レーシックは安全?将来のリスク・危険性はどうなの?
メガネやコンタクトの不便さから、ぜひレーシックをしたいと思う反面、安全性や手術を受ける年齢、将来のことなどが気になりますよね。
進歩しているレーシックの最新の手術法と、気をつけるべき点について、アイセンターで1000件以上の手術に携わっている、真生会富山病院の橋本義弘副院長にお聞きしました。
(1万年堂ライフ編集部)
レーシック手術に必要以上の怖さや不安を持たないために
2016年、レーシックの集団訴訟という大々的な報道がありました。
記事の内容から以下のことが推測されます。
- ごく一部の施設でのこと
- 適切でない患者さんへの施術
- 合意を得られるような説明がなされなかった(インフォームド・コンセントの問題)
- 想定外のことが起こった(これは極めてまれ)
- 手術器具の使い回し(通常はありえないこと)
ですので、このレーシック訴訟は一般的によくあることではなく、まれな事例ということをまず知ってください。
そこで、まずレーシックの視力矯正について基本的な内容を説明します。
レーシックの目的「視力矯正」とは
まず、何をどのようにして治そうとしているのかというところから説明します。
近視や遠視、乱視を総称して屈折異常といいますが、これらは適したメガネやコンタクトレンズで必要とする視力を出すことができます。これを視力矯正といいます。
何を治そうとしているのかといえば、屈折異常を治そうとしていることになります。
近視、遠視、乱視の程度は人によって異なりますから、矯正方法も人によって異なります。
近視と遠視はまったく別物ですが、乱視は近視や遠視に合併しているものです。
近視や遠視のほとんどない混合乱視もあります。
まずは、圧倒的に多い近視について説明しましょう。近視は、軽度、中等度、強度、最強度に分類できます。
屈折を表す単位でいうと、以下のようになります。
- 軽度 ~3D
- 中等度 3D~6D
- 強度 6D~9D
- 最強度 9D~
乱視はほとんどの人が2D以内ですので、近視と一緒に矯正することを前提として説明します。
遠視と混合乱視については後で説明します。
視力矯正は、大きく分けて2通り
矯正方法は大きく分けて「メガネ・コンタクトレンズ」と、「手術(レーシック・ICL)」の2つです。
メガネ
- メリット ……手軽
- デメリット……強度の近視や乱視は矯正の質が落ちる、視野が限られる、野外の作業やスポーツ・入浴時に不便、環境によっては曇ったり汚れたりする、打撲時に危険
コンタクトレンズ
- メリット ……見え方の質は眼鏡よりも上、視野も問題ない
- デメリット……アレルギー症状が出ることがある、感染症のリスクがある、長期装用で角膜内皮障害や眼瞼下垂(がんけんかすい)が起こることがある
上記のようなデメリットを克服するために、手術を選択する場合があります。
一方で、メガネやコンタクトレンズで不都合はないにもかかわらず、コストのみを考えて手術を選択する人がありますが、動機としては少し疑問が残ります。
最新レーシック技術で、一人一人に最適な手術が可能に
次に手術を選択する際に、患者に合った手術方法は何なのか、どのようにして決めるかを解説します。
最も重要なのは近視の度数です。
先ほどの説明のとおり、近視は度数によって軽度、中等度、強度、最強度に分類されます。
レーシックが適しているのは軽度、中等度の近視、ICLが適しているのは強度、最強度の近視です。
レーシック手術の方法
安心、安全のレーシックには2つのポイントがあります。
1つはフラップの作り方、もう1つはレーザー照射の仕方です。
フラップの作り方
フラップとは、角膜の表面に作成した厚さ0.1mm程度の丸いふたのようなものです。
フラップを作る方法に、マイクロケラトームを使う場合と、フェムトセカンドレーザーを使う場合があります。
安全なレーシックはフラップをなるべく薄く、残存角膜はなるべく厚くするのがベストです。
薄いフラップを安全に作るには、フェムトセカンドレーザーが勝っていることが明らかになっています。
マイクロケラトーム
マイクロケラトームは、カミソリを高速に振動させて、カンナのように角膜を切ることによってフラップを作成します。できあがるフラップの厚みは一定ではなく、中心に穴が開いたり(ボタンホール)、角膜から切り離されてしまう(フリーフラップ)などの合併症の危険性があります。
フェムトセカンドレーザー
コンピューター制御された特殊なレーザーを使用するため、フラップを正確で安全に作成することができます。ミシン目をつなぎ合わせるように切開してゆきます。小さく密な照射スポットであるため、滑らかできれいな切断面となります。
レーシックのレーザー照射の方法
レーザーの照射は、その人の角膜の形にあわせて照射するカスタム照射がベストです。
これをウェーブフロントレーシックといい、理論上最もよい手術法といえます。たとえていえば、ウェーブフロントレーシックはオーダーメイドの服、そうでない場合は既製服のようなものです。既製服でも修正すれば着ることはできますが、オーダーメイドのほうが着心地はいいはずです。
これら2つのテクノロジーの進歩の組み合わせで手術ができるかどうかが重要なポイントです。
唯一の難点は通常の方法より角膜を多く削りますので、角膜の薄い人はカスタム照射を受けることはできません。
ウェーブフロントレーシックとは
ウェーブフロントアナライザーという最先端の検査機器を使って、通常のレーシックでは不可能だった細かな歪み(高次収差)を解析し、個人の眼に合わせて、よりピッタリな角膜手術を行うものです。
この方法を使えない人は、通常のレーシックかICLを選択することになります。近視、乱視が強い場合はICLになる可能性が高くなります。
