対人関係で悩みを抱え、ストレスを感じやすい、不安な気持ちになりやすいなど、生きづらさを感じてはいないでしょうか?
その生きづらさの元をたどると、自己評価の“ゆがみ”に行き着きます。
自分に自信が持てず、周りからも低く見られていると思うことから、ストレスや不安、怖れを感じやすくなってしまうのです。
そのような生きづらさを和らげ、自信を持ち、人の目を過度に気にしないようにするには、“よい自己評価”を持つことが勧められています。
自己評価をよくする方法はおおまかに
- 自分を受け入れる
- 自分との関係をよくする
- 他人との関係をよくする
の3つに分けられます。
今回は、2つ目の「自分との関係をよくする」ための実践法をご紹介していきます。
前回の記事はこちら
自己評価をよくする最大のポイントは?
自分との関係を改善して自己評価をよくするときの最大のポイントは、「自己批判をしない」ことです。
あなたは、何かうまくいかないことがあったとき、自分で自分にダメ出しをする、自分ばかりを責めてしまうことはないでしょうか?
例えば、
「自分はダメな人間だ」
「こんなんじゃ、うまくできることなんて1つもない」
「何をしても無駄だ」
など、つい自分に厳しく言ってしまうことはあると思います。
では、そのように自分に厳しくすることは、よいことなのでしょうか?
実は、自分に厳しくしたり、自分を批判したりしても、自己の成長や向上にはつながらないのです。
低い自己評価の人が行動を起こして、たとえ成功したとしても「成功は自分の力によるものと思えない。それ偶然だ」と考えます。
また、行動した結果、仮に失敗をしたら「失敗は必然」と考え、「どうして失敗するのに、こんな行動を取ってしまったのか」と、ひらすら自分を責めて、落ち込んでしまいます。
成功しても偶然と見なし、その成功からよかった点を学ばず、失敗をしてもそれは必然だと思って失敗からも学ぼうともしない。
これでは真に自己評価は上がらず、向上はできないと分かりますね。
それなのになぜ、私たちには自分を批判してしまうのでしょうか? それも、あたかも自分を責めることが正しいことだと思い込んで…。
なぜ自己批判をしてしまうのか?
自己批判をする理由について、「交流分析」という心理療法では、“禁止令”による影響があると教えています。
禁止令とは、親が子どもに与える命令・指示のことであり、一方的に押しつける否定的なもののことです。
親から否定的な言葉を受けた経験のある方は多いと思います。
「決して自分に満足してはいけないよ」
「もっと自分に厳しくならないと、向上することはできない」
のように言われ、厳しい教育を受けた人。
さらには
「お前はダメな子だ」
「あなたは、どうせやってもうまくいかない」
などの否定的な言葉を言われ続けて育った、という方もいるでしょう。
親は親で、自分自身もそう言われて育ったという経験があり、それが正しいと思ってやっているのだと思います。
しかし言われた子どもは、それが禁止令となって心に刺さって、自分のがんばりを素直に認めることができなくなり、自分に厳しくしたり、必要以上に自分責めたりすることにつながってしまうのですね。
自分の存在そのものにも価値を感じられず、否定的になってしまうこともあるのです。
人によっては親からだけでなく、学校や職場で否定的なことを言われ、それが禁止令と同じようになってしまうこともあります。
自分の存在や努力が認められず、短所を指摘されたり、コンプレックスを刺激されたりすることで、自己評価が下がり、自己批判的になってしまうのです。
自分を批判しないための3つの実践法
親からの禁止令や、学校や職場での他人からの言葉の影響を抑え、自分への批判を防ぐにはどうすればいいのか。
その実践法を3つ、ご紹介します。
①自分に好意的になって公平な見方をする
フランスの精神科医 クリストフ・アンドレ氏は、自分を批判しないために何より大切なこととして、
「自分に好意的になる」
「公平な見方をする」
ことを挙げています。
公平な見方をし、自分に対して好意的になるためには、
- 自分の長所や、できているところを認める
- 悪いことばかりに注目をしない
ことが勧められています。
悪いことばかりに注目しないことは、「自分の悪いところから目を逸らす」ということではありません。
悪いところを認めず、見ないようにしていては、自己評価に悪い影響を与えてしまいます。
自分の悪いところ・至っていないところは認める。しかしだからといって、「だから私はダメな人間だ」と断罪しないようにする、ということなのです。
それはちょうど、「他の人に対するときのように自分を扱う」ことだといわれています。
たとえば、友人の誤りを指摘しないといけないとき、あなたはどんな言葉を使うでしょうか?
