「親子の絆」に改めて気づく、コロナ禍の夏
いつもと違う、今年のお盆。
帰省しようか、やめようかと、悩まれた方も多いのではないでしょうか。
3密を避けなければならないご時世。でも、かれこれ半年以上も顔を合わせていないから、さすがに心配になるし、オンライン帰省といっても、両親には難しいし……、などなど。
「親子の絆」に改めて気づく、コロナ禍の夏かもしれません。
今回は、「親の心」を感じる昔話を、木村耕一さんの意訳でどうぞ。
長者と貧乏人の「宝比べ」
この世で一番の宝は、何だろうか。
長者と貧乏人が「宝比べ」をした話が、山梨県に伝わっている。
昔、国中の宝を集めている長者がいた。誰にでも見せびらかして、
「どうだ、すごいだろう!」
と、威張ってばかりいる。
ある日、貧乏な男が長者の家へ行った。
すると、長者は、いつもの癖が出て、
「ワシの持っている宝物は、この国で一番じゃ……」
と自慢話を始めた。
「それじゃ、一度、見せてくださいませんか」
「いいだろう。こっちへ来なさい」
キラキラと、まばゆい光を放つ、長者の宝
長者は自信満々である。財宝が詰まった蔵の前へ、男を連れて行った。蔵は、7つもある。
「いいか、びっくりするなよ。ここは金銀の蔵だ……」
扉を開けると、キラキラと、まばゆい光が、目に飛び込んでくる。
「次の蔵は、珊瑚や瑪瑙、宝石……」
「ここには、書や絵画などの芸術作品……」
長者は、次々に蔵の扉を開けて、
「どうじゃ、こんな素晴らしい宝物は見たことがなかろう」
と、男を見下ろした。
ところが、貧乏な男は、
「なかなか結構なお宝でございます」
と、淡々と言って頭を下げるだけ。少しも驚くふうがない。
長者は、ムッとして、
「おまえの家にも、宝はあるのか」
と突っ込んだ。すると、男は、
「はい、ございます。世界中の宝を残らずひとまとめにしてあります」
と、ニコニコ笑っている。
からかわれたと思った長者は、腹を立ててしまった。
「それじゃ、その宝を見せてもらおう。どちらが世界一か、比べてみようじゃないか。どうだ。見せられるか」
「ああ、おやすいことです。いつでもお越しください」
「私の宝は、年々成長し、ますます良くなっていきます」
長者は、貧乏な男の家を訪ねた。予想以上に汚い家で、障子は裂け、壁は落ち、畳は真っ黒に変色している。奥さんが出してくれた茶も、茶碗が欠けているので飲む気がしない。
「お茶はいらんから、早く宝物を見せてくれ」
「では、こちらへ」
長者は、汚い座敷へ案内された。
「準備をする間、しばらくお待ちください」
台所の方で、親と子がキャアキャア言いながら騒いでいるのが聞こえてくる。何やら楽しそうな雰囲気である。
「ああ、子供がいるのか。うらやましい……」
実は、長者には、一人も子供がなかったのである。
やがて、貧乏夫婦は、7人の男の子に、そろいの浴衣を着せて、座敷の長者の前に連れ出し、お辞儀をさせた。
「我が家の宝というのは、これでございます。たとえ、世界中の宝を持ってこられても、この7人の宝物だけは売ることができません。あなたが7つの蔵すべての宝と交換してほしいと言われても、お断りします。
だいたい、あなたの宝は、何年たっても、今より良くなることがないじゃありませんか。しかし私の宝は、年々成長し、ますます良くなっていきます。この可愛さ、将来を思う楽しさ、何物にもかえられません。子供は、この世で一番の宝です!」
さすがの長者も、一言も返すことができず、すごすごと家へ帰ったのであった。
「山ほどの宝はあっても、我が子に勝る宝はない」
これは昔から変わらない親心である。
(『新装版 親のこころ2』より 木村耕一 編著)
親へ、子へ、思いをつづってみませんか
木村さん、ありがとうございました。
「子供は、この世で一番の宝です 」との親心は、ありがたいです。
今年は3密回避のため、花火大会などのイベントが中止され、夏の思い出作りが難しくなってしまいました。また、飛沫感染予防のために、親族が一堂に会して食卓を囲むことも躊躇されますよね。
とにかく、ステイホーム。
時間があるので、アルバムの整理をしました。
子供の頃に連れて行ってもらった、夏休みの旅行。
海やプールで浮き輪にしがみつく。思い切り外れているスイカ割り。
動物園で出てきた小象に乗せられて、引きつった顔。
ソフトクリームを口の周りにいっぱいつけてのピースサイン。
1枚、1枚の写真には、大事に育ててくれた親心があふれていました。
あれもしたい! これもしたい!と、飛び回って、忙しくしていた今までの夏。
今年はちょっと立ち止まって、親子の絆を考える時間ができたのかもしれません。
今までにない、特別なお盆に、親への思い、子どもへの願いをつづってみませんか。
★「長者と貧乏人の『宝比べ』」を掲載している『新装版 親のこころ2』のお求めは、こちらからどうぞ。
http://ombooks.jp/SHOP/1M0056.html
★大きな文字で読みやすい。美しい写真と書も楽しめる、オールカラー、ハードカバー版はこちら。
http://ombooks.jp/SHOP/1M0011.html