こんにちは。国語教師の常田です。
素敵な二人の男性に愛される女性が羨ましい!という人がたまにありますが、果たしてどうなのでしょう。
今回は、浮舟の巻のあらすじを解説します。
浮舟のもとに赴いた匂の宮
転々とさすらい生きてきた浮舟は、都の大貴族である薫と結ばれ、宇治の山荘で暮らし始めました。
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「源氏物語」最後のヒロイン・浮舟とは?読む人を魅了するその半生【東屋の巻】
しかし、薫は世間の目や身分の高い正妻のことが気になり、なかなか宇治の浮舟の元には通ってきません。
“もう私は、見捨てられたのかもしれない…。”
浮舟が寂しく過ごしていたある夜、久々に男が暗闇の閨に入ってきて、寄り添ってきました。
堂々とこんなことができるのは薫だけ、のはずですが、違っていたのです。
完全に気を許していたために、浮舟は逃げそびれてしまいました。
男の正体は「匂の宮」。
二条院で浮舟を見初めた彼は、彼女を忘れることができませんでした。
年明けて、薫が宇治に隠し住まわせていることを聞き、ある夜、身をやつして屋敷に赴いたのでした。
暗闇の中、薫の声色を真似て浮舟に仕える女房をだまし、寝所に入ってきたのです。
東国育ちの浮舟は、薫の生来の芳香と、匂の宮が焚きしめている香りの違いが分かりませんでした。
匂の宮の妻である中の君は、浮舟の異母姉であり、大切な後ろ楯。
自ら望んだ結果でないにしろ、恩を受けている姉を裏切ったことになる。
浮舟は衝撃のあまり、泣き崩れてしまいました。
匂の宮も切ない思いになって泣くのでした。
匂の宮に惹かれていく浮舟
男は本来、早朝の暗いうちに帰るのですが、その時、匂の宮は日が昇っても頑として動きません。
朝日に輝く彼の姿は情熱的で気品があり、端正で風格を備えた薫とはまた違う美しさです。
浮舟は薫の時のように匂の宮の洗面の介添えをしようとします。
すると「恋人なんだから、女房の仕事なんてしないで」と言うのです。
愛情が深いとはこういうことかと心動かされ、素直に喜ぶのでした。
中の君や匂の宮の正妻の美しさにはとても及ばないのですが、匂の宮は浮舟を今までに逢ったことのない愛らしい魅力的な人だと夢中になっています。
彼は浮舟の機嫌を取ろうと、寄り添う男女の絵を上手に描き、「いつもあなたと、こうしていられたら…」と語ると、浮舟は涙を流します。
こんな戯れの一日はあっという間に過ぎ、匂の宮が帰る頃には、浮舟の胸には切ない想いが迫るのでした。
二人が詠んだ歌です。
「長き夜を たのめてもなお かなしきは ただ明日知らぬ 命なりけり」【匂の宮】
(二人の仲は末永くと約束しても、やはり悲しいのは、ただ人の命は明日をも知れぬはかないものだからですよ)
「心をば なげかざらまし 命のみ さだめなき世と 思わましかば」【浮舟】
(人の心を変わりやすいものと悲しんだりしないでしょう。命だけが移ろいやすいこの世と思うなら)
薫と匂の宮の間で苦しむ心
2月、久しぶりに薫が宇治にやってきました。
空にも目があって、にらまれているような恐ろしい心地でした。
浮舟はやはりこの人に疎まれたくないと思います。
同時に、どれだけ振り払っても匂の宮の美しい面影が浮かんできて、不実な己の心に苦しみます。
何も知らぬ薫は、一層女らしくなった浮舟に満足げで、
「都であなたのために建てている家がもうすぐ完成します。この春にはお連れしましょう」
と言う。
実は匂の宮も昨日、「気兼ねなくあなたと会える所を用意しましたよ」と手紙で知らせてきたばかりでした。
薫は口数は少ないのですが、奥ゆかしく誠実で、後々まで頼れる存在です。
一方、やがては冷める情熱と知りつつも、今は夢中で自分を愛してくれる匂の宮がいとおしくてたまりません。
薫に見捨てられたらなら、どれほどつらいことか。
さりとて、このまま2人から愛され続けるような都合のいい状況が続くはずもない。
薫なら安心できるが、本心は匂の宮を求めている。
不貞な本性を見せつけられ、先々の恐ろしさを思うと、浮舟は胸が張り裂けそうでした。
薫は薫で、改めて亡き大君との悲しい恋がよみがえり物思いに沈んだのでした。
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