あなたは自分に対して自信のあるほうでしょうか。それとも自分に自信がなく、不安を抱きやすいほうでしょうか。
なかなか自分に自信が持てず、どちらかといえば自分のことがあまり好きではない、
したいと思うことがあっても、その気持ちを押し殺してしまう、
言いたいことがあっても、自分の思いを隠してしまう、
という方のほうが多いかもしれません。
そのように自信が持てなければ、落ち込みやすく、生きづらさを感じてしまいますね。
どうすれば自信を育み、生きづらさを解消して、前向きに生きていけるのでしょうのか。
前回は、そもそも自信とは何か。自信の構成要素と、その関係についてご紹介しました。
前回の記事はこちら
フランスの精神科医 フレデリック・ファンジェ氏によれば、自信は「自己評価」「行動」「自己主張」の3つの要素から構成されていると教えられています。
この3つの要素は互いに関連しており、どれか1つの要素がよくなれば、ほかの2つの要素にもよい影響を及ぼすのです。
今回は、自信の基礎にあたる「自己評価」を高めるトレーニング法をお話ししていきます。
自己評価を高めるトレーニング法-自分を知り、思考のゆがみを改善する
自己評価とは、自分で自分のことをどう思っているか、いい人間と思っているのか、あるいはダメな人間と思っているか、ということです。
自己評価が低ければ、それだけ行動を起こすことや自己主張することが難しくなり、ますます自己評価を下げてしまいかねません。
その自己評価を傷つけずに、着実に高めていける方法をご紹介します。
自己評価を高める第一歩は「自分(思考の癖、反応の仕方)を知る」
自己評価を高めるために、まずしなければならないことが、<思い込み>をなくすことだといわれています。
自分に対して不当な思い込みを持っていれば、常にその思い込みが自己評価を高める邪魔をしてしまいます。
ファンジェ氏は、自信を持てなくさせる思い込みとして、以下の7つを挙げられています。
- 私には能力がない
- いつでも人から愛され、認められなければならない
- 私はダメな人間だ
- 何事も完璧にやらなければならない
- いつも正しい決断を下さなければならない
- 世の中は危険に満ちている
- 人を信頼してはいけない
たとえば、1つ目の「私には能力がない」と思い込んでいれば、「能力がない私は価値のない存在だ」と思って自己評価が傷つき、「能力がないから、きっと失敗する」と思って行動を避けてしまいますね。
また、「いつでも人から愛され、認められなければならない」と思い込んでいたら、どうでしょうか。
人から愛されたい、認められたいという気持ちは誰しもにあり、実際に認められれば嬉しく、安心もできます。しかし常に愛され、認められるとは限りませんね。
愛情を感じられなかったり、思うように評価されていないと感じたりすることもあるでしょう。
そんなときに「愛されなければならない」という思い込みがあると、「愛されない、認められない自分には問題がある。価値のない人間ではないか」と自分を責めたり、極度に不安を感じたりしてしまいますね。
これでは自己評価は高まりません。
そのため、「いろいろな出来事に対してどんなふうに反応するか」「どんな思い込みがあるのか」を知ることが、自己評価を高める第一歩になるのです。
その自分の思考の癖、反応の仕方を知るのに役立つのが、<認知再構成法>という手法です。
自分を知るのに役立つ<認知再構成法>
認知再構成法とは、「状況・感情・自動思考・適応的思考・感情の再評価」の欄(コラム)をつくり、ある出来事について各コラムを書き記すことで、そのときの自分の感情や考えを客観的に見つめて、思い込みを正して感情を和らげる、というものです(コラム法とも呼ばれています)。
①状況
主観(自分の感情や先入観)を交えずに、そのときの状況を客観的に書きます(いつ・どこで・誰が・何を)
例 3/2 同僚とともに部長と面談する。業務全般に関する話し合いを予定している。
②感情
そのときに抱く感情を書きます。いくつも感じている場合はそのすべてを記し、またそれぞれの気分のレベルを100%中何%位か、数値化します。
例 恐怖50%、不安80%、心配70%
③自動思考
その状況で頭に浮かんだ考えを書いていきます。
例 うまく話せないにちがいない、同僚も自分と同じようにしどろもどろなるだろう
④反証
自動思考の欄に、その思考が間違っている根拠も書いていきます。
例 これまでもこの種の面談にうまく対処してきた。しっかりと準備もしている
自分がしどろもどろになったとき、同僚が助けてくれたこともあった
⑤適応的思考
はじめの見方(自動思考)に代わる、新しい見方を書いていきます。思い込みが正され、ネガティブな感情が和らぐ考えを記しましょう。
例 これまでも面談で大きな失敗はしたことはないし、準備もしている。今回もきっとうまくいくだろう
