質 問
来年、出産を控えています。楽しみなのと同時に、とても不安です。
子どもを生んで育てるときの心構えというか、準備があれば、教えていただきたいと思います。
答 え
子どもを生むにあたって、私がぜひしておいてほしいと思うことがあります。
それは、自分の受けた子育てを振り返る、ということです。
もっといえば、自分の受けた子育てを、一度はきちんと整理しておく、ということです。
よく、子どもを生んで初めて、親のありがたみが分かる、といいます。
実際、出産を経験すると、こんなたいへんな思いをして、親は自分をこの世に送り出してくれたのか、と初めて気づき、親の愛情に感謝する、そういうことはよくあります。
それをきっかけに、今までのわだかまりが解けて、親との関係を取り戻すことも少なくないですし、それは子どもを持ったことの副産物として、最も大きなものの一つだと思います。
ただ、だからといって、親がやってきたことも、すべて愛情から出たことで、どれも正しいことだったんだ、となってしまうと、ちょっと違うんじゃないか、と私は思うのです。
子どもながらに、親の言葉で傷ついたこと、親にたたかれて悔しかったこと、それは間違いない事実だったのです。
確かに子どもの誤解ということもあるかもしれないけれど、多くは、やはり子どもが傷ついた、嫌だったことは、親の言い方、やり方に問題があったのです。
そういうことをきちんと見つめないで、「あれは愛あるがゆえのことだったんだ」と肯定されてしまうと、おそらくまた同じことをやるでしょう。
例えば、父親に暴力をふるわれて成長する。思春期にはそういう父親にむかついて、反発して、非行に走る。ところが結婚して子どもを持つと、「あの父親の暴力は、愛情表現だったんだ」「愛があるから暴力をふるったんだ」となって、また子どもに暴力をふるう、というパターンは、よくある現象です。
私たちは大人になると、子どもの気持ちを忘れてしまいます。そして大人の都合で、正当化してしまいます。
そうなる前に、もう一度、子どもとして、自分が受けてきた子育てに関して「これはしてほしくなかった」「これは嫌だった」「これはうれしかった」ということをきちんと整理しておく、ということです。
独りで行うのが難しい場合は、専門職(カウンセラーや保健師、相談員)の助けを借りてもかまいません。
そうすれば、嫌だったことは、自分の子どもにしなくて済みますし、「してほしかったこと」「してもらってうれしかったこと」だけを子どもにすることができるようになるでしょう。
私は本当はこういうことは、高校の授業できちんとすべきだと思っていますが、それが無理なら、せめて妊娠中に、子育ての本を読みながら、自分の受けた子育てを振り返ってほしいと思うのです。