遠視や混合乱視の場合
手術で治さなければならないほどの遠視や混合乱視の人は少ないため、それほど件数は行われていませんが、レーシックやICLは可能です。適応は近視の場合と同じです。
乱視を矯正する方法としては、先ほど説明したフェムトセカンドレーザーを使った角膜切開が有効かつ汎用性が高いです。
さらに同じ人であっても、年齢によって矯正方法は異なります。老眼年齢間近や老眼年齢になっておられる人は、矯正量をしっかり相談されることをお勧めします。
あなたは手術を受けられる? ~検査項目
何が最も適した矯正方法なのかは、以下の検査をしなければなりません。
- 近視、遠視、乱視の程度
- 角膜の形と厚み、内皮細胞の数
- 涙液の分泌量、組成
- 瞳孔の大きさ
- 手術ができない疾患の除外
手術の受けられない人は以下のとおりです。
- 18歳未満
- 目の表面や中に炎症がある
- 白内障、緑内障のある人
- 重症の糖尿病や免疫不全、重症のアトピー性疾患など 傷の治りが悪くなるような疾患のある人
- 妊娠、授乳中
- 円錐角膜(角膜の中心部が薄くなる病気)※軽度であればICLは可能
- 重症のドライアイ
- ICLに限っていえば前房深度の浅い人
この中で軽症の円錐角膜や、それに類する疾患を見逃してレーシックをすると、ケラトエクタジアという合併症を引き起こしてしまいます。ケラトエクタジアとは術後に病的な角膜の変形(角膜の異常な突出)を起こし、矯正が困難な状態になる合併症です。
また手術である以上は感染のリスクはゼロではありませんが、他の手術と比較すればほとんどないといってよいくらいです。しっかり管理された体制であっても感染が起こるとすれば残念なことですが、想定外といってよいと思います。
ぜひ知っておきたいレーシックの安全性と危険性
手術方法は値段で決まるものではありません。その人の目の特徴を把握して決めるものです。よりよい方法に経費がかかるのは当然と考えるべきと思います。
信頼できる眼科医であれば、なぜその術式を選択したかを、近視や乱視の度数、角膜の形など客観的データに基づいて根拠を説明してくれるはずです。
最後に、あなたの思い描いている見え方と、実際の手術後の見え方の乖離を埋める必要があります。この食い違いを残したまま手術を受けることが、苦しみ、不満を引き起こします。
乖離を埋めるポイントは以下のとおりです。
- 目的、動機は何か
- 手術によってそれは達成できるか
- 手術によって起こる不具合は何か
手術を受けてどのようになりたいか、考えていることを医師に伝え、どの程度達成できるかを教えてもらう必要があります。手術には不確定要素がありますから、それも含めて説明するのが手術をする者の責務です。
上記の食い違いが起こる最も大きな原因は、見え方は視力だけでは判断できないということです。同じ1.2の視力でもハッキリ見える1.2と、ぼやけて見える1.2があります。また同じ視力1.2でも、明るい所ではハッキリ見えても薄暗いところではハローやグレアーが気になることがあります。
ぼやけ
ハローとグレア
ただし、これらは術直後から徐々に改善して慣れる程度におさまることが多いです。事前に知っておられる人もあるかもしれませんが、術前からしっかり説明しなければならないことの1つです。
これらの原因は、矯正量のズレ、乱視や不正乱視、瞳孔の大きさが挙げられます。
瞳孔の大きさの調整は難しいことが多いですが、それ以外は追加矯正できる場合が多いですから、手術を受けた施設で相談されるとよいと思います。
しばしばドライアイが、かすみの原因になっていることがありますが、ほとんどの場合で1年以内に解決します。
術後10年間での追加矯正率は、10%未満
もう一つ知っておかなければならない注意点は、短期成績だけで判断してはいけないということ、長期的なリスクを理解するということです。
具体的には、近視への戻りと、緑内障や白内障になった場合のリスク、そして老眼対策です。
レーシックの場合、近視への戻り(近視の再発)など種々の理由で、術後10年の間で追加矯正を行う確率は10%弱という報告があります。
純粋に近視の再発で追加矯正する場合は、老眼対策を考慮すると、もっと少ないと推測されます。再発がわずかであれば追加矯正の必要はまったくありませんが、徐々に近視に戻ってゆくことは確かめられています。
ICLでの近視の再発はごくわずかですが、10年以上の経過観察をされている人が、まだわずかだということもあります。
将来、緑内障や白内障になったときの注意点
近視(特に強度近視)そのものが、緑内障のリスク要因です。手術を希望して受診される人の中に緑内障の人がありますし、また術後経過を観ている間に緑内障を発症する人もあります。
ただ、手術のために緑内障を発症するということはありません。
緑内障の治療は、眼圧(目の硬さ)と視野の管理です。レーシック術後は角膜が薄くなっているために眼圧が低く測定されますので、より注意して治療する必要があります。
白内障は歳を重ねれば、すべての人がなる病気です。レーシックをしていても手術は可能ですが、眼内レンズの計算方法が変わるので、レーシック術前のデータをもらっておくようにしましょう。
まとめ:必要以上にレーシック手術を怖がらないために
- 最も大切なことは、治療を受ける医師との信頼関係です
- 人は都合の良いことは覚えていますが、都合の悪いことは忘れたり、耳に入らなかったりするものです。治療する側も受ける側も、自分本位の考えにとらわれることがトラブルの元になります
- お互い100%分かり合えるものではありませんが、信頼関係を築く努力が大切だと考えます