られており、その多くが水害の危険のある低地にあるという厳しい現実があります。
水害のリスクのない土地を選ぶのは難しいかもしれません。また、そういうリスクのある土地に現に住んでいる方も多いでしょう。
しかし、少しでもリスクの少ない土地を選んだり、努力したりすることで水害リスクを少なくすることはできます。
そのためには、その土地の「水害リスク」をよく知っておくことが重要です。
リスク防止に知っておきたい、2種類の水害
水害は、大きく分けると以下の2種類があります。
- 河川から溢れて浸水する(洪水氾濫、または外水氾濫)
- 下水道や側溝から溢れて浸水する(内水氾濫)
洪水氾濫は、大雨によって川の水位が上がり、堤防が決壊して大量の水が溢れるため、河川の周辺で広範囲にわたって甚大な被害をもたらします。
内水氾濫は、主に市街地で局所的に起こる浸水被害です。雨水が下水道や側溝に集中して排水しきれなくなることにより、浸水被害が起こります。
上記2つの他に、高潮や高波による水害もあります(これは別の記事で説明したいと思います)。
ハザードマップで分かる「洪水リスク」
河川が豪雨などによって溢れる「洪水氾濫」については、各自治体が公表する「洪水ハザードマップ」によって、危険とされている区域を知ることができます。
まずお住まいの自治体のホームページから、洪水ハザードマップをご確認ください。
または、「国土交通省ハザードマップポータルサイト」からも検索できます。
自治体や河川によっても異なりますが、洪水ハザードマップは、100年から150年に1度の確率で降る大雨を想定して作られていることが多いようです。
150年に1度と聞くと「自分の生きている間は大丈夫」と誤解される方もあるかもしれませんが、その1度が150年後に来るかもしれないし、今年来るかもしれません。
また、地球温暖化などの影響で、これからさらに豪雨は増えていくと考えられますので、決して油断はできません。
それでは福井市を例として洪水ハザードマップを見てみましょう。
これは福井市街地を流れる足羽川が、150年に1度の大雨で洪水氾濫した場合を想定しています。
地図上に色がついている部分は、すべて浸水するとされています。
福井駅も、市役所も、市街地の中心部はほとんどが浸水してしまうことが分かります。
ここで注目していただきたいのは、色の違いです。黄、緑、青などの色が、それぞれ想定される浸水の深さを表しています。
- 無色…浸水しない
- 黄…想定浸水深さ0.5m未満
- 緑…想定浸水深さ0.5~1.0m
- 薄い青…想定浸水深さ1.0~2.0m
- 濃い青…想定浸水深さ2.0~5.0m
- 紫…想定浸水深さ5.0m以上
※色分けについては、市町村やハザードマップの種類により異なる場合があります
想定されている浸水の深い場所ほど、洪水氾濫のリスクが大きいと理解されて間違いないと思います。
白地の「浸水しない」とされている場所に住むことが望ましいのはもちろんですが、諸事情で難しい場合は、次善は黄色、その次は緑色と優先順位をつけて土地選びをすることができます。
浸水深さが0.5m未満であれば、1階の床を高くして床下の基礎をしっかりしたコンクリートで造っておけば、建物の被害は免れる可能性が高いです。
しかし駐車場に置いた自家用車はダメになるかもしれません。
浸水深さが1mを超えたら大半の家は床上浸水し、家財道具だけでなく、建物そのものに大きな被害が及びます。
浸水深さが2mを超えると、2階に避難してもそれ以上に水が上がり、身に危険が及ぶことになります。
もう一つ知っていただきたいことは、色の濃い部分、想定浸水深さが深い場所ほど、浸水する頻度が高くなるということです。
たとえば150年に1度ほどでなくても、100年に1度、50年に1度程度の豪雨でも、堤防の脆弱な部分が切れて氾濫することがあるかもしれません。
その場合はハザードマップに示す浸水区域よりも狭い範囲が浸水することになり、想定浸水深さの浅い区域は浸水を免れても、色の濃い区域は浸水する可能性が高くなります。
洪水ハザードマップを見ることにより、その土地の洪水リスクは一目瞭然です。
また避難所や医療機関など災害時に必要な情報が掲載されていますので、ぜひ見ていただきたいと思います。
ゲリラ豪雨により多発する内水氾濫
内水氾濫とは、河川からの外水氾濫とは違い、主に市街地の中で局所的に起こる水害です。
短時間に強い雨が降った場合に起こりやすいため、ゲリラ豪雨が多発するようになった近年では、特に問題になっています。
河川から溢れて起こる洪水氾濫よりも、内水氾濫の被害エリアは狭く、被害の程度も小さいといえます。内水氾濫で2階まで浸水した例はほとんど聞きません。
しかし内水氾濫のおきやすい場所では、数年に1回もしくは毎年のように起きる場合もあります。
内水氾濫についてもハザードマップを作成している市町村もありますので、「国土交通省ハザードマップポータルサイト」から検索してみてください(先で紹介)。
また、内水ハザードマップがない場合、どのように判断すればよいか、以下のことを参考にしてください。
- 過去に浸水が起こったことのある場所
- 下水道、雨水排水が十分に整備されていない場所
- 周辺より土地の高さが低く水が集まりやすい場所
内水氾濫は同じ場所で繰り返し起こることが多いため、過去の浸水履歴を知ることは重要な手がかりになります。
近所に長く住まわれている方に聞くのが確実ですが、難しければ市役所の下水道課(またはそれに類する担当部局)に問い合わせるのがよいと思います。
下水道課の方は浸水被害が起こった場合、現地に駆けつけて対応していますので、どの場所で被害が出ているかを知っています。
また、雨水排水が整備されておらず、浸水に対して脆弱な場所も知っていますので、聞けば親切に教えてもらえると思います。
周辺より土地が低い場所は、昔は沼や湿地、谷筋だったところを埋め立てて宅地にしているケースがあり、周りから雨水が集まりやすい傾向にあります。
道を自分の足で歩いてみると、微妙な高低差までよく分かりますので、景色を眺めながら、調べたい土地の周辺を歩き回ってみてください。
高低差だけでなく、騒音や景観などいろいろな環境条件についても新たな発見がありますので、「お散歩調べ」はぜひおすすめします。
まとめ
- 日本は、人口の約半数が洪水被害の恐れのある場所に住んでいる水害リスク大国です
- 「洪水ハザードマップ」を見ることにより、その土地の洪水リスクは一目瞭然です
- 過去に浸水被害があった場所、雨水排水が整備されていない場所、土地の高さが低く水の集まりやすい場所などにも注意しましょう
- 水害リスクのある場所には住まないのが最善ですが、住んでいる場合でも自分の居る場所のリスクを知った上で、日頃から災害に備えて準備しておきましょう
次回は、「高潮、高波について」を予定しています。