信長の「人間五十年」に学ぶ人生を後悔しない秘訣
こんにちは、歴史から学ぶ人生ナビゲーターの木口です。
「人生でやりたいことはいろいろ出てくるけれど、自分が何をしたいのかいまいちはっきりしない」
そんな悩みを持つ人もあると思います。
時間やお金が無限にあれば、目についたものから手当り次第やっていけばいいかもしれませんが、現実はそうはいきません。
最後の最後で、「しまった……」と後悔を残しては残念です。
そんな悩みにヒントを与えてくれるのが、信長が好んだ『敦盛』の舞です。
信長は「人生50年」と語るその舞をこよなく愛し、平素からよく舞っていました。
信長の愛した幸若舞『敦盛』には、私たちの人生を考える上での重要なヒントがあったのです。
信長十八番の舞!「人間五十年」と謡う『敦盛』
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いや~酒の席でのカラオケも楽しいもんですな~。
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今のなんて曲?
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さだまさしの『関白宣言』です。
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あそ、お前リアルで関白になったしね。
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では私は『あゝ人生に涙あり』を。
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『人~生~楽ありゃ苦~もあるさ~』ですね。
さすが、苦労人の家康さんっぽいチョイス。
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うーん、曲一覧にないな…。
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何をお探しです?
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伝統芸能・幸若舞の『敦盛』なんだが…。
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あるわけないでしょ。
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その「敦盛」って何です?
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なんじゃ、女将は知らんのか?
信長様のおはこの舞じゃよ。
「人間五十年~」というのを聞いたことがないか?
桶狭間の戦いのときもこれを舞って出陣なされたのじゃ。
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あ!何か聞いたことがあるかも。
でもどんなのだったか…。
ぜひご披露願えませんか? -
ふん。所望とあらば舞ってやろう。
天下一の舞、とくと目に入れよ。
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待ってました! これ! 誰か鼓をもて、鼓!
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ではわたくしめが。
敦盛の舞から読み解く信長の「人生50年」の人生観
ポン… ポン…(静寂な空間に 鼓の音が響く)
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人間五十年 化天の内をくらぶれば 夢幻のごとくなり 一度生をうけ 滅せぬもののあるべきか~
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パチパチパチパチ…
いや~信長さま! やはりどでかいお人ですな~。
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世辞を言ったところで何も出んぞ。
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いえいえ、決して世辞などでは…(汗)
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わ~ありがとうございます!
私初めて見ました、何か深くて重みがあって…感激です! -
人間の一生なんぞ、たかだか50年かそこら。
実に……実に人生とは儚いものよ。
世には樹齢1000年を超える巨木もあると聞く。
いったいどれだけの人間の人生を見届けてきたことか…。
その樹から見れば、人の一生など儚く、あっという間と映っておろうなぁ。
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まことに。
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その間、金を儲けた、財を築いたといっても何事のことがあろう。
すべては夢幻。
少々人に嫌われたとて、ちっぽけなことよ。
儚い人生何をなすべきか、常に問いかけられている気がするわ。
「人生50年」の意識が信長のエネルギーに
各地に群雄が割拠する戦国時代。
尾張半国の小さな大名だった織田信長は、桶狭間の戦いで今川義元を打ち破って以降、破竹の勢いで天下統一に向かっていきます。
そんな信長が愛したのが、伝統芸能「幸若舞」のひとつ『敦盛』の一節です。
「人間五十年 化天の内をくらぶれば 夢幻のごとくなり」
ドラマでもよく出てくるので、耳にしたことのある人も多いでしょう。
本能寺の火中に消えていく時も、これを舞っていたと言われます。
信長はどんな気持ちで舞っていたのでしょう?
「人間五十年」とは、当時の寿命の長さのことです。
日本人の平均寿命が50歳を超えたのは、戦後になってから。
医学も発達していなかった当時、人生は50年も生きるのがやっとでした。
一方、化天という世界は、一日が人間界の800年にあたり、8000年の寿命があると言われます。
つまり化天の寿命は人間の世界でいうと約23億年ということになります。
日本の平均寿命は83歳で世界でも有数の長寿国ですが、平均寿命がどれだけ延びたといっても、化天の長さに比べたら、吹けば飛ぶ夢幻のような儚いものでしかありません。
小さな子どもが無邪気に遊ぶのを目にした時、ついこの前まで自分も同じことをして遊んでいた気がしたことはないでしょうか?
子どもだと思っていた人があっという間に親になり、子育てに慌ただしくしている間に時が過ぎ、気がつけば人生の黄昏時。
信長はこの舞を舞いながら、人間の命の儚さ、人生の儚さをしみじみかみしめていたのではないでしょうか。
「儚い人生、ぼやぼや生きている時間はない!」という思いが人並み外れた行動力を生み、天下統一に大きく前進できたのかもしれません。
人生は有限…。だからこそ大切なこと
「時間の有限性に気づくと、生き方が賢明になる」と言ったのは京都大学で長らく教鞭をとってきた、世界的な宗教学者カール・ベッカー氏です。
有限だと知れば、本当の使いどころを真剣に考えるようになるのではないでしょうか。
たとえば給料日前は、お金の使いどころを普段以上に考えます。
納期や課題提出が迫れば、いつも以上に時間を大切にします。
終りがあると知ったとき、本当に大事なことは何かが浮かんできます。
人生もまた、有限です。
先の『敦盛』は、こう続きます。
「一度生をうけ、滅せぬもののあるべきか」
(生を受けたならば、この世に別れを告げる日が必ずくるのだよ)
この現実を直視する時、「限りある命、本当になすべきことは何か」と問わずにおれなくなるのです。
まとめ
「自分が何をしたいのかいまいちはっきりしない」と悩んだ時は、この舞を思い出してはいかがでしょう?
いろいろやりたいことがある中、本当に大事なことは何かが見えてくることでしょう。
あまり知られていませんが、実は『敦盛』には続きがあり、最後にこう結んでいます。
「一度生をうけ、滅せぬもののあるべきか。
これを菩提の種と思ひ定めざらんは、口惜しかりき次第ぞ」
(人生の儚さを見つめず、本当になすべきことは何か考えないのは、
まことに残念なことですよ)
信長の舞は「限られた命、本当になすべきことは何か?」と私たちに問いかけているのです。
参考文献
『名将言行録 乱世を生き抜く知恵』(谷沢永一)
『戦国武将名言集』(桑田忠親)
『「爆問学問」世界が大きく開ける言葉』(知的生き方文庫)