私たちが人と交流したり、行動したり、自己主張したりする元となっているのが「自己評価」です。
自己評価とは、自分で自分のことをどう思っているか、あるいは自分は他人からどう思われていると思うか、ということです。
自分に自信が持てなかったり、「人から必要とされていない。どうでもいいと思われている」と感じたりすれば、人との接触を避けたり、相手の顔色を過度にうかがって言いたいことも言えなくなったりしてしまいますね。
そのような生きづらさを和らげ、行動する勇気を得るには、“よい自己評価”を持つこと-自分に自信を持ち、人から自分は愛されていると思えること-が勧められています。
その自己評価をよくする方法を
- 自分を受け入れる
- 自分との関係をよくする
- 他人との関係をよくする
の3つに分けてご紹介しています。
今回は、3つ目の「他人との関係をよくする」ための実践法をお話しします。
“人から受け入れられないこと”と自己評価との関係
自己評価が下がってしまうときは、どんなときでしょうか?
「自分はダメな人間だ」と特に思い詰めるときとは、「人から受け入れられていない」と感じたときでしょう。
人間は社会的な動物であり、人とのつながりを重視しています。
「人から受け入れられたい」と思いますし、「人から受け入れられないこと」を恐れています。
ゆえに「人から受け入れられていない」ことは耐えかねることであり、自己評価が悪くなってしまうのですね。
いかに人から受け入れられないことが自己評価を傷つけるか、その影響を調べた、こんな実験があるそうです。
心理学実験:鏡と壁、どちらに向かって座る?
大学の心理学研究室で行われたこの実験は、まず被験者に“偽の性格テスト”を受けてもらいます。
テストが終わった後、被験者は実験者からこう告げられるのです。
残念ながら、あなたは人とうまくやっていけない性格です。晩年は孤独に生きることになるでしょう。
そして、隣の部屋に案内されます。その部屋には、中央に2脚の椅子が背を合わせて置いてあり、一方の椅子に座ると鏡、もう一方の椅子に座ると壁に向き合うように配置されています。
椅子に座って待つよう指示を受けたとき、どちらの椅子に座るかを見る、という実験です。
あなたなら、どちらの椅子に座ろうとするでしょうか?
実験によって、「あなたは人とうまくやっていけない性格」と告げられた被験者の90%の人が、鏡に背中を向けて座ったことがわかりました。
それとは反対に、同じ実験で、実験者から
あなたは人とうまくやっていける性格です。誰からも愛されて楽しく生きていけるでしょう。
と言われたグループは、「どちらの椅子に座るか特別に気にとめなかった」という結果が出たのです。
この実験から、「自分は人から受け入れられない」と思うと、自分の姿は見たくなくなるのである、と明らかになりました。
自己評価の低い人は、
- 家の中で鏡を見ないようにしている
- なるべく写真には映らないようにしている
という傾向があるため、人から受け入れない経験によって自分の姿を見たくなくなったということは、それだけ自己評価に傷がつき、自信を喪失したとわかります。
他人との関係と自己評価とは、密接な関わりがあるのですね。
人から受け入れられないことの危険な影響
実験では、「自分は人から受け入れられない存在だ」という状況が意図的につくられましたが、日常でも
- 会議の席で意見を聞いてもらえない
- メールに返事がない
- 当然と思っていた集まりに誘われない
- デートの誘いを断られる
- 仲間はずれにされる
などの、人から受け入れられない経験は誰にでもあるでしょう。
人から受け入れられないと自己評価が下がり、自信を失います。すると、自分に不利益な行動を取ってしまいます。
不利益な行動とは、高くてもろい自己評価の人の場合は、自分を受け入れなかった相手に攻撃的になり、相手を非難することで自己評価を保とうというもの。
低い自己評価の人の場合は、これ以上自己評価が傷つかないように対人関係を避け、一人でいるようにする、というものです。
そうやって相手を攻撃したり、対人関係を避けたりすれば、ますます相手から受け入れられない状況に陥ってしまい、さらに自己評価が低下することになりかねないのですね。
人から受け入れられないことは、感情にもよくない影響を及ぼします。受け入れられないことで、まず、相手に対する怒り、あるいは悲しみなどの強い感情が生じます。
その怒りや悲しみは、やがては後悔や屈辱、恨みといった、いずれもネガティブな感情となり、鬱々とした思いを引きずることになるのです。
人から受け入れられなかったとき、このような負のスパイラルにはまるのを回避し、自己評価が傷つくのを防ぐにはどうすればいいのでしょうか?
