こんにちは。国語教師の常田です。
薫と匂の宮との間で揺れ動いていた浮舟。ついに薫に秘密が露見してしまいます。
浮舟はどうなるのでしょうか?
今回も、浮舟の巻を解説します。
浮舟と匂の宮との秘密を知った薫
ついに最も恐れていた事態が生じました。
薫と匂の宮の使者が宇治で鉢合わせしたのです。
薫の使者は不審に思い、事の次第を調べました。
このことから薫は浮舟と匂の宮の密通を知ったのでした。
薫は匂の宮に対して腹立たしさ極まりがありません。
中の君を匂の宮に縁づけたのは薫です。
浮舟が悩ましげにしていた訳も分かりました。
“匂の宮のおもちゃにお似合いか””もともと妻にする気はなかったし”などと思い悩みます。
薫は浮舟に文をおくりました。
「波こゆる ころとも知らず 末の松 待つらんとのみ 思いけるかな」
(あなたが心変わりしているとは知らなかった。ただ私を待っているとばかり思っていたよ)
の歌に「私を笑い者にしてくれるな」とだけあります。
浮舟は胸がつぶれました。
事情を知る女房たちは、「愛情の勝る方、お一人にお決めください」と強く勧めます。
浮舟は”死んでしまいたい”と悩みました。
思い詰めていく浮舟
間もなく、山荘周辺の警備が異様なまでに厳重になり、田舎の乱暴者たちが交代で番にあたります。
薫の文もあれ以来、ぱったりと途絶えました。
浮舟は”わが身一つが消えてなくなるのが一番。世間の笑い者になって、さすらって生きるのは死ぬよりつらい”と決意していきます。
他人に読まれて困る手紙などは破って、片付けていくのでした。
三月も二十日過ぎのこと。匂の宮から「二十八日の夜、必ず迎えに行く」と言ってよこしました。
浮舟は匂の宮の面影を払うことができず、激しく泣きます。浮舟は彼に返事が書けません。
匂の宮は何があったのかと、またしても必死の思いで宇治を訪れました。
しかし打って変わる厳重な警備に、咎めだてて吠え続ける犬、弓弦(ゆずる)を弾き鳴らす男たちの前には、匂の宮も浮舟と逢うことなく帰らざるを得ませんでした。
それを知った浮舟は、枕が浮くばかりに涙を流します。
翌朝、”親に先立つ不孝をお許しください”と念じます。
匂の宮の美しい姿と向かいあっているようで切なく、変わらぬ心を約束してくれた薫もいたわしい。
しかし、愚かで不埒な女よとの噂を聞かせるよりは…と思います。
母のことはとても恋しい。東国で育った異父弟妹たちも懐かしい。中の君のことも思い出します。
夜になって、人に見つからないで山荘を抜け出る方法を考えますが、寝られないまま夜が明けてしまいます。
川を遠く眺めて、屠所に引かれていく羊よりも死が近いと感じます。
上京の準備にいそしむ女房たちのにぎやかな声は耳に入りません。
匂の宮と母への別れの文
浮舟は意を決し、匂の宮と母に決別の文をしたためました。
匂の宮には、
「からをだに 憂き世の中に とどめずは いずこをはかと 君もうらみん」
(亡骸をもこのつらい世の中に残さなかったなら、どこを目当てにあなた様も私をお怨みになれましょう)
母には、
「のちにまた あい見んことを 思わなん この世の夢に 心まどわで」
(後の世でまたお会いできるよう念じてください。この世の儚い夢のようなことに、お心を惑わされないで)
と。
そして、読経の開始を告げる鐘の音が聞こえてくる中、
「鐘の音の 絶ゆるひびきに 音(ね)をそえて わが世尽きぬと 君に伝えよ」
(あの鐘の音が消えてゆく響きに、私の泣く音(ね)を添えて、私が死んでいったと母に告げてほしい)
と詠みました。
乳母が「変な胸騒ぎがします」と騒ぎます。
親しい女房がそばで「どちらかお決めになってください。あとは成り行きにお任せなさい」とため息をつきます。
浮舟は衣を顔に押し当てて臥してしまいました。
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