心理学の新しい分野が「ポジティブ心理学」です。
ポジティブ心理学では「幸福」に関する研究が進められています。
通常の生活を送っている人がいまより幸せになることで、仕事や人間関係もうまくいき、より幸福な生活を送ることができる、と教えられているのです。
反対に、過剰にネガティブな気持ちを持ち続けていると、自分の持ちうる能力が発揮できず、仕事や人間関係でも支障をきたすようになります。また、悲観的な考えは周囲にも伝染し、悪影響が出てしまうのです。
過剰なネガティブ感情をコントロールし、ポジティブ感情を増やして、より幸福な生活を送るためにどうすればいいのか。すぐに実践可能な方法を続けてご紹介しています。
前回は、物事のポジティブな面に注目して自信を高め、周囲へ感謝の気持ちを持てるようになる“ポジティブ脳”のつくり方をご紹介しました。
前回の記事はこちら
今回は、苦境にぶつかって大きなプレッシャーを感じたときに、そのプレッシャーを乗り越えるためには、私たちはどこに力を注ぐべきなのか、エネルギーの投資先についてお話ししていきます。
強いストレス、大きなプレッシャーを感じたときに取るべき行動とは?
これまでに経験したことのない非常に困難な仕事を任されたり、仕事の締切が迫ったりしてプレッシャーが増し始めると、あなたはどのような行動を取られるでしょうか。
たとえば、とにかく時間が惜しくて、いつもは同僚と食べるランチをデスクで急いで食べたり、遅くまで残業して週末も出勤したり、仕事仲間や家族との会話の時間も煩わしくなってぶっきらぼうな態度を取ってしまったりしたことがあったかもしれません。
ストレスを抱えるほど、人から離れて、やるべきことを終わらせようとするでしょう。
ところがそのような行動を取っていると、困難を乗り越える前に力尽きてしまうか、なんとか苦難を乗り切ったとしても心身ともに疲れ切って次の作業には取りかかれない、ということになりかねません。
将来の成功と、心身の健全にとって大事な仲間を失うことになってしまうのです。
ポジティブ心理学者のショーン・エイカー氏は、困難を乗り越えて幸福と成功を得ている人は、実は反対の行動を取っているといわれています。
- 内向きに引きこもるのではなく、周囲の人々との結びつきをさらに強める
- 人間関係を切り捨てるのではなく、信頼関係の構築に時間を使う
意識的にこのようなことを行っているのです。いわば、ソーシャル(人とのつながり)へ投資を行っているのですね。
私たちに幸福感や健康、成功などの最大のリターンをもたらしてくれる投資先は、「周囲の人間関係」なのです。
最も幸福で豊かな人と、そうでない人との決定的な違いとは
周囲の人間関係への投資がいかに重要かを示す研究・実験は多く存在します。
その1つが「ハーバードメン研究」です。
これは、1930年後半にハーバード大学に入学した2686人の男子学生を、現在に至るまで(参考文献では2014年時点まで)追跡している研究です。
このハーバードメン研究によって、最も幸せで豊かな人と、そうでない人の違いを特定することに成功しました。
この研究を40年間指揮してきた心理学者のジョージ・バイヤン氏は「研究によって得られた発見を一言で言えば『◯』に尽きる」といわれています。
◯には何が当てはまると思いますか。
答えは「愛」だといわれています。人間関係を育むことによって生まれる愛が、人びとを最も幸せで豊かにしてくれるのです。
「そんなことはわざわざ言われなくてもわかる。金や地位よりも、愛情こそ豊かな人生には必要だ」と思われる方もいるかもしれませんが、大規模かつ長期的な研究による裏づけがあると、改めて人間関係の重要性が知らされますね。
また、最も幸せな上位10%に入る人たちの特質(共通点)を調べた「非常に幸福な人々」という名の研究により、最も幸せな人々を、その他の人たちから区別している特質はたった1つとわかりました。
それは温暖な気候の土地に住んでいることなのか、
経済的に裕福なことなのか、
あるいは健康に恵まれていることなのか…。
そのいずれでもなく、答えは「強固な人間関係」にあったのです。
信頼できる人間関係がもたらす素晴らしい恩恵
先で紹介したハーバードメン研究により、
信頼できる人間関係によって、
- 感情的・知的・身体的リソースを何倍にする
- 挫折から早く立ち直させる
- 多くを成し遂げさせる
- 人生の意義をより多く感じさせる
など、健康面でも幸福感でも、仕事上の成功においても、さまざまな素晴らしい効果が得られるとわかりました。
大きなプレッシャーを感じたり、強いストレスにさらされたときこそソーシャルに投資することで、重圧やストレスが緩和し、活力がみなぎり、生産性も上がり、困難も乗り越えて自己成長も成し遂げられるのだとわかります。
