日本人なら知っておきたい 意訳で楽しむ古典シリーズ #71

  1. 人生

ごまかさない。言い訳をしない。自分の非を認めて、素直に謝る 〜失敗しても信用を得たリンカーン

アメリカの大統領の中で、最も偉大な人

3月4日は、エイブラハム・リンカーン大統領の最初の就任式の日です。

アメリカの大統領の中で、最も有名で、偉大な人といえば、リンカーンを挙げる人が多いでしょう。
それだけ多くの人から信頼されたリンカーン。

「私って、信頼されている!」と実感できると、仕事でも、遊びでも、とても充実した時間になりますよね。そして、人の輪もどんどん広がり、人生が豊かになります。

信頼される人になるには、どんな秘訣があったのでしょうか? 
若い頃のリンカーンのエピソードを、意訳で楽しむ古典シリーズの著者・木村耕一さんにお聞きしました。

──リンカーンは、どのようにして政治家になったのでしょうか?

木村:
リンカーンは「農場の丸太小屋で生まれた」といわれています。それくらい貧しい家だったのです。だから学校にも通えませんでした。
しかし、本を読むことが大好きでした。一人で勉強を続け、弁護士となって活躍します。
正直なリンカーンは、多くの人から信頼され、政治家の道へ進みます。そして52歳で、アメリカ合衆国の大統領にまでなったのです。

──とても努力された人だったのですね。

失敗しても信用を得たリンカーン

──何のコネもないリンカーンが、政治家の道へ進むには、多くの人からの信頼が必要だったと思います。

木村:
そうですね。リンカーンの誠実さを伝える、こんなエピソードがありますよ。

20歳過ぎのリンカーンが、ある商店で働いていた時のことです。
1日の売上金を確かめたところ、どうしても、3セント多いのです。

──えっと、100セントで、1ドルですよね。3セントぐらいだったら、ごまかせそうですが……。

木村:
いいえ、リンカーンには、ごまかそうという気持ちは少しも起きなかったのです。
誰に迷惑をかけたのか、そのことで頭がいっぱいになりました。
記憶をたどっていくと、8ドル分の雑貨を買った婦人から、8ドル3セント受け取ったことが分かってきました。明らかに自分の計算ミスでした。

「ああ、申し訳ないことをしてしまった……」

そう思うと、もう、じっとしてはおれません。彼は、さっそく戸締まりをして、店を飛び出しました。婦人の家は、だいたい見当がついています。
暗い夜道を、1時間余りも走って、ようやくたどり着くことができたのです。

──すぐに、1時間余りも走って、お詫びに行ったのですね。

木村:
はい。婦人の家についたリンカーンは、一切、言い訳をせず、心から謝罪しました。

「誠に申し訳ありません。実は、私が計算を間違えて、3セント多くいただいてしまったのです。まったく、私の過ちであります。お許しください」

婦人は、リンカーンの誠意に打たれます。

「まあ! わずか3セントのために、こんなに遠くまで来てくださったの」

目の前に差し出された3セントの銅貨が、100万の金貨よりも値があるもののように映っていました。

「あなたの、その尊い気持ちは、今にきっと、真価を発揮する時が来ますよ」

20歳過ぎの、みすぼらしい店員に、婦人は輝かしい未来を感じたのでしょう。

──すてきなエピソードですね。

木村:
ここで、信頼される人間になるための、大切な心得を教えてくれていると思います。

ごまかさない。
言い訳をしない。
自分の非を認めて素直に謝る。

リンカーンの、誠実な人柄に、町の人々は、
「あんな立派な青年が議員になってくれれば……」
と、次第に期待を寄せるようになったのです。

25歳でイリノイ州議会議員に当選。政治家の道を進んでいくのでした。

そして、夜道を走った日から、約30年後──。
彼は、アメリカ合衆国、第16代大統領に選ばれます。
小さな誠意の積み重ねが、大きな花を咲かせたのですね。

──おお、素晴らしいですね。失敗した時に、ごまかす人と、素直に謝る人とでは、結果が変わってくるようです。

木村:
はい。人間は、誰でも失敗をするものです。
リンカーンのように、言い訳をせずに、「自分が悪かった」と素直に謝ることができる人が、本当に偉い人であり、人から信頼される人物になるのですね。

どんな人にも誠意をもって

──素直に謝れる人って、魅力的ですよね。相手のことを、大切に思う「誠意」が感じられます。

木村:
そうですね。
リンカーンは、どんな人にも「誠意」を示していたエピソードがホワイトハウスに残っていますよ。

ある朝、急用で大統領を訪ねた秘書が、廊下の片隅で、しきりに靴を磨いている男性を見つけました。

なんと、それはリンカーンでした。

かねて、
「リンカーンは田舎者だ。大統領らしくない」
というウワサを耳にしていた秘書は、側へ行って小さな声で言います。

「どうか、そのようなことをなさらないでください。大統領のご身分に、ふさわしくありません。人に見られると、また、どんな陰口をたたかれるか分かりませんから……」

すると、リンカーンは微笑を浮かべながら言いました。

「ほう、靴磨きは、そんなに恥ずかしいことなのかね。悪口を言う者のほうがおかしくないかな。大統領も、靴磨きも、同じように、世のため人のために働いているんだ。私は、世の中に、卑しい仕事などないと思っている。ただし、心の卑しい人はいるがね……。それは、大いに恥ずべきだよ」

──職業、財産、社会的地位などで差別する人が多い中、1人、1人と大切に向き合っていた人だったのですね。とてもさわやかな気持ちになりました。
私もリンカーンのようになりたいなと思います。
木村さん、ありがとうございました。


リンカーンのエピソードは、『新装版 こころの道』に掲載されています。
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