こんにちは。国語教師の常田です。
物語の最終回を迎えました。どんな結末が待っているのでしょう。
千年の間、人々はなぜこの結末なのか考えてきました…。
最終巻、夢浮橋(ゆめのうきはし)の巻のあらすじを解説します。
浮舟との再会を熱望する薫
薫は浮舟のことを尋ねたくて、比叡山の横川の僧都のもとに立ち寄りました。
僧都は、地位名声の高い薫の訪問に驚き、もてなします。
そこで薫の浮舟への深い愛情を知り、出家させたことを悔やんだのでした。
僧都は薫に、彼女を発見してから仏門に導くまでの経緯を語りました。
浮舟が切々と「後生明るい身になりたい」と訴えるのを聞いて、僧侶としてなすべきことをしたと説明します。
夢のような心地で呆然と聞いていた薫は、「浮舟に会いたい」と僧都に手引きを頼むのです。
僧都は薫の一途な想いに心打たれながらも罪を造ることに悩みます。
…薫が尼の浮舟に恋愛関係を迫るのも罪、迫られる女も煩悩でかき乱されて罪を造る。
こんな手引きをする僧侶は女犯の破戒と等しいと受け止められてきました。
しかし薫の熱心な依頼に折れて、僧都は浮舟に手紙をしたためます。
薫との過去を忘れられない浮舟
一方、浮舟は小野の里にて深く茂る青葉の山に向かい、遣水の蛍を眺めていました。
昔を懐かしみ沈んでいるのです。
そこへ横川から都に向かう数知れない松明の灯りが見えます。
薫が宇治に通ってきた時の随身(ずいじん)の声も聞こえてきました。
時が経てば忘れるはずの過去が、こんなにも忘れられないとは情けない…。
浮舟はただ阿弥陀仏だけを念じて、他のことを振り払おうと、いつにも増して黙ってしまいました。
家族の姿に揺れる心
翌日、浮舟のもとに薫から遣わされた弟の小君がやってきます。
僧都から届いた文で、妹尼から「何を隠し立てしているのですか」と問い詰められ困惑していたところです。
小君はまず僧都の手紙を差し出しました。
僧都の手紙には「…過去世からのご縁を大切に、薫様の『愛執の罪』を晴らしてあげなさい。…これまでのように仏縁を求めていきなさい」とあります。
過去世からのご縁とは仏縁のことか、薫との縁か、どちらともということか。
『愛執の罪』を晴らす、とは…。
浮舟の目にちらと小君の姿が映ります。入水を決意した時にも、恋しく思い出した弟です。
母の様子も聞けない今、ほろほろと涙がこぼれました。
妹尼は「弟君でしょう。御簾の中に入れてやりなさい」と言います。
しかし浮舟は「昔のことは思い出せません。ただ母君のことだけは気がかりで会いたいのですが。手紙にある人には私のこと、絶対に知られたくありません…」と訴えるのです。
正直な兄・僧都や世間では重い立場の薫を思って、妹尼は困ってしまいました。
物語の終わり、浮舟の心情とは
小君は薫からの文も渡します。
妹尼が引き開けて浮舟に見せました。
変わらぬ筆跡で、えもいわれぬ香りが漂ってきます。
「あなたの重い罪は僧都に免じて許しましょう。今は夢のような出来事について語り合いたい。
~法(のり)の師と たひずぬる道を しるべにて 思わぬ山に ふみまどうかな~
<僧都を頼って入った山で思わぬ恋の道に踏み迷ってしまったことよ>
この小君を忘れてはないでしょう。あなたの形見としてそばに置いています」
とあるのです。
浮舟は涙に暮れて突っ伏してしまいました。
小君は「ただ一言でも」と懇願しますが、浮舟からは何の返事もありませんでした。
小君の帰りを待ちわびていた薫は、不本意な報告に愕然とします。
あれこれ可能な限りの想像を巡らして、“他の男が浮舟をかくまっているのだろうか”と自身の過去から考えるのでした。
(完)
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- 随身(ずいじん):貴人を警護する従者
- 遣水(やりみず):庭園に水を導き入れて、流れるようにしたもの
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