「なんとなくダルい…」その原因は?
「体調はいかがですか?」と聞かれて、「絶好調です!」と即答できる人は、どれくらいいるでしょう?
そういう人は、おそらく半分もいないのではないでしょうか。
その理由は、身体の調子が悪いこともあれば、人間関係の悩みがあったり、身の回りのことがうまくいかなかったり、人それぞれいろいろあると思います。
「身体がダルい、重い、疲れやすい」と悩んでいる人も少なくないでしょう。
「ずっとダルいから、調子がいいってどんな状態か、もうよく分からない」
そんな人もいるかもしれませんね。
それ、もしかして「隠れ貧血」かもしれません。
検診や病院の検査で「貧血」とはいわれていなくても、「隠れ貧血」であれば倦怠感が生じる可能性があります。
裏を返せば、それは改善できる「ダルさ」かもしれません。
「隠れ貧血」って何?
貧血の3分の2以上は、鉄欠乏性貧血です。
全身に酸素を運ぶ赤血球。その材料となる鉄分が不足した状態を鉄欠乏性貧血といいます。
血をなめると鉄の味がするのは、そのためです。
炭水化物に極端に偏りがちな食事、ストレス過多などの影響もあるといわれますが、月経のある女性は特に注意が必要です。
実に、日本人女性の10人に1人(600万人)が鉄欠乏性貧血だといわれます。
さらに、貧血まではいかないけれども鉄分が不足している人も多く、そのような貧血一歩手前の状態を「潜在性鉄欠乏」といい、これを「隠れ貧血」ともいわれます。
隠れ貧血は女性の半分以上とも
貧血かどうかは「ヘモグロビン(Hb)濃度」で判断しますが、隠れ貧血は「フェリチン(貯蔵鉄)の数値」で評価します。
明らかな鉄欠乏状態であるフェリチン15 ng/ml未満の方は、日本人女性1200万人(5人に1人)以上にのぼります(平成21年国民健康・栄養調査報告による)。
年代別でみますと、20~40歳代の日本女性の40%以上と、さらに割合は高くなります。
海外の文献では、フェリチン50ng/ml以下の閉経前の女性は、鉄剤を服用することで疲労感や倦怠感が有意に改善したという報告があります。
フェリチン50ng/ml以下を隠れ貧血とすると、日本人女性の半分以上(57.3%、3000万人以上)という驚くべき数字に達します。
日本人女性は、もっと元気になる可能性を秘めているのです。
ところが、国内の多くの病院でのフェリチンの基準値は、4.0ng/ml以上とか、9.0ng/ml以上となっているようです。
これは、基準値を決める際に調べた母集団にも、多くの鉄欠乏性貧血や隠れ貧血の人が含まれていた(隠れていた)のだろうといわれています。
そのため「基準値だから大丈夫」と見逃されてしまいやすいのです。
(Thomas G. DeLoughery, Microcytic Anemia, NEJM, 2014)
貧血のいろいろな症状
ヘモグロビンは体に酸素を運ぶという重要な役割を担っています。
そのため、ヘモグロビンが減少すると、体のさまざまな臓器が酸欠状態になります。
「顔色が悪い」
「全身がだるい」
「立ちくらみ」
「動悸・息切れ」
「頭痛」
「夜になると足がムズムズする」
「氷を食べたくなる」
など、さまざまな症状となって現れます。
これらの症状は、貧血一歩手前の隠れ貧血でも生じる可能性はあります。
うつ病のカゲに隠れていることも
精神科を訪れる患者さんは、うつっぽい、元気が出ない、だるいなどさまざまな症状で悩んでいる方が多くいます。
血液検査をしてみると、フェリチンが低い方は少なくありません。
もちろん、隠れ貧血だけでうつ病を発症するとはいえませんが、影響している可能性があるということです。
体が酸欠状態で余裕がないと、精神的にも余裕がなくなり、心の病気にかかるリスクが高くなります。
体力がないときは、体の病気だけでなく、心も病気にもかかりやすいのです。
実際に鉄欠乏貧血や隠れ貧血と、うつ病の関連を指摘する研究データも発表されています。