「お前はダメだ」「お前はバカだ」
のようなことは、まず言わないでしょう。
「あなたはいい人だと思うよ。でも、これについてはよくなかったんじゃないかな」と、相手の存在そのもの、人格全体を認めたうえで、具体的な行為を指摘するのではないでしょうか。
友人と接するときと同じように自分を扱う。
自分の存在そのものは肯定し、よかったところを認める。
そのうえで悪かった行為を改めようとする。
そうすることで、自分に好意的になって、公平な見方ができ、自分を無下に責めることはなくなるはずです。
②「事実」と「解釈」を区別する
自己批判は、事実と解釈を混同し、解釈を事実と思い込むことから生じる場合も多い、といわれています。
例えば、職場の人に「おはよう」と声をかけたのに、返事がなかったとします。
あなたなら、そのことをどう受け止めるでしょうか?
特に何とも思わない、という方は少ないと思います。
「私はあの人から嫌われている」
「何か怒らせるようなことをしたかもしれない」
などの考えが浮かんでくるでしょう(自然に浮かんでくる考えを“自動思考”といわれます)。
特に自己評価の低い人は、マイナスな考えになりやすく、怖れを抱いてその人との接触を避けようとしたり、後悔して自分を責めたりしてしまうのではないでしょうか。
しかし解釈(=自動思考)は正しいとは限りませんね。
むしろ自己評価の低い人の解釈は誤っていることのほうが多いと思います。
「事実と解釈は違う」ことに気づくことで、誤った考えを正すことができ、自己評価をよくすることにつながります。
事実と解釈を区別するには、「すぐに結論を出さない」ことです。
先に紹介した、挨拶をしたけれど返事がなかった例でいうと、「返事がなかったから、私は嫌われた」と、すぐに結論を出さないようにし、自動思考は間違いだと“反証”してみましょう。
「急いでいて、返事をする余裕がなかったんだ」
「あの人はそもそも、誰に対しても返事をしない不愉快な人だ」
と反証すれば、「それほど気にしなくても大丈夫」と思えるでしょう。
あるいは「何か失礼をなことをしたかも…。改めて話しかけて、聞いてみよう」と思えば、相手との接触を避けることなく、問題の解決に向けて着実に前進できますね。
自動思考そのものは、自動的にどうしても浮かんでくるものなので、なくすことはできません。
反証し、その場に適切な思考へと変化させることで、健全な感情、前向きな行動につながり、自己評価をよくしていけるでしょう。
③すぐに効果が表れることを期待しない
自分を批判しないこと、自分と距離をとって冷静に見つめることは、訓練も必要であり、時間がかかることです。
もし自己批判が、これまでずっと従ってきた禁止令にあるとすれば、そこから自由になるのは決して簡単ではないと分かりますね。
簡単に変わることを前提に実践すると、効果がなかなか得られない場合、「やっぱり自分は、どうしても自分を批判してしまうダメな人間だ」とますます自分を責め、落ち込んでしまいかねません。
だからこそ、すぐに効果が表れることを期待せずに、前回と今回、またこれからご紹介する自己評価をよくする実践法をやってみてください。
一朝一夕にはいきませんが、しかし継続して実践すれば、自己評価は着実によくなっていきます。
今回は、自分との関係をよくする実践法をお話ししてきました。
次回は、自己評価をよくするうえで避けては通れない“他人との関係”に着目した、自己評価をよくする実践法をご紹介します。
まとめ
- 自分との関係を改善するための最大のポイントは、自己批判をしないことです。自己批判をしても自己成長にはつながらず、自己評価は高まりません
- 自己批判をしてしまう原因の1つに、親などから受けた否定的な指示-禁止令-があります。禁止令が心に刺さると、自分を必要以上に厳しい目で見てしまい、自分のがんばりを素直に認めることが難しくなります
- 禁止令による影響を抑え、自分への批判を防ぐ方法が以下の3つです
- 自分に好意的になって公平な見方をする(他の人に接するように自分を扱う)
- 「事実」と「解釈」を区別する(誤った自動思考に反証する)
- すぐに効果が表れることを期待しない
【参考文献】
『自己評価メソッド』(クリストフ・アンドレ著 紀伊國屋書店)
シリーズ|安定した自信を育む心理学