日本人なら知っておきたい 意訳で楽しむ古典シリーズ #50

  1. 人生

『徒然草』からの生きるヒント 〜人の心は、縁に触れると、必ずその影響を受ける(徒然草 第157段)

成長の要因

大相撲秋場所は、正代(しょうだい)が優勝を決めました。熊本県出身力士の初優勝に、地元の皆さんの喜びが伝わってくるようです。

正代関は、かつては「ネガティブ力士」と言われたそうです。しかし今場所は、常に前へ、前へ、と突き進んでいく、ネガティブさを感じさせない相撲でしたね。ほれぼれしました。

正代関の馬力がアップした要因の一つとして、下半身を中心にしたトレーニングが挙げられています。
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、ぶつかり合う稽古は制限されました。そういえば「稽古不足が、一番の敵かもしれない」という声もありました。
そんな中、正代関は、下半身のトレーニングを徹底し、体をつくっていったのです。

また正代関は、稽古場での人気が高いそうです。
あごを上げて、胸から反り返って、ぶつかっていく立ち合い方が、絶好の稽古台になるようで、場所前の出稽古では、横綱、大関陣に指名されることが多かったとか。
高いレベルでの稽古が、正代関をぐんぐん成長させたようですね。

新型コロナウイルスの感染拡大という事態にも、環境を整えて、下半身のトレーニングを実行し、また、ハイレベルの力士と稽古をする「縁」が、正代関を強くさせたんだな、と知らされる秋場所でした。

環境や人との「縁」って、大切なんですね。

そんな「縁」について書かれている『徒然草』の157段を見つけました。
木村耕一さんの意訳でどうぞ。

人の心は、縁に触れると、必ずその影響を受ける

(意訳)
筆を手に取ると、自然に何かを書きたくなります。
楽器を手に取ると、自然に音を鳴らしてみようと思います。
杯を手に取ると酒を飲もうと思い、さいころを手に取ると賭け事をやってみようという気になります。
人間の心は、何かの縁に触れると、必ずその影響を受けて、「やってみよう」と動き出すのです。だから、決して、悪い縁に近づいたり、悪い遊戯をしたりしてはいけないのです。
ほんのちょっとだけでも、お経の一句を見る機会があると、自然に、その前後の言葉も目に入ってきます。もしかしたら、ふと目に触れたお釈迦さまの言葉に衝撃を受け、たちまち長年の誤りに気がつくかもしれません。
そのような心が起きなくても、数珠を持って仏の前に座り、お経を手に取ることがあれば、それは、とてもよい行いなのです。

(原文)
心は必ずことにふれてきたる、かりにも不善の戯れをなすべからず。(第157段)

『徒然草』からの生きるヒント 〜人の心は、縁に触れると、必ずその影響を受ける(徒然草 第157段)の画像1

(『こころ彩る徒然草』より 木村耕一 著 イラスト 黒澤葵)

人の心はコロコロ

木村さん、ありがとうございました。
兼好さんの言われるとおり、手に取ったものによって、私の心は、どんな方向にも動き出すんだな、と知らされます。
「心」とは、盆の上の卵のように「コロコロ」とあまりにも動き回るので、コロコロの「ロ」が一つ飛び出して、「ココロ」となったとか。
考えてみると、どんな環境に身を置くか、どんな人と付き合うかで、自分も変わっていくんですね。
兼好さん、生きるヒントをありがとうございました。


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