日本人なら知っておきたい 意訳で楽しむ古典シリーズ #43

  1. 人生

「山ほどの宝はあっても、我が子に勝る宝はない」 昔から変わらない親心〜山梨県に伝わる昔話

「親子の絆」に改めて気づく、コロナ禍の夏

いつもと違う、今年のお盆。
帰省しようか、やめようかと、悩まれた方も多いのではないでしょうか。
3密を避けなければならないご時世。でも、かれこれ半年以上も顔を合わせていないから、さすがに心配になるし、オンライン帰省といっても、両親には難しいし……、などなど。
「親子の絆」に改めて気づく、コロナ禍の夏かもしれません。
今回は、「親の心」を感じる昔話を、木村耕一さんの意訳でどうぞ。

「山ほどの宝はあっても、我が子に勝る宝はない」 昔から変わらない親心〜山梨県に伝わる昔話の画像1

長者と貧乏人の「宝比べ」

この世で一番の宝は、何だろうか。
長者と貧乏人が「宝比べ」をした話が、山梨県に伝わっている。

昔、国中の宝を集めている長者がいた。誰にでも見せびらかして、
「どうだ、すごいだろう!」
と、威張ってばかりいる。
ある日、貧乏な男が長者の家へ行った。
すると、長者は、いつもの癖が出て、
「ワシの持っている宝物は、この国で一番じゃ……」
と自慢話を始めた。
「それじゃ、一度、見せてくださいませんか」
「いいだろう。こっちへ来なさい」

キラキラと、まばゆい光を放つ、長者の宝

長者は自信満々である。財宝が詰まった蔵の前へ、男を連れて行った。蔵は、7つもある。
「いいか、びっくりするなよ。ここは金銀の蔵だ……」
扉を開けると、キラキラと、まばゆい光が、目に飛び込んでくる。
「次の蔵は、珊瑚や瑪瑙、宝石……」
「ここには、書や絵画などの芸術作品……」
長者は、次々に蔵の扉を開けて、
「どうじゃ、こんな素晴らしい宝物は見たことがなかろう」
と、男を見下ろした。

ところが、貧乏な男は、
「なかなか結構なお宝でございます」
と、淡々と言って頭を下げるだけ。少しも驚くふうがない。

長者は、ムッとして、
「おまえの家にも、宝はあるのか」
と突っ込んだ。すると、男は、
「はい、ございます。世界中の宝を残らずひとまとめにしてあります」
と、ニコニコ笑っている。
からかわれたと思った長者は、腹を立ててしまった。
「それじゃ、その宝を見せてもらおう。どちらが世界一か、比べてみようじゃないか。どうだ。見せられるか」
「ああ、おやすいことです。いつでもお越しください」

「私の宝は、年々成長し、ますます良くなっていきます」

長者は、貧乏な男の家を訪ねた。予想以上に汚い家で、障子は裂け、壁は落ち、畳は真っ黒に変色している。奥さんが出してくれた茶も、茶碗が欠けているので飲む気がしない。
「お茶はいらんから、早く宝物を見せてくれ」
「では、こちらへ」
長者は、汚い座敷へ案内された。
「準備をする間、しばらくお待ちください」

台所の方で、親と子がキャアキャア言いながら騒いでいるのが聞こえてくる。何やら楽しそうな雰囲気である。
「ああ、子供がいるのか。うらやましい……」
実は、長者には、一人も子供がなかったのである。

やがて、貧乏夫婦は、7人の男の子に、そろいの浴衣を着せて、座敷の長者の前に連れ出し、お辞儀をさせた。

「我が家の宝というのは、これでございます。たとえ、世界中の宝を持ってこられても、この7人の宝物だけは売ることができません。あなたが7つの蔵すべての宝と交換してほしいと言われても、お断りします。
だいたい、あなたの宝は、何年たっても、今より良くなることがないじゃありませんか。しかし私の宝は、年々成長し、ますます良くなっていきます。この可愛さ、将来を思う楽しさ、何物にもかえられません。子供は、この世で一番の宝です!」

さすがの長者も、一言も返すことができず、すごすごと家へ帰ったのであった。

「山ほどの宝はあっても、我が子に勝る宝はない」
これは昔から変わらない親心である。

(『新装版 親のこころ2』より 木村耕一 編著)

「山ほどの宝はあっても、我が子に勝る宝はない」 昔から変わらない親心〜山梨県に伝わる昔話の画像2

親へ、子へ、思いをつづってみませんか

木村さん、ありがとうございました。
「子供は、この世で一番の宝です 」との親心は、ありがたいです。

今年は3密回避のため、花火大会などのイベントが中止され、夏の思い出作りが難しくなってしまいました。また、飛沫感染予防のために、親族が一堂に会して食卓を囲むことも躊躇されますよね。
とにかく、ステイホーム。
時間があるので、アルバムの整理をしました。
子供の頃に連れて行ってもらった、夏休みの旅行。
海やプールで浮き輪にしがみつく。思い切り外れているスイカ割り。
動物園で出てきた小象に乗せられて、引きつった顔。
ソフトクリームを口の周りにいっぱいつけてのピースサイン。
1枚、1枚の写真には、大事に育ててくれた親心があふれていました。

あれもしたい! これもしたい!と、飛び回って、忙しくしていた今までの夏。
今年はちょっと立ち止まって、親子の絆を考える時間ができたのかもしれません。
今までにない、特別なお盆に、親への思い、子どもへの願いをつづってみませんか。

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