「もったいない」を世界共通語に
4月8日は、お釈迦さまがお生まれになった日。「花まつり」といわれ、甘茶をかけてお祝いする所も多いようです。
少し前ですが、2005年3月、国連のある委員会で、参加者全員が「世界共通語にしよう」と唱和した日本語がありました。
それは「モッタイナイ」。
ノーベル賞を受賞した環境保護の活動家が、日本に「もったいない」という考え方があることを知り、感激したそうです。
「物を大切に使うように」との心が込められた「もったいない」。
実は、お釈迦さまの説話の中に、この「もったいない」の精神が数多く残されていました。
意訳で楽しむ古典シリーズの著者・木村耕一さんにお聞きしましょう。
500人の女性が衣を寄進
──物を粗末にしない「もったいない」の精神は、お釈迦さまが教えられていたのですね。知りませんでした。どんな説話があるのでしょうか?
(木村)
はい、お釈迦さまの弟子・阿難(あなん)に、こんなエピソードがあります。
阿難は、美男子で有名、そのうえに優しいので、女性の憧れの的だったといわれます。
そのせいか、ある国の王様に招かれて説法をした時には、城中の500人の女性が皆集まって、熱心に聴き入りました。
人として生きる意味を聞き、感動した彼女たちは、精一杯のお礼がしたくなりました。
そこで、500人全員が、王様からもらったばかりの高価な衣を寄進することにしたのです。
──えっ!? 500人全員がですか。王様はびっくりしたのではないでしょうか。
(木村)
はい。翌日、王様は、朝食の準備をしている女性たちの姿を見て驚いたのです。
皆、古い衣を着ているではありませんか。
「なぜ、わしが与えた新しい衣を着ないのだ」
問うと、彼女たちからは、
「はい、仏教を聞かせていただいたお礼に、布施いたしました」
という答えが返ってきます。
王様は、おもしろくありません。
次第に腹が立ってきて、阿難を城へ呼び出しました。
──それは、どうなるのでしょうか。ハラハラしてきます。
そんなに多くの衣をどうするの?
(木村)
王様は、阿難に、こう問いただします。
「500枚もの衣を受け取ったというのは、本当か」
阿難は穏やかに答えます。
「そのとおりです。私個人へではなく、仏教のために使ってほしいという気持ちで寄進された物です。断る理由はありません。ありがたく頂きました」
「そんなに多くの衣を、どうするつもりだ」
「お釈迦さまには、たくさんのお弟子があります。寄進してくださった方の気持ちを大切にし、皆に、分け与えます」
こう言われると、もともと仏法を尊く思っている王様ですから、反論できません。
しかし、やはり腹が立っていたのでしょうね。意地悪く追及するのでした。
「では、それまで着ていた古い衣は捨てるのか」
「いいえ、下着に作り替えます」
「古い下着はどうするのだ」
「縫い合わせて、寝る時の褥(敷き布団)にします」
「それまで使っていた褥は」
「敷物にします」
「古い敷物は」
「足をふく雑巾にします」
「古くなった雑巾は」
「細かく切って、床や壁に塗る泥に混ぜて使います。私たちは、施しを受けた物を、決して無駄には致しません」
王様は、お釈迦さまの弟子たちが物を粗末にせず、どこまでも生かして使うことを知って、心から敬服するのでした。
物を粗末にしない
木村さん、ありがとうございました。
衣としては使えなくなっても、下着にできる、古い下着は敷き布団に、古い敷き布団は敷物に、古い敷物は雑巾に、古い雑巾は細かく切って泥に混ぜる……、どこまでも生かして使う、決して物を粗末にしない姿勢に感動しました。
物を大切するのは、寄進された人の心を大切にされてのことなんですね。
心が温かくなりました。
人にも物にも優しい「もったいない」。
これからも、大切にしたい心掛けだと思いました。
こちらの「もったいない」のエピソードは、『新装版思いやりのこころ』に掲載されています。
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