著者・木村耕一さんにインタビュー
「意訳で楽しむ古典シリーズ」の『美しき鐘の声 平家物語』が、全3巻で累計10万部を突破しました。
10万部突破を記念して、著者の木村耕一さんにインタビューしました。
──『平家物語』といえば、「祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)の鐘の声 諸行無常(しょぎょうむじょう)の響きあり」の書き出しが有名です。
「盛者必衰(じょうしゃひっすい)」の言葉のごとく、平清盛(たいらのきよもり)が、おごり高ぶって、滅んでいく話だと思っていました。
平清盛は、やはり悪人なのでしょうか?
木村:
平清盛は、悪行を積み重ねる人物として、『平家物語』には一貫して描かれていますよね。
これには、異論を唱える歴史家や学者がいます。吉川英治(よしかわえいじ)の『新・平家物語』も、清盛の実像を再評価することを目指した小説でした。
──そうなんですか。それでは、なぜ、古典『平家物語』の作者は、ことさらに清盛を悪人として描いたのでしょうか?
木村:
その答えは、「巻第六 慈心房(じしんぼう)」に書かれている、閻魔王(えんまおう)と尊恵(そんえ)の会話の中にあります。
摂津国(せっつのくに)に清澄寺という山寺があります。その寺に、慈心房尊恵という僧がいました。
ある夜、尊恵は、閻魔王宮から『法華経(ほけきょう)』を読誦する法会に招待される、という夢を見ます。その話が『平家物語』に記されているのです。
宝石で飾られた大きな車が迎えに来て、尊恵が乗ると、車は西北へ走り、空を飛んで、間もなく閻魔王宮に到着しました。
王宮の周囲をめぐる城壁は、はるばると続いています。
その中に、宝石で造られた宮殿が建っています。金色に輝く御殿は、言葉では表せないほどの素晴らしさでした。
──800年前に書かれたものとは思えないほどの想像力ですね。
まるで「銀河鉄道999」や「E.T.」の映画のようです。
木村:
そうですね。
『平家物語』には、続けて、このように書かれています。
法会が終わると尊恵は、このような機会は二度とないだろうと思い、閻魔王の元へ行きます。
閻魔王は、尊恵に尋ねます。
「他の僧は、皆、帰っていったのに、あなただけがここへ来たのは、どういうわけか」
「私が、死後、どこへ生まれるのか、それをお尋ねしたいのです」
「極楽浄土に往生(おうじょう)できるかどうかは、信心を得たかどうかで決まるのだ」
尊恵は、涙を流して、
「願わくば私を哀れみくださって、救われる道をお示しください」
と哀願しました。
閻魔王は、このように教えました。
妻子王位財眷属 死去無一来相親
(意訳)
妻や子、王の位、財産、親族や従者たちに、どれだけ恵まれていても、自分が死ぬ時には、何一つとして後生(ごしょう)へ持ってはいけない。自分につき従ってくるものは、一つもないのだ。
常随業鬼繫縛我 受苦叫喚無辺際
(意訳)
生前に犯した悪い行いは、消えることはない。自分の悪業(あくごう)が鬼となって、常にわが身に従い、体を縛って苦しめるのである。「苦しい、苦しい」と泣き叫ぶ声が、絶えることはないであろう。
閻魔は、悪を慎み、善に向かうことを勧めるのでした。
尊恵は、とても喜び、
「日本の平清盛という人が、摂津国和田の岬に多くの僧侶を招いて、『法華経』を読経する法会を行ったことがあります」
と言うと、閻魔王は、とても喜んで、
「あの方は、ただ人ではないのだ。比叡山(ひえいざん)の座主(ざす)であった慈恵僧正(じえそうじょう)の生まれ変わりである。将軍として、再び日本に生まれ、身をもって、悪業の恐ろしさを、全ての人々に教えられたのだ」
と説きました。
尊恵は、再び、車に乗って空を飛び、清澄寺へ帰ると、夢から覚めたのでした。
──え、平清盛は、ただ人ではないのですか?
木村:
あくまで『平家物語』には、清盛は、「身をもって、悪業の恐ろしさを、全ての人々に教える」役割を演じた、と書かれているのです。
人間は、欲、怒り、恨みの心のままに、好き勝手に振る舞っていたら、どうなるでしょうか。
たとえ清盛のように、日本中が自分のものになっても、その喜びは、長くは続きません。
それどころか、生涯に造った悪業の結果が現れて、苦しみ悶えながら死んでいかなければならないと教えられているのです。
──それは、とても怖いです。
自分の都合で、何も考えもせずに、勝手気ままに生きるのが幸せではないんですね。
木村:
そうです。「そんな一生で終わるのは、愚かですよ」と、清盛は、身をもって教えてくれているのです。
これは日本人だけでなく、世界中の人にあてはまる大切なメッセージだと思います。
『平家物語』こそ、世界に誇る日本の古典だと思います。
──『平家物語』のメッセージが、そんなに深いとは思いませんでした。
そんな悲惨な人生で終わらせないためには、どうしたらいいのでしょうか?
木村:
そうですね。何を信じたらいいか分からない、諸行無常の世の中で、私たちが幸せになれる道はあるのか、知りたくなりますね。
『平家物語』の作者は、そのヒントを、長編の物語の中に、宝石を散りばめるように描いています。
ぜひ、「日本人なら、一度は読みたい」といわれる『平家物語』を、手に取ってみてください。
──ありがとうございました。
古典の『平家物語』は、全12巻という長編です。
木村さんが、物語の中の、大切な部分を選んで分かりやすく意訳し、全3巻にまとめてくださった『美しい鐘の声 平家物語』を、おうち時間に読んでみたいと思います。
意訳とイラストでよくわかる!
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