ゆえに、つらいときこそ人間関係に投資をしている人は幸福感が高く、成功できるのですね。
アメリカの調査会社ギャラップによる、世界各国の1000万人(!)の社員を対象にした調査においても、仕事上の成功と人間関係との、密なつながりが見られます。
対象者に「私の上司、あるいは同僚が、自分を一人の人間として気にかけてくれていると思うか?」とたずねました。
質問に対して「イエス」と答えた人は、そうでない人より生産的で、会社の利益により大きく貢献し、会社にとどまる率もはるかに高かったといわれています。
心をかけてくれる人の存在は幸福、健康、仕事面、いずれにもおいても良い結果と結びついていくのですね。
上質なつながりを持つ方法-短時間のふれ合いでも、双方の気力が充実する
では、信頼できる人間関係-上質はつながり-を持つにはどうすればいいのでしょうか。
「そのような強固な人間関係など、職場やコミュニティで簡単につくれそうにない。自分には難しい」と思われるかもしれません。
長時間かけて、深い信頼関係を築くことに越したことはありませんが、人との関わりは深いものでなくても、たとえ短時間のふれ合いでも「上質なつながり」になり得る、といわれています。
ミシガン大学ビジネススクールの心理学者 ジェーン・ダットン氏は、
- ひとときの会話
- 1通のメールのやり取り
- 会議中での気遣い
が、双方に気力の充実を感じさせ、足取りを軽くし、行動の幅を広げるといわれています。
ほんの少しでの気遣いであっても、されたほうも、実行したほうも幸福感が得られ、視野も広がり、さらなる良好なコミュニケーションにつながっていくのですね。
より相手との絆が強まる、会話・メールの3つのポイントをご紹介します。
①人と目を合わせる
神経科学の研究によって、“人と目を合わせる”と、脳にある種の信号が送られ、共感や信頼感の生まれることがわかっています。
反対にファビング(会話中にスマホなどのモバイル端末に目をやる)は人間関係を破壊する最たる行為だといわれています。
ひとときの会話をするときは、ひとときだからこそ相手の目を見て話す、それプラス質問をしたり、仕事と関係のないことを持ち出してみたりすると、短い時間でも相手との絆を深めることができるでしょう。
②よい出来事の反応の仕方に気をつける
相手との絆を深めることは資本化(キャピタライゼーション)といわれます。それには、よいできごとを人と共有することが勧められています。
その際に大事なことは、相手のよいニュースにどう反応するか、ということです。
心理学者シェリー・ゲーブル氏の研究によると、人間関係にプラスに働くのは「肯定的で発展的な反応」のみだといわれています。
肯定的で発展的な反応とは、情熱的な支持(それはよかったね!素晴らしい!)+具体的なコメント(あなたの努力が認められて嬉しい)+関連した質問(それはいつから始まるの?)、というものです。
それ以外の反応はすべて人願関係にマイナスです。無視するのはもってのほかですが、消極的な反応(へぇ、という気のない返事)は否定的な反応と同じくらい人願関係に有害とさえいわれています。
相手のよい知らせを聞いたときは、ぜひ肯定的で発展的な反応を見せ、ともに喜びを分かち合いましょう。
③2分間の感謝メールを送る
ポジティブ心理学者のショーン・エイカー氏は、毎朝仕事を始める前に、2分間をとって、友人、家族、同僚などに賞賛や感謝のメールを書いているそうです。
それが人間関係を強固なものにする、といわれています。
感謝のメールは受け取ったほうも喜び、メールを送ったほうも自分自身を肯定することにもなって幸せな気分に浸れて、絆が強まるのですね。
2分間と時間を区切ることで、取り組む際の重荷を減らし、感謝すべきことやポジティブな面にいち早く目を向けるエクササイズにもなります。ぜひ習慣化してみください。
まとめ
- 多くの仕事、重要な仕事を抱え、プレッシャー・ストレスが増し始めると、多くの人は他者から離れて こもりがちになりますが、実はそんなときこそ人とのつながりに投資することで、困難を乗り越えやすくなるのです
- 数多くの心理学研究・実験によって、周囲とのつながりを持ってこそ幸福な人生を送れることがわかっています。信頼できる人間関係はリソースを何倍にもして、挫折からも早く立ち直らせ、人生の意義をも感じさせてくれるのです
- 短時間のふれ合いでも、人との上質なつながりは得られます。より絆が強まるポイントとして、以下の3つをご紹介しました
- 人と目を合わせる-共感や信頼感が生じます
- よい出来事の反応の仕方に気をつける-「肯定的で発展的な反応」を意識しましょう
- 2分間の感謝メールを送る
【参考文献】
『幸福優位 7つの法則』(ショーン・エイカー著 徳間書店)