防災の日は、災害について考えよう
9月1日は、防災の日です。
大正12年に関東大震災が発生した9月1日にちなんで、昭和35年に制定されたそうですね。
子供の頃、祖母から「関東大震災の時は、倒れてきたタンスとタンスの間にいて、助かった」と聞き、おばあちゃん、死ななくてよかった、地震は怖いな、と思いました。
『方丈記』の中には、「恐れの中に恐るべかりけるは、ただ地震なりけり」(最も恐ろしいものは地震だ)と書かれています。
防災週間の今回は、鴨長明さんと一緒に、災害について考えたいと思います。
鴨長明さんに聞く
木村耕一さんは『こころに響く方丈記』の執筆で、方丈石を取材した時、タイムスリップしたようです。
鴨長明さんに会いに行ってみましょう!
(木村)「おや、どこかから、音楽が聞こえてくるぞ」
方丈石の辺りからです。
しかも、石の上に、小さな家が建っています。
縁側に腰掛けている男性が、琵琶を弾きながら、
「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず……」
と口ずさんでいるではありませんか。
「あなたは、鴨長明さんですか」
(長明)「そうですが、あなたは?」
(木村)「はい、『方丈記』の愛読者です。800年後の日本でも人気ですよ」
(長明)「そんな未来から……。珍しい客人だ」
(木村)「長明さんは、京都を襲った五大災害を詳しく書いておられましたね。実は、私の時代にも大地震の被害が続いているのです」
(長明)「日本は、地震の多い国ですからね」
(木村)「東日本大震災が起きてから、『方丈記』が、再び注目されているんですよ」
(長明)「ほう……、どうして?」
(木村)「『恐れの中に恐るべかりけるは、ただ地震なりけり』(最も恐ろしいものは地震だ)と、ズバリ書かれているからです。新聞の記事にも、よく引用されました。この言葉が、皆の心に、ぴったり合ったのです」
(長明)「そうですか……。でも、もっと深く読んでもらいたいのですが……」
(木村)「え、もっと深く、ですか……」
(長明)「はい。その言葉の直後に、最も大事なことを書いたはずです」
(木村)大地震の章を読み返してみました。
「分かりました。これですね。『月日重なり、年経にし後は、ことばにかけて言い出ずる人だになし』」
(長明)「そうです。年数がたつにつれて、地震があったことさえ、言葉に出して言う人がいなくなりました……。これは、悲しいことです」
風化させてはいけないとは
(木村)「私の時代でも、『震災の記憶が風化しないように』と叫ばれています」
(長明)「『風化させてはいけない』とは、どういうことだと思っていますか」
(木村)「完全に復興していないことを忘れないようにしよう、これから起きる災害への対策を万全にしていこう、ということでしょうか」
(長明)「そのとおりですね。被災された方の心の傷は癒えることがありません。過去の出来事と位置づけずに、必要な対策を講じていくことが大切です。それらを行ったうえで、もう一歩、進んで、自分の問題として受け止めてほしいのです」
(木村)「自分の問題?」
自分の足元を見つめる
(長明)「家を建てようとしている人は、やがて、この大地が、崩れたり、激しく揺れたりすると思っているでしょうか。『そんなこと、あるはずがない』と、固く信じている人ばかりではないでしょうか」
(木村)「はい、固く信じないと、生涯働いてためたお金を使って、家を建てる決心はできません」
(長明)「でも、それは淡い期待ですよ。どこにも保証がありません。いつ、どこで大地震が起きるか、誰にも分からないのですから」
(木村)「だけど、そんなことを心配していたら、何もできませんよ」
(長明)「それは逆だと思います。幸せへ向かって、積極的に行動するために、まず、自分の足元を見つめましょう、事実を事実と認めましょう、と言っているのです」
(木村)「これは、生き方を考えるうえで、死角をついた問題提起ですね。自分の人生を、考え直す必要に迫られます。『方丈記』が800年間も読み継がれ、多くの人に影響を与えている理由は、ここにあるのですね」
(『こころに響く方丈記』より 木村耕一 著 イラスト 黒澤葵)
これからの生き方のヒントに
長明さん、木村さん、ありがとうございました。
できれば考えたくない、目を背けたいのが災害ですが、いつ、どこで被災するか分からないのが現実です。それをいたずらに恐れるのではなく、自分の生きている場所がどんなところなのか、正しく知って、前向きな対策を考えていくことが、幸せへとつながっていくのですね。
災害と共に生き抜いてきた先人の知恵が、『方丈記』にあふれているようです。
意訳とイラストでよくわかる!
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