一日、一番、自分の相撲を取る
大相撲七月場所は、千秋楽に照ノ富士(てるのふじ)関が見事な復活優勝を果たしました。優勝を決めた時の、照ノ富士関の感無量の表情には、大関から陥落し、序二段から勝ち上がって2度目の幕内優勝を果たすまでの、人知れぬ苦労と努力がにじみ出ているなぁ……、と思いました。素晴らしかったです。
また横綱、大関が休場する中、新大関の朝乃山(あさのやま)、両関脇の正代(しょうだい)、御嶽海(みたけうみ)の3人が3敗で並び、2敗の照ノ富士を追う優勝争いは、千秋楽まで目が離せない展開に。
相撲をあまり知らない私でも、勝負の世界の厳しさや、面白さを感じて、ハラハラ、ドキドキ、楽しめました。
取組後のインタビューでは、こんなコメントが多く、印象に残りました。
それは、「一日、一番、自分の相撲を取るだけ」。
もしかして、これが勝つポイントなのでしょうか?
『徒然草』の110段には、「勝負に勝つ秘訣」について書かれています。
木村耕一さんの意訳でどうぞ。
勝負に勝つ秘訣は?「勝とうと思わないことです」
(意訳)
「双六(すごろく)の名人」といわれている人に、勝負に勝つ秘訣を尋ねると、こう答えてくれました。
「勝とうと思ってはいけません。負けないようにする気持ちが大切なのです。どの方法を採ると最も早く負けるかを考えて、少しでも遅く負ける方法を選んでいくと、勝てるのです」
いかにも道を究めた人の教えです。
勝とうとする焦りが、冷静さを失わせ、大きな失敗につながるのです。
私たちの日常の行いにも通じるものがあります。
国を治め、平和を維持する心得も同じだと思います。
(原文)
勝たんとうつべからず、負けじとうつべきなり。(第110段)
(『こころ彩る徒然草』より 木村耕一 著 イラスト 黒澤葵)
自分のやるべきことをやる
木村さん、ありがとうございました。
なんと! 「勝とう」とすると、「負け」てしまうんですね。これは勉強になります。
たしかに、「勝とう」とする焦りで、自分自身を見失ってしまうのかもしれませんね。
だから「負ける自分」だと自覚して、一つ、一つ、負けないように手を打っていく心がけが、大事なんだと分かりました。
これは「一日、一番、自分の相撲を取るだけ」という力士の言葉にも通じるように思います。
「相手に勝とう」とするのではなく、自分の力量を知り、自分のやるべきことをやる。
その一番、一番の積み重ねで、「勝ち越し」や「優勝」という結果がついてくるのだと知らされました。
兼好さんの言われるとおり、これは勝負の世界だけではなく、日常生活にも通じると思います。
何か嫌なことがあると、ついつい周りの人に目が向いて、「あの人に、もっとこうしてほしいのに……」と思いがちではないでしょうか。
「他人を変えよう」と思ってもムリ、ムリ。
相手に「こうしてほしい」と言えば言うほど、関係がギクシャクしてしまうこともあります。
そうではなく、まず、自分を変える。
自分を知り、自分のやるべきことを、一つ、一つやっていく。
その積み重ねが、幸せへとつながっていくんですね。
古典からの生きるヒントは、深かった!
兼好さんと、濃いめのお茶で、いっぷくしたくなりました。
意訳とイラストでよくわかる!
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