*Shinsuke Hidese et.al, Association between iron-deficiency anemia and depression: A web-based Japanese investigation, Psychiatry Clin Neurosci. 2018
*藤川徳美著 『うつ・パニックは「鉄」不足が原因だった』光文社新書、2017年
貧血で産後うつのリスクが6割も増える
今年4月、国立成育医療研究センターから、貧血があると産後うつのリスクが約6割も増えるという調査結果が発表されました。
産後うつは10人に1人が経験しているといわれます。
「赤ちゃんをかわいく思えない」「イライラする」「わけもなく泣けてくる」「楽しいはずのことも楽しめない」など、「お母さんになったんだから」という気合いだけではどうにもできません。
産後うつの原因は、ホルモンバランスの乱れや、睡眠不足など、いろいろあるでしょう。
予防しようにも難しいこともありますが、鉄不足による貧血は予防できます。
鉄分は、赤ちゃんの脳の成長にとっても重要です。ぜひ妊娠前から鉄分摂取を意識してみてください。
*毎日新聞「産後うつ、貧血だとリスク6割増」2019年4月17日 https://mainichi.jp/articles/20190416/k00/00m/040/146000c
男性でも貧血は十分ありえます
鉄欠乏性貧血は、月経のある女性に多いのですが、男性でも注意は必要です。
男性の場合は、炭水化物多めの偏食が続いている方は要注意です。
また、胃にピロリ菌がいると、萎縮性胃炎を起こして鉄の吸収率が悪くなるといわれます。
ピロリ菌は胃がんの原因としても有名です。
検査を受けたことがない方は、消化器内科で検査を受けてみてください。
鉄分を摂るには何を食べればいいの?
実は、日本は貧血大国だといわれています。
世界的にも鉄欠乏性貧血は問題とされ、あらかじめ食品に鉄分を添加することで鉄補給対策をしている国もあります。
アメリカは小麦粉に、フィリピンは米に、中国はしょうゆに鉄分を加えています。
50カ国以上で様々な工夫がなされている中、残念ながら日本ではこうした対策がなされていません。
精神科医の藤川徳美先生は「バランスよく食べても、必要な栄養が不足しがち」と言われます。
鉄分は、たんぱく質を多く含む食品(肉、魚、卵など)に多く含まれます。
ホウレンソウやヒジキに多く含まれている、といわれていたこともありますが、これら野菜に含まれる鉄分は「非ヘム鉄」といわれ、吸収効率があまりよくありません。
肉などに含まれるヘム鉄と比べると、10分の1程度といわれます。
また、鉄はビタミンCと一緒にとると吸収がよくなります。
肉料理にレモンがついてくるのは、鉄分を効率よくとる知恵なんですね。
まとめ
「医食同源」という言葉があります。
食生活と病気の関連は、いろいろいわれていますが、精神疾患も例外ではありません。うつ病や、何となくダルい、元気がないなどの不定愁訴などの背景にも食生活の偏りがあることが少なくありません。
精神科医の奥平智之先生は「メンタルヘルスは食事から」と言われます。
たかが貧血、されど貧血。
隠れ貧血の可能性を考慮して、日々の食生活を見直し、たんぱく質を意識して摂ることで、体調や心が元気になるかもしれません。
隠れ貧血の女性が元気になれば、日本はもっと元気になるはず。
「なんとなくだるい」「元気が出ない」と悩んでいる方は、ぜひ一度確認してみてはいかがでしょうか。
【参考文献】
・Medical Note「日本女性の1000万人以上が隠れ貧血!?ヘモグロビン正常値でも疲れやすく息切れがあれば血液検査を」https://medicalnote.jp/contents/160623-002-LU
・岡田定「潜在性鉄欠乏症の診断と治療」『診断と治療』 vol.107, no.5, 2019
・奥平智之著『マンガでわかるココロの不調回復 食べてうつぬけ』主婦の友社、2017年
・藤川徳美著『薬に頼らずうつを治す方法』アチーブメント出版、2019年