夏休み明けの9月1日は、子どもの自殺が、1年でもっとも多くなる日といわれています。
少しでも悲劇を未然に防ぐために、精神科医の明橋大二先生に、ココロがほっとするラジオにメッセージを頂きました。
大きな反響を呼びましたので、その内容を記事にしてお伝えしたいと思います。
夏休み明け問題、親が気をつけることは?
突出している9月1日の子どもの自殺
――今日は、この時期、皆さんの関心が最も高いテーマについて、明橋先生に語っていただきます。それは、「夏休み明け問題」です。
夏休みが明けると、「やっと、毎日の昼食作りや宿題のサポートから解放される!」と、喜んでいる親御さんも多いと思います。私もその一人です。
しかし、夏休み明けに「学校に行きたくない」など、切実な問題が出てくる時期でもあると聞いています。実際はいかがでしょうか?
明橋:そうですね、特に一番深刻なのが、子どもの自殺です。
2015年に内閣府は、「自殺対策白書」というものを出しました。その中で、1972年から2013年までの42年間の18歳以下の自殺者数を日別に調べ、初めて公表しました。
その結果、9月1日は131人と突出していて、ほかの日の3倍近くにのぼることが分かりました。
8月31日は92人、9月2日が94人。やはり夏休み明けで、圧倒的に自殺者が多いということが発表され、非常にショッキングな数字として話題になったんですね。
実は2位は4月11日で99人、春休み明けですよね。新学期が始まった直後に増えるということです。
特に長期休みの明ける日は、子どもの自殺が増えるということで、何年か前から、「つらいときは図書館に行こう」と発信する人があったり、いろんなメッセージが話題になっています。
そういうキャンペーンが行われるようになっても、やはり夏休み明けの自殺は突出しているんです。
これは原因は明らかで、要するに学校が始まるからなんです。
例えば1学期、学校に行くのにいっぱいいっぱいだった。それでも夏休みは、ちょっとホッとできた。だけど、9月からまた学校に行かなきゃならない。
いじめを受けたりしている子は、夏休みの間、ちょっとそこから離れることができたけれども、またいじめの最前線に行かなきゃならない。そういう追いつめられた気持ちで自殺をしてしまう子がたくさんいるんですね。
これは小学生、中学生、高校生ともに、本当に毎年この時期に多くて、だからなんとかして防ぎたいと思っているんです。
子どもを守るために、注意しておきたいサインは?
――実際、子どもがどういう様子なら、注意して見ていけばいいでしょうか?具体的に「こういうことをしている場合」というようなことはありますか?
明橋:やはり、子どもは言葉ではなかなか表現できないので、表情や仕草など、そういうところに出てくるんです。
まずは8月25日を過ぎると、だんだん表情が暗くなって笑わなくなるとか、今までリビングでテレビを一緒に見ていたけれども、部屋にこもって顔を出さなくなるとか。
あるいは、もう本当に8月31日には、学校の用意を始めただけでガタガタ震えちゃうとか、泣き出すとか、そういう場合もあります。
あとは、本当に自殺を考えている場合は、身辺整理のようなことも始めるんですね。大事にしていたものを、弟に「これあげるよ」などと言ったり、今まで部屋がグチャグチャで散らかっていたのが、きれいになっていたり。どんどん大事なものを捨てて、部屋が片づいちゃっている、というような…。
親としては、「ようやくきれいになったな」と思ったりもするのですが、それが自殺のサインだということもあるんです。
ですから、主に表情と身体症状ですね。おなかが痛い、頭が痛いなど、普段と違う様子が続くようなら、相談機関にちょっと聞いてみるとか、学校に相談してみるとか、そういうことを考えていいんじゃないかなと思います。
学校だけがすべてじゃない
――実際に子どもの自殺を防ぐためには、親として、社会として、どういうことを心がけて大事にしていけばよろしいでしょうか?
