終活をするなら自分の財産の行方も管理
終活とは、一般的に、自分の人生の終わりに向けた活動のことを指す言葉です。
しかし、本来の終活のテーマとは、終わりに向けて、自分の人生がどうすれば幸福になるか、安心満足できるか、そして輝くことができるのかということではないでしょうか。
ある哲学者は、人間は死を意識した時に初めて人間らしい生き方ができる、と言っています。
これは、年齢は関係なく、すべての人に必要なことが終活である、と示唆している言葉でしょう。
その意味での終活をテーマとして、必要な法的知識などを書いてみたいと思います。
今回は、自分が死んだら、その財産はどうなるのか、について述べることにします。
遺産が相続される基本ルールと例外
死んだらその人の財産はどうなるか、それを取り決めてあるのが、民法の相続法です。
ここで、分かりやすくするために、主人公の名前を、仮に、山田太郎さん、としておきます。
太郎さんに子どもと妻(配偶者)がいる場合、太郎さんの財産は、半分は配偶者に、半分は子どもに行きます。(図1)
子どもがおらず、配偶者しかいない場合は、大半は配偶者に行くのですが、太郎さんの両親が存命の場合、一部(3分の1)は親に行きます。
親1人当たり6分の1ずつ、ということです。(図2)
配偶者はいるものの、子はおらず親も死去している場合は兄弟に行きます(4分の1だけですが)。(図3)
兄弟はいたが既に死亡している場合は、兄弟の子どもに行きます。
では、太郎さんに妻も子どももいない場合はどうか。
兄と弟がいれば全部が折半されて兄と弟に行きます(図4)。
親族でも相続されない!?相続権には範囲がある
では、山田太郎さんが、一人っ子で妻も子どももいない場合はどうなるのでしょうか。
両親も既に他界した場合を想定しましょう。
今の時代、こういうケースは日常的に出て来ます。
親の姉弟がいる場合、つまり太郎さんに伯母叔父がいる場合、叔父さんや伯母さんに相続されるのではないか、と思っている人があります(図5の場合)。
しかしこれは、完全な誤りです。
叔父や叔母には相続権はありません。
ですから、このケースで太郎さんには、相続人はいない、ということになります。
その遺産は、いわば、宙に浮いてしまう、ということです。
相続人がいない場合、遺産はどうなるのでしょうか。
こういう場合も、民法は想定していますので、それを次に解説します。
相続人がいない…。遺産はどこへゆく?
相続人のいない遺産は、国庫に帰属します。
つまり、財務省の管理下で、国家財政に組み入れられる、ということです。
この、国庫に帰属する遺産の額が、最近の調査によると、急増しているようです。
兄弟数が減り、少子高齢化が進んでいることが原因でしょう。
ただし、これには大きく分けて、二つの例外があります。
一つは山田太郎さんが遺言書を作成していた場合、もう一つは、遺言書はないものの相続財産管理人が選任された場合です。
今回は、前者について説明します。
相続人がいない場合も遺言書があれば自由に渡せる
遺言書を作成すれば、自分の財産を好きな人や渡したい法人(会社やNPO法人、寺などの宗教法人などでも可能)に渡すことができます。
太郎さんのように、配偶者も子どももいない人については、是非、遺言書の作成をお勧めしたいです。
また、配偶者はいても子どもがいない、というご夫婦についても、お勧めしたいです。
というのも、夫婦のどちらかがいつ亡くなるかは全く分かりません。
いつ突然の病に襲われるかも分かりません。
元気なうちでないと、遺言書は書けないのです。
弁護士をしていると、遺言書がないことで生じた悲劇や、遺言書があったことで悲劇を防止できたことは、日常的にあります。
実際の例を紹介しましょう。
遺言書を書いた方がいい理由-現実の事例から
あるところに、腕のよい眼科のお医者さん(女医さんでした)がありました。
仮に、花田貴子医師としておきます。
若いころは、大きな病院でバリバリやっていましたが、やがて独立し、ある田舎町に医院を開業しました。
実はその田舎町は、学生時代からの友人で、気心の知れた、看護師の佐藤陽子さん(仮名)の実家がある町だったのです。
日本アルプスの山の峰が綺麗に見えて、空気がおいしいところで、花田医師は学生時代から何度も訪れていました。
そこで、夫と死別して身軽だった看護師の陽子さんにも声をかけ、一緒に生活しながら、その田舎町で開業することにしたのです。
血縁関係のない人に遺産を相続させたい場合は?
花田医師の腕のよさと陽子さんの明るく優しい性格が功を奏したのか、医院は大いに繁盛し、地域から信頼される眼科医院となりました。
花田医師には、結婚歴はあるものの、早い時期に離婚して、子どもはいませんでした。
兄弟やその子(甥・姪)は関西に何人かいたのですが、ほとんど付き合いはありません。
そこで花田医師は、陽子さんに対し常々、「自分の遺産は、十分な額をあなたにあげるからね」と口にしていました。
ただ、遺言書を書いたという話は出ないまま、日々の診療に追われる毎日でした。
ある日の朝方のこと、花田医師は心臓発作で急に倒れて、救急車で病院に運ばれましたが、帰らぬ人となってしまったのです。
開業して30年が経ったころで、花田医師には、約6億円の資産が形成されていました。
遺言書があるかないかで結果は大変わり
葬儀が終わり、一息ついたころ、陽子さんは、町の弁護士に相談しました。
生前からあげると言われていたが遺言書はなさそうです、こんな場合遺産は貰えるのでしょうか、と。
弁護士の答えは非情でした。
紙に書いたものがないのであれば、何ももらえませんよ、と言うのです。
陽子さんは、遺言書がないかと思い、遺品を整理しつつ、探しましたが、見つかりません。
遺産相続は諦めるしかないのか、と思っていたところ、ある日仏壇の引き出しの奥から、手書きの遺言書らしきものが出て来たのです。
見ると、遺産は、兄弟や社会福祉法人にも渡すが、陽子さんにも6分の1を渡す、という内容が書かれていました。
再度弁護士に相談したところ、有効な遺言書である、との返事。
遺言書がなければ、遺産は全部兄弟に行くところでしたので、陽子さんは、報われる思いでした。
まとめ
遺言書によって、自分の財産を、死後、自分の渡したい人に渡すことができます。
ただ、幾ら気持ちがあっても、遺言書を書かないと、渡したい人に渡すことができなくなります。
私たちは、いつ、急の災害や事故や病気に襲われるか分かりません。
コロナウイルスも猛威を振るっています。
ですから、思い立ったその時に遺言書を作成することをお勧めしたいです。
自分で手書きで全部書いて、日付を入れて署名押印するだけで、有効な遺言書ができます。
遺言書については、機会があれば、また、詳しく説明したいと思います。
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