たとえ不測の事態になっても、以前と同じように同僚が助けてくれるはずだ
⑥感情の再評価
適応的思考で状況を判断した上で、先に書いた感情について、改めて評価します。
例)恐怖25%、不安40%、心配30%
認知再構成法の実践を通して、自分はどのような自動思考を抱き、それによりどんな感情を持ちやすいのかを明確にしてみましょう。
また、考え方をどう変えることで、感情がどう変化し、望ましい状態に近づくのか、そのパターンを見つけていただきたいと思います。
うまく反証し、適応的思考へと変える実践例
③の自動思考は文字どおり、自動的に浮かんでくるものなので、それ自体を防ぐことはできません。
ゆえに浮かんでくる自動思考はそのままにして、その考えの中に否定的な言葉はないか、思い込みにあたる部分はないかを客観的に見て、反証を適切に見つけることが、認知再構成法の実践の鍵になります。
自分の行動を「みっともない」と感じる女性のケース
ある女性は、「一人でレストランに入ったのを見られた(状況)」ことに対して、「こんな自分を見られるなんてみっともないことだ(自動思考)」と考え、「恥ずかしい・情けない(感情)」という思いを抱きました。
このままでは、「自分は恥ずべき人間だ」という思い込みまで持ってしまい、自己評価が傷つきかねませんね。
この場合は、
「あなたはレストランに女性が一人で入っているのを見て、みっともないと感じるのか?」
「レストランに一人で入るのはみっともないことなのか?」
と問いかけてみましょう。
すると、
「女性がレストランに一人で入っているのを見ても、みっともないとは思わない」
「レストランに一人で入っている人はほかにも何人もいて、それらの人は恥ずかしいとは感じていなさそう。みっともないと思うのは単なる私の思い込みだ」
という反証が得られるでしょう。
そうなれば「自分のふるまいは恥ずべきことではない(適応的思考)」と考えられるようになりますね。
「恥ずかしい・情けない」という感情もかなり和らげることができるはずです。
自分を「エゴイスト」と思う男性のケース
ある男性は、自分のふるまいを見て「私はエゴイストだ(自動思考)」と思っていました。
自分に「エゴイスト」というレッテルを貼れば、「こんな私は人から認められるはずがない。嫌われているだろう」とも考え、「人から自分は嫌われている」という証拠ばかりを探すようになり、思い込みをますます強め、本当に他者から嫌われてしまうかもしれません。
この場合、「エゴイストとは自己中心的で、他人なんてどうなってもいいと思っている人間のこと。私は本当にそういう人間だろうか」と問いかけてみましょう。
「私は自分の利益しか考えいないわけではない。他人のことを考えるときもある」という反証が得られ、
「私は自分勝手なところもあるが、エゴイストというわけではない(適応的思考)」と考えることができ、「私は人から嫌われているだろう」ということも思い直せると思います。
繰り返しの実践で、思い込みに気づき、思考のゆがみを正せる
- 日常でネガティブな気持ちになった出来事
- どうも納得ができないでいる消化不良な出来事
- 自信を失ってしまった出来事
などについて、ぜひ認知再構成法を試され、自動思考の中の思い込みを見つけ、適応的な思考へと変えていっていただければと思います。
1つの出来事に限られず、いろいろな出来事に対しての自動思考を観察していくこと、それに反証していくことで、自分の持ちやすい思い込み(先に挙げた7つに関するもの)に気づき、反証のパターンも身について、その思考のゆがみを正しくいくことができるでしょう。
次回は、自信を構成する3つの要素の2つ目「行動」を通しての、自信を育むトレーニング法をお話ししていきます。
まとめ
- 自信の要素の1つが「自己評価」です。自己評価が低ければ、それだけ行動を起こしたり、自己主張したりすることが難しくなります。反対に自己評価が高まれば、積極的に行動したり自己主張したりできるようになります
- 自己評価を高める第一歩が「不当な思い込み」に気づくことです。精神科医のファンジェ氏は自信をなくさせる思い込みを7つ挙げています
- 私には能力がない
- いつでも人から愛され、認められなければならない
- 私はダメな人間だ
- 何事も完璧にやらなければならない
- いつも正しい決断を下さなければならない
- 世の中は危険に満ちている
- 人を信頼してはいけない
- 自分の思考の癖を知るのに役立つのが、<認知再構成法(コラム法)>です。状況・感情・自動思考を書き出すことで、出来事に対する反応の仕方がわかります。さらにネガティブな自動思考に反証することで、適応的な思考へと切り替わり、健全な感情を持つことができます
【参考文献】
『自信をもてない人のための心理学』(フレデリック・ファンジェ著 紀伊國屋書店)