3つの対処法をご紹介します。
人から受け入れられなかったときの3つの対処法
①鏡を見る
先の心理学実験で、人から受け入れられないと鏡に映った自分の姿を見ないようになることをお話ししました。
こういうときには、反対に鏡を見るのが有効であることもわかったのです。
人から受け入れられなかった後に、鏡を見た被験者は<自分をコントロールする力>が回復した、といわれています。
鏡を見て、「自分のいいところは何か?」と考えると、「人から受け入れられなかった」マイナスを相対化できるのです。
自分のみじめな姿なんて見たくない、と思うかもしれませんが、そんなときこそ鏡を見て微笑み、自分のできているところ、認めてもらったことを振り返ってみてください。
②「思い込み」を疑い、行動する
自己評価に問題のある人は、ほかの人のちょっとした言動に「自分は受け入れられていない」と思い込みやすい、といわれています。
たとえば、話をしているときに相手がふと笑うのを見て、「バカにされたのではないか」と思ったり、誰かが別の誰かに耳打ちをしているのを見ると「自分の悪口を言っているのではないか」と思ったりしてしまうのです。
このように、無関係かもしれない2つの事柄を結びつけて悪いほうへと考えることを「関係妄想」といわれます。
実際は相手から嫌われているわけではないのに「私は受け入れられていない、嫌われている」と受け止めれば、相手に攻撃的な態度を取ったり、相手との関わりを避けたりし、そうなれば本当に相手から嫌われてしまいかねませんね。
そこで、「これは思い込みでないか?」と疑ってみて、真偽を確かめる行動に移してみましょう。
相手が自分を見て笑ったことに対しては、「私がバカにされているとは限らないのでは?思い出し笑いでもしたのだろう」と考えてみると、気持ちが少しは軽くなると思います。
そう考えてもモヤモヤが残る場合は、「なにか私のことで気になることはありましたか?」と、あえて相手に直接聞いてみましょう。
多少ハードルの高い行為ですが、「人から受け入れられないこと」からやってしまう行動と反対の行動をとることで、実は思い込みであったことがわかり、不健全な感情が生じたり、不適切な行動を防いだりすることができるのですね。
思い込みが本当だった場合は?
思い込みを疑って、真偽を確かめる行動をしたところ、本当に受け入れられていなかったこともあるかもしれません。
そうとわかれば当然ショックを受けてしまいますが、しかしこれは関係を修復できるチャンスを得たということです。自らのあやまちを認め、正すことに力を入れていきましょう。
自分ではどうしようもないことで人から受け入れられないときは「仕方ないこと」と割り切り、真偽を確かめるために起こした行動自体を素晴らしいと認めましょう。
③“スポットライト効果”を思い出す
アメリカで、人はどれくらい注目をされているものなのかを調べた実験があります。
それは、被験者に、少し引け目を感じるようなTシャツ(一世を風靡したが、今は落ち目になっている歌手の顔をプリントした服)を着てもらったうえで、他の人たちが大勢いる部屋に入ってもらうというものです。
部屋に入る前に、被験者にどのくらいの人が自分のTシャツに気づくかも予想してもらっていました。
被験者は「少なくとも50%の人がTシャツの顔に気づき、『今時、〇〇のTシャツを着ているなんて、おかしな人だ」と思うだろう」と予想をしたそうです。
ところが実際には、25%の人が「そういえば、〇〇のTシャツだった気がする」とぼんやり思い出しただけでした。
Tシャツに気づいたのは予想の半分であり、さらに気づいた人もバカにしたり、嘲ったりする様子はなかったのです。
このことから、「人は実際よりも自分が『注目を浴びている』と思ってしまう」傾向にあるとわかりました(これを”スポットライト効果”といいます)。
自分にはスポットライトが当たっているようで、実は自分の思いほど、他人は自分に注目していないとわかれば、恥ずかしい思いや不安は和らぐはずです。
「自分には厳しい視線も向けられてはいない。外からの視線は、自分が思っているよりもはるかに好意的なもの」と受け止めることで、「私は受け入れられていない」と思い込んで、孤独の殻にこもることを思いとどめてくれるでしょう。
周りの視線が気になるときほど、このスポットライト効果が出てしまっていないか、注意してみてください。
まとめ
- 私たちは人から受け入れられていないと感じると、自信を失い、自己評価が傷つきます。他人との関係と自己評価とは、密接な関係があるのです
- 人から受け入れられていないと感じると、攻撃的になったり、対人関係を避けたりするなど、不利益な行動をとってしまいます。しかしそれはさらなる受け入れられない状況をつくり出してしまうのです
- 人から受け入れられていないと感じたとき、次の3つを実行することで、自己評価が傷つくのを防げます
- 鏡を見る(傷ついたとき、自分の姿を見ると、コントロール感覚を取り戻せます)
- 「思い込み」を疑い、行動する(嫌われていると感じたとき、それは思い込みである可能性が高いです)
- “スポットライト効果”を思い出す(自分はそもそもそれほど注目されていない、外からの視線は厳しいものではない、と思いましょう)
【参考文献】
『自己評価メソッド』(クリストフ・アンドレ著 紀伊國屋書店)