今回の【産後うつ】シリーズの内容は、産後うつ予防のためだけではなく、誰にでも大切なことをご紹介したいと思います。
親も子も幸せな人生を送るために
『子育てハッピーアドバイス 妊娠・出産・赤ちゃんの巻』の冒頭に、次のようにあります。
これから親になろうとするあなたに、まず知っておいてほしいことがあります。それは、幸せな子どもを育てるために、何がいちばん大切か、ということです。
学力が大切、という人もあるでしょう。あるいは、人間としてきちんとルールを守れる子に育てたい、という人もあるでしょう。もちろんそれはとても大切なことです。
でも、幸せな人生を送るために、いちばん大切なことは、自己肯定感です。
「子が宝なら、母もまた宝」と、この本の著者である明橋先生はおっしゃいます。
子どものため、そして親自身のために、自己肯定感はとても大切です。
自己肯定感を育むために、大切なポイントはいろいろありますが、今回は「孤立しないこと、認めてくれる人を身近に持つこと」をテーマに考えてみたいと思います。
つながりを持っておく
初めてのことをするときは、誰でも、ちゃんとできていたとしても「本当にこれでいいんだろうか」「間違ってないかな」と心配になります。
愛するわが子を相手にしていても、疲れや睡眠不足がたまればイライラもするし、かわいく思えないときもあるでしょう。
それは、誰にでもある当たり前の気持ちですが、独りでいると、「そういうネガティブな感情を持つこと自体が母親失格なんじゃないか」と思ったり、「そんなことを思っちゃいけないのに」と感情を押し殺したりして、何かと無理をしがちです。
相談できる人がいないということは、「他人の意見を聞く機会がない」ということでもあります。
少し難しい言い方をすると、「自分を相対化できない」「自分の意見を絶対視してしまう」ということです。
私たちは、他人の意見を聞くことで、自分の考えや、やっていることが、それでいいのかどうか判断します。
比べる相手がいないと、なかなか自信が持てません。
比べることで、かえって自信がなくなってしまうこともあるかもしれませんが、大事なことは「いろいろな意見がある」ことを知ることです。
「いろいろな人がいるけど、みんなそれぞれなんとかやっている」という現実を目の当たりにすることで、「自分も自分でいいのかな」と思えてきます。
「思い通りにいかないこともいろいろあるよね」「お母さんも人間だもんね」と肩の力を抜けるような、そんなつながりを持てるといいのではないかな、と思います。
孤独な子育ての現実
しかし、現実はなかなか厳しいようです。
あるデータによると、親との同居率は、1963年が79.9%だったのに対し、2017年は38.4%だそうです。核家族化が進み、子どもを母親一人で面倒を見る時間が明らかに増えています。
子育てが、「個」育てとなり、「孤」育てになってきているのです。
最近、アロ・マザリング(Allo-mothering)という言葉を見かけるようになってきました。
母親以外(allo-)による養育行動(mothering)のことで、子育ての負担は、母親だけが背負うのではなく、複数の大人でシェアしていこうという考え方です。
もともと、三世帯など大家族だったり、地域のご近所づきあいが多かったころは、当たり前の考え方だったと思いますが、現代は様相がだいぶ違ってきています。
孤立は、人の心を追い込みます。
苦しいときに、その気持ちの吐き出し口がないのはさらにキツい。そのような状況では、気持ちが追いつめられるのも無理もありません。
ぜひ、ツラくなりすぎる前に、友達、保健師さん、子育て支援センターに相談したり、あるいは産婦人科や精神科などに受診してみてください。
「助けて」となかなか言えない時は
このように現代は、残念ながらお母さんが孤立しがちです。
そして、何か問題が起きてしまうと、「なんでもっと早くSOSを出さなかったんだ」と結果論でとやかく言われたりもします。
しかし、「SOSを出さなかった」のではなく、「出せなかった」のではないでしょうか。
虐待のニュースが毎日のように報道されているのを見ると、せっかく相談しても求めていた答えが返ってこなかったり、「お母さんなんだからしっかり」と根性論だけで励まされたり、それ以上SOSを出せなかった理由があったように思えてなりません。
子育てを支える社会とは、母親を支える社会です。
母親自身が相談しやすくなるためにも、SOSを出す人の気持ちについて、もっと思いをめぐらす必要があるのではないでしょうか。
『「助けて」が言えない SOSを出さない人に支援者は何ができるか』という本に、そのヒントが語られています。
私の場合、「助けて」と言える人はあまりいないのですが、「『助けて』って、なかなか言えないよね」と愚痴をこぼせる人はいます。その違いがけっこう大事だと感じました。(中略)
「助けて」と言うのは、とても勇気のいることです。「助けて」という言葉は、相手に全権をゆだねる、相手にアドバイスを強いる、もしかすると「助けて」と言うことによって辱めを受ける危険さえある、非常に障壁の高い言葉でもあります。
そうではなくて、支援者が自分を振り返りながら「『助けて』ってなかなか言えないよね」とボソッとこぼした方が、「そうだよね」が返ってきやすいのではないでしょうか。それをきっかけに「どうしようか」という関係性が切り開かれる。
(松本俊彦 編『「助けて」が言えない SOSを出さない人に支援者は何ができるか』日本評論社、2019年)
そして、次のようなつながりが理想ではないかと提案されています。
私が言いたいのは、実は「助けて」と言えないうちに助けてもらっている関係ができあがっていることが重要ではないかということです。
つまり、気づいたらつながっている関係性、依存先の存在が大事だと思うのです。
残念ながら、今の世の中はそうなっていなくて、歪んだ自立や、独り立ちを強要する社会になっているのではないでしょうか。(同上)
最後に
お母さんもお父さんも子どもも、いろいろなところとつながって、孤立する人が減っていく。
「困ったときはお互い様」がもっともっと当たり前になっていく。
社会全体で子どもの未来をはぐくむような、そんな温かい社会になっていってほしいと願っています。
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