日本人なら知っておきたい 意訳で楽しむ古典シリーズ #67

  1. 人生

人間関係をよくする秘訣とは 〜ありがたきもの(枕草子 第72段)

人間関係をよくする気遣い

コロナ禍のニュースで、ほっと心が和んだ話題がありました。
ある保険会社が、新型コロナウイルスが流行してからの「上司との関係性の変化」を調査したところ、「良くなった」と答える人が、「悪くなった」を大幅に上回ったそうです。
関係性を良好にしているのは、「上司の気遣い」なんだとか。
心遣いの大切さを知らされますね。
でも人間関係を良好に保つのは、なかなか難しく、悩みは尽きず……。
人間関係をよくする秘訣を『枕草子』から、聞いてみましょう。
木村さんの意訳でどうぞ。

「こうありたい」「こうなりたい」と、皆が望むものは、どこにもないものばかり

めったにないもの。

舅に、褒められる婿どの。
姑に、かわいがられるお嫁さん。
主人の悪口を言わない従者。
悪い癖が、少しもない人。
顔も姿も、人間性もよくて、少しの欠点もない人。
このような人は、どこにもいません。
同じ所に住んでいる人や、働いている人が、周りの人に自分の欠点を見せないように気を張っていても、最後まで隠し通せることは、めったにないのです。いつまでも仲良くしようと誓った間柄でも、男と女はいうまでもなく、女同士であっても、続くことは、めったにありません。

人間関係をよくする秘訣とは 〜ありがたきもの(枕草子 第72段)の画像1

(『こころきらきら枕草子』木村耕一著 イラスト 黒澤葵 より)

完璧な人っている?

木村さん、ありがとうございました。
人間をよく観察している清少納言だから、こんなに小気味よく書けるんだな〜と思います。

清少納言の一言一言を、私なりに考えてみました。

「なんで褒めてくれないんだ!」と不満に思っても、「舅に、褒められる婿どのは、めったにないですよ」と言われると、「ああ、そんなものか」と落ち着いてきます。

「かわいがってくれない!」と文句を言っても、「姑に、かわいがられるお嫁さんなんて、どこにもいないじゃないですか」と聞くと、そうかなと思えてきます。

「主人の悪口を言わない従者はめったにないですよ」と読むと、「上司の指示に従うのが、部下の当たり前だろう!」と腹を立てている人も、「悪口を言うのが部下なのか」と冷静になるかもしれません。

人の欠点は、いくつも目につくのですが、自分の欠点は何だろう?と自分に目を向けると、「はて、自分に欠点なんてあるかな」と考え込んでしまいます。
でも「なくて七癖」といわれるように、どんな人にもクセがありますので、清少納言も「悪い癖が、少しもない人はありえませんよ」と言っています。

「顔も姿も、人間性もよくて、少しの欠点もない人は、どこにもいません」とは、おっしゃるとおりです。
人の悪いところが目について、腹が立つことがありますが、「完璧な人間なんていないんだな」と分かると、ちょっと心が楽になりますね。

自分よりも相手を思う心遣い

「自分をよく見てもらいたい」と思いますが、清少納言は、「周りの人に自分の欠点を見せないように気を張っていても、最後まで隠し通せることは、めったにないのです」と言います。
つまり、自分の欠点を見せないように、うそをついたり、ごまかしたりしても、分かってしまうものなのですね。

「自分をよく見せたい」と、自分のことを考えるよりも、「相手はどう思うだろうか」と相手のことを考えることで、信頼関係が生まれてくると気づかされました。

「この人とは気が合う」と意気投合して、お互いに「いつまでも仲良くしよう」と約束した人とも、仲良くする努力をしなければ、続かないんですね。

相手を理解して、相手を思う心遣いが、人間関係をよくする秘訣だと分かりました。
清少納言さん、昔も今も変わらない人の姿を教えてもらい、ありがとうございました。



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