明橋:日本の自殺者は一時、3万人を超えていましたけれども、いろいろなキャンペーンのおかげで、実はだんだん減ってきています。日本全体の自殺者数は、今は2万5千人ぐらいです。
ところが子どもの自殺に関していえば、むしろ増えているんですよね。先進国の中でも、これほど子どもが死んでいる国はないと言われます。
日本においては、若者の自殺というのが非常に大きな問題なんです。
その裏づけに、私の知り合いに「チャイルドライン」という子どもの無料相談を運営している人がいますが、電話をかけてくる子どもの声として、以前はいじめとか、人間関係とか、性の悩み、思春期になって体つきが変わってきたという、そういう相談が多かったんです。ところが最近、明らかに増えてきた相談がある、というのです。
それが、「死にたい」とか、「どうしたら死ねますか」「今日リストカットしました、だけど死ねませんでした。どうしたら死ねますか」というような相談です。
それほど今の若い人たちにとって、自殺が身近な状態になってしまっているんですよね。
これをどうしたら防げるのか、これが「夏休み明け」と関連しているので、私たちが考える最善の方法としては、やっぱり「学校だけが全てじゃない」、そういう考え方ですよね。
文科省傘下の幼稚園、小学校、中学校、高校を「一条校」といわれるんですけど、日本は通える学校が決まっていますよね。だけど欧米ではオールタナティブスクールといわれて、いろんな学校があるし、いろんな選択肢があるわけです。
だから、「この学校に行かなくったって、別の学校がある」と思えるのですが、日本の小中学校は、ほぼ一つしかありません。そこでいじめに遭ったら、逃れる場所はないのです。
フリースクールといっても、まだ都会にしかありませんから、結局、家に引きこもるしかない、ということになるわけです。
だからその対応として、多様な学びのあり方、あるいは多様な生き方があるんだということを、子どもたちに、もっともっと伝えていかないといけないと思うんです。
5年後の子どもの未来を見てみよう
ところが、「学校に行けない者が社会に出てやっていけるはずがない」とか、「学校にさえ行けない者が生きていけるはずがない」というように、子どもをどんどん追い込むようなことを言うわけです。
実際は決してそんなことはなく、中学3年の時点で完全不登校だった子どもの5年後を調べると、80%が仕事に行っているか、学校に行っているのです。
もちろん家庭が苦しい環境だったり、あるいはそれまでにいじめとか、トラウマになるような不快な目に遭うなど、そういうことで長引くケースはあります。
けれども、普通に支えていれば、ほとんどの子どもは元気になるし、回復していきます。そして社会に出ていくのです。
それを「学校に行けなかったら終わりだ」というようなことを大人が言うものだから、子どもは「学校行かなかったら死ぬしかない」と思ってしまうわけです。だから自殺に追い込まれていくわけですよね。
もちろん学校に行く意味は、それなりにあるとは思いますけれども、学校以外でも学ぶ方法はいくらでもあるのです。
「学校だけがすべてじゃない」
「ちゃんと成長できるし、ちゃんと大人になれる」
「死ぬぐらいだったら学校に行かなくていい」
と声を大にして伝えたいなと思います。生きていく道筋はいくらでもあります。だから大丈夫です。
――子どもが「学校、行きたくない」と言ってきたら、もちろん話はするけれども、無理に行かせるのではなく、子どもの気持ちを尊重するような対応をしたほうがいい、ということでしょうか?
明橋:そうですね、まず、子どもと話をしてみるということが大事だと思います。
どうしても行きたがらないとか、行こうとすると冷や汗が出ちゃうとか、ガクガク震えてくるとか、そんな状態ならば、無理して行かせなくていいです。やっぱり何か行けない理由があるんです。
※不登校の子どもの対応の仕方については、明橋先生の『教えて、明橋先生! 何かほかの子と違う? HSCの育て方 Q&A』に詳しいアドバイスが掲載されています。関心のある方は、ぜひお読みになってみてください。