こんにちは。国語教師の常田です。
源氏の息子・夕霧と、内大臣の娘・雲居雁の幼い恋が引き裂かれて、6年が経ちました。2人は共通の祖母、大宮に育てられていましたね。年頃になった2人。想いは成就するのでしょうか。
「梅枝の巻」「藤裏葉の巻」のあらすじを解説します。
梅枝の巻:夢破れた内大臣の怒り
光源氏39歳、太政大臣となり、栄華を極める中で、専ら頭を悩ましていたのが跡取り息子・夕霧の結婚でした。
夕霧は雲居雁一人を、長い間胸に秘めています。
わが子の行く末に悩む父親が、もう一人います。
源氏のライバル・内大臣です。内大臣とは頭中将のことです。
彼は源氏の亡き正妻・葵の上の弟で、若い頃から源氏と学問や武芸を競ってきましたが、いつも負けてばかりいました。
それでも、源氏がスキャンダルを起こして都を追われていた不遇の時期にも、友情を貫いた男気のある人物です。
そんな2人も、一族の繁栄のため、互いに娘を中宮(帝の妃のトップ)にしようと動きだした頃から、ギクシャクした仲になっていきます。
特に、6年前の出来事が、両家に大きな溝を作りました。
それは、冷泉帝に嫁がせた娘が、源氏の養女との中宮争いに敗れたことがきっかけでした。
雪辱に燃える内大臣は、もう一人の娘・雲居雁を東宮妃にしようと考えていました。
ところが、間もなく夕霧との熱愛が発覚し、夢破れてしまいます。
内大臣は怒りに任せて2人の仲を引き裂いたのでした。
娘のためならばライバルにも頭を下げる親心
時は過ぎ、内大臣の目に映る雲居雁は娘盛りです。
ますますきれいになって、このままではもったいないほど、かわいらしい様です。
誰か、いい婿はいないものかと考えてみても、今となっては夕霧が、将来最も有望な貴公子でした。
6年前のあの時、怒りを爆発させたのは、確かに悪かったかもしれない。かといって今さら謝るのもしゃくにさわる。夕霧もいつまでも意地を張っていないで、娘に求婚してくれたらいいのに…などと悶々としていました。
やがて、夕霧の元へいくつか縁談が来ているらしい、とのうわさが内大臣の耳に入ってきました。
“このままなら夕霧は別の女性と結婚してしまう、そうなれば雲居雁があまりにかわいそうだ”
ついに、強情な内大臣が、かわいい娘のためならば、とライバルに頭を下げる決意をしたのでした。
夕霧と雲居雁、恋の結実
機会はすぐに訪れました。
内大臣の母で、夕霧の祖母である大宮の、三回忌法要が営まれたのです。
夕方、庭に独りたたずむ夕霧の袖を引き、内大臣はいつになく優しく言葉をかけました。
「今日の法要を縁として、亡き母に免じて、かつての私の罪は許してくださいよ」と。
さらに数日後、自邸での宴の招待状を夕霧へ送ります。
藤の枝に結んであった手紙には、
わが宿の 藤の色こき たそがれに 尋ねやはこぬ 春のなごりを
(わが家の藤の花がひとしお色濃く見える夕暮れに、春の名残を求めていらっしゃいませんか)
と、雲居雁を藤に見立てて詠まれていました。
宴もたけなわとなった頃、内大臣は酔ったふりをして、夕霧に無理やり酒を勧めます。そして、雲居雁との結婚をとうとう許したのでした。
6年ぶりに会う雲居雁は、一層美しく成長していました。
夕霧は夢心地で彼女の手を取り、長い恋は、ここに実りました。
翌日、光源氏もこの6年越しの結婚を大いに喜び、息子の辛抱強さを褒めました。
「内大臣から折れて出たからといって、自分のほうが偉いと慢心を起こしてはならないよ」
と諭しながらも、得意な気分です。
一方、内大臣は、娘夫婦の水も漏らさぬ仲を見るにつけ、
「罪も残るまじうぞ」(何のわだかまりも残りそうにない)
という気持ちになります。
わが子が幸せなら、ライバルに頭を下げて負けを認めた無念さも消えてしまうとは、ありがたい親心ですね。
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※「梅枝」の巻名の由来は、内大臣の次男である弁少将が宴の席で催馬楽を歌ったことから。
源氏物語全体のあらすじはこちら
源氏物語の全体像が知りたいという方は、こちらの記事をお読みください。
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