「冬はつとめて」清少納言らしい答え
『枕草子』を記した清少納言は、皇后・定子に仕えていました。
定子は、女房(秘書役のスタッフ)たちと、ユーモアと知的センスを磨いて、文化的なサロンを築いています。
ある日、定子は、こんな問いかけをします。
「春、夏、秋、冬、それぞれの季節の中で、何がいちばん好きですか──」
清少納言は、このように答えています。
「春は、あけぼの」「夏は、夜」「秋は、夕暮れ」「冬は、早朝」と。
ここに清少納言らしい、季節の捉え方があるようです。
「冬」の寒さは、よし・わろし?
「冬は、早朝」の原文と意訳を見てみましょう。
(原文)
冬はつとめて。雪のふりたるはいうべきにあらず。霜のいとしろきも、またさらでも、いと寒きに、火などいそぎおこして、炭もてわたるもいとつきづきし。
(『枕草子』第一段)
(意訳)
「冬」は、早朝。
ぴーんと張り詰めた寒さがいい。
雪が降った日は、いうまでもありません。霜が降りた日も、そうでなくても、とにかく厳しい寒さの中、朝早くから大急ぎで火をおこし、真っ赤に燃えた炭を、あちこちの部屋へ持っていくのは、いかにも冬らしくて、いいですね。
凍りつくような、静まり返った早朝。清少納言が記す女房たちは、嬉々として働き始めます。
急いで火をおこして、真っ赤に燃えた炭を、あちこちの部屋へ持っていきます。
「あら、火がまだついていないわよ」
「そんなに慌てて、大丈夫? 転ばないようにね」
「あ〜、この部屋も暖かくなってきたわ」
「よかったー」「幸せー」などなど。
『枕草子』の行間からは、女房たちの楽しそうなおしゃべりや、笑い声が聞こえてくるようです。
「よいところ」に目を向ける
冬は寒いものです。いくら「寒い! お〜寒い」とグチっても、寒さは変わりません。
しかも朝は、気温が低ければ低いほど、なかなか布団から抜け出せないもの。
「冬の早朝ほど、嫌なものはない」と思う人が多いのではないでしょうか。
ところが清少納言は、まったく「逆」のことを書いています。
冬は早朝がいい! 寒ければ寒いほどいい! 雪が降っても、霜が降りてもいい! と、すべてが「前向き」です。
えー、どうして、そんなに前向きになれるの?
清少納言は、寒い冬をありのままに受け入れて、「よいところ」に目を向けていました。
冬の早朝、凍るような寒さに、シーンと静まり返った室内。
その寒さ、静けさが深ければ深いほど、その中、嬉々として働く女房たちの美しさ、明るさ、朗らかさが、際立って輝くのです。
嫌な「朝」を、楽しくて、ウキウキする「朝」に、転じてしまう。
千年前に書かれた『枕草子』ですが、その心意気は、今も私たちの「生きるヒント」になるようです。
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