日本人なら知っておきたい 意訳で楽しむ古典シリーズ #59

  1. 人生

『徒然草』からの生きるヒント 〜いい香りがすると、心がときめいてしまう(徒然草 第8段)

『香水』を歌ってみた

一年を振り返る時期になりました。
今年の流行語大賞は「3密」。
「3密」を避けて、外出自粛の4月。ステイホーム中に、動画を見たり、動画をアップしたりが盛んになりました。
「○○を歌ってみた」というカバー動画をきっかけに、一躍ヒットした『香水』は、大晦日の「第71回NHK紅白歌合戦」に初出場が決定。

「別に君を求めてないけど
 横にいられると思い出す
 君のドルチェ&ガッバーナの
 その香水のせいだよ」(『香水』作詞/瑛人)

別れた彼女を思い出させる「もの」は、何ですか?

彼女の笑顔かな? 彼女の声かな? と想像していたら、「香水」という意外な答えに、きゅんとしました。
「香り」が、女性と結びつくのは、香水が海外から入ってきた、坂本龍馬の頃からかな……と思っていたら、なんと、『徒然草』に「いい香りがすると、心がときめいてしまう」と書かれている段を発見。
え? 兼好さんの時から、香りと女性は結びついたのですね。昔も今も、男心は変わらないのでしょうか!? 兼好さんに聞いてみましょう。
木村耕一さんの意訳でどうぞ。

ああ……、男は、なんて愚かなのでしょう

(意訳)
世の中の人が、心を惑わせる、最大の原因は、色欲です。
ああ……、男は、なんて愚かなのでしょう。
女性とすれ違った時に、いい香りがすると、心がときめいてしまう。
「香りなんて、一時的に、服装にしみこませただけ」と知りながらも、なぜか必ず、ドキドキしてしまいます。

昔、久米の仙人が、神通力を得て空を飛んでいた時のことです。
地上の川で、美しい娘が、腰巻きをまくって、洗濯しているではありませんか。
思わず、白い足を見てしまった仙人は、たちまち心を乱し、神通力を失って、地上へ転落してしまったのです。
いい香りがしてさえドキドキするのに、美しい肌を見たら、墜落してしまうのは、もっともなことですよ。

(原文)
世の人の心まよわすこと、色欲にはしかず、人の心おろかなるものかな。(『徒然草』第8段)

想像をかきたてられる香り

木村さん、ありがとうございました。
なんだか私まで、ドキドキしました。
確かに、すれ違いざまにいい香りがすると、思わず振り返り、二度見してしまいます。
身なりや表情、言葉遣い、しぐさなどから、「その女性」を思い量りますが、「香り」も大事なポイントになるようです。

「文字」だけでなく「香り」から、想像をかきたてられるのも、読書の面白いところですね。

兼好さんがときめいた「香り」を想像しながら、『徒然草』をもう一度、読みたいと思いました。

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