EQの意味
あなたは「EQ」という言葉を聞かれたことはあるでしょうか。
EQとは、「Emotional Intelligence Quotient」を省略したもので、「こころの知能指数」や「感情知性」と呼ばれています。
- 「自分はいま、〇〇という感情(怒りや落胆、または喜びや満足、驚き、嫌悪感など)を持っている」と、自分の感情を正しく把握し、感情をコントロールできる力
- あるいは「相手はこんな気持ちになっているはずだ」と他人の感情を正確に予測し、共感できる能力
- 自らの感情を上手に利用したり、他者の感情にうまく働きかけられる能力
がEQです。
会社や家族との人間関係でイライラして、つい言わなくていいことを言い、相手との関係を悪化させてしまった。
思わぬ悪い出来事を経験したときに急激に落ち込み、勉強も仕事も手につかなくなった。
感情に振り回されて、冷静なときにはしないような選択をして、後悔している。
ということはないでしょうか。
またお育てにおいてもEQは重要で、子どもが勉強や部活で失敗したり、勝負に負けたとき投げやりになって次も頑張ろうと思えなかったり、失敗が怖くて挑戦できなかったりして成長しようとしない、といった悩みも聞かれます。
このような問題は、EQを高めることで解決することが可能なのです。
EQの高い人は学業の面でも優秀で対人能力にも優れ、困難にぶつかっても適切に対処でき、ストレスにも強いことがわかっています。。
IQとEQの違い
EQと聞くと、よく対比される能力である「IQ」を思い浮かべられるかもしれません。
IQは知能指数のことであり、言語的スキルや数学的スキルのことを指します。
IQも生活に欠かせない能力ではあります。
しかし、IQがいくら高くても、EQが低ければIQを発揮することはできないのです。
それは、数々の研究・調査によって「IQよりもEQが人生に差をつける」といわれていることからもわかります。
EQの効果を証明したテスト
EQとIQの関係を調べた多くの実験の中でも、とくに有名な実験が「マシュマロ・テスト」です。
マシュマロ・テストは1960年代、スタンフォード大学の心理学者 ウォルター・ミシェル氏によって行われました。
4歳児を対象にし、
15分ないし20分間(子どもには時間を告げずに、実験者が戻ってくるまで、と伝えます)、テーブルの上に置かれた1個のマシュマロを食べるのをがまんすれば、2個目のマシュマロをもらえる
というものです。
子どもは目の前にあるマシュマロの誘惑に負けずに、がまんをして、2個目のマシュマロをもらうか、
あるいは、食べたいという衝動を抑えられずに1個目のマシュマロを口に入れてしまうかを見るのですね。
そして、誘惑に耐えて2個目のマシュマロをもらった子どもと、マシュマロにすぐに手を伸ばしてしまった子どもがどんな学生生活を送ったかを追跡調査しました。
すると、2個目のマシュマロをもらった子どもは青年となった時点で、高い社会性を身につけていたことがわかりました。
具体的には、対人能力に優れていて、きちんと自己主張ができ、人生の難局にも適切に対処できていたのです。
また、学業の面でもはるかに優秀で、SAT(大学進学適性試験)の点数も非常に高かったです。
反対に、マシュマロにすぐに手を伸ばしてしまった子どもの3分の1には、
- 対人関係そのものを避けようとする、あるいは言い合いやケンカになりやすい
- 自分のことを無価値な人間と考える傾向にあり、ストレスを受けると後退しやすい
という、心理的に問題の多い姿が見えてきました。
大きくなって非行に走る確率も非常に高かったのです。
2個目のマシュマロをもらったということは、それだけ自制心が強く、欲求や衝動にもうまく対処し、楽しみを先送りして、やるべきことに集中する能力、
つまり、EQが高かったのです。
ゆえにEQは、学業成績や対人能力との関係が深いといえますね。
EQを高めるメリット
マシュマロ・テストの結果から、EQが高い子どもは対人能力に優れ、学業にも集中しやすくなり、成績も高い傾向にあることがわかりました。
ではEQは、仕事面、ビジネススキルとしてはどう役立つのでしょうか。
EQの概念の提唱者であるピーター・サロベイ博士とジョン・メイヤー博士の、ビジネスパーソンを対象にした調査によると、
ビジネス社会で成功した人は自分の感情の状態を把握し、それを上手に管理調整するだけでなく、他者の感情の状態を知覚する力に長けている
『EQ入門―対人能力の磨き方』(高山直著 日経文庫)
ことがわかりました。
メリット① 感情を制御し、仕事や思考に集中できる
EQが高い人は自分の感情を自覚して制御できるため、仕事や思考に集中できます。
そのため、しっかりと業績を上げることができます。
一方、EQが低い人は感情のコントロールが難しいため、仕事への集中を欠いてしまうのです。
メリット② 相手の気持ちを正確に推察し、うまく対応できる
また、他人の気持ちをより正確に推察し、相手の気持ちに合わせてうまく対応できるため、組織の中を泳ぎ回ることにかけても有利です。
ゆえに、周りからも信頼され、職場で成功しやすいのですね。
反対にEQが低い人は、他人の気持ちがわからずに共感できないため、対人関係でトラブルが生じやすくなったりします。
メリット③ ピンチのときに周りからいち早く助けてもらえる
別の調査では、EQの高い人は良好な人間関係が保たれているゆえ、自分が大ピンチに遭遇したときにも周りからいち早くサポートしてもらいやすいこと、
逆にEQの低い人は、問題にぶつかったときあちこちに連絡を取るものの、なかなか返事をもらえずに時間が過ぎていくこともわかっているそうです。
自分が苦しいときに、周りからすばやく援助を受けられるかどうかはEQの高さにかかわってくる。これは仕事のみならず、コミュニティ活動や家庭生活でも当てはまるといえるでしょう。
マシュマロ・テストやビジネスパーソンへの調査などから、「EQこそが人生に差をつける」ことがよくわかりますね。
EQが高い人の特徴3選
EQを高めてできるようになることが、「情動のハイジャック」を防げることです。
「情動のハイジャック」とは、人間の脳の感情をつかさどる領域(=感情システム)が暴走して、理性をつかさどる領域(=認知システム)から主導権を奪ってしまうことです。
脳全体が感情システムに乗っ取られてしまうと、私たちは後先考えずに行動したり、極端に落ち込んでしまったりします。
逆に、EQが高い人は情動のハイジャックを起こすことなく、考えてから行動できるでしょう。
感情システムを上手にコントロールできるのです。
この「情動のハイジャック」を防ぐという観点から、EQの高い人の特徴が見えてきます。
EQの高い人の特徴① 冷静に物事に対処できる
EQの高い人は認知システムが正常に働いているため、いまがどんな状況かを正確に判断し、冷静に行動できます。
感情システムに主導権を握られて、冷静さを欠けば、家族や仕事仲間に腹を立てがちになります。少し注意をするつもりが、聞くに堪えないひどいことを言ってしまいかねません。
「何度言ったらわかるの?バカなんじゃないの」
「あなたって本当に自分勝手で、いい加減。もうやってられない」
など、人格を否定するようなことでも言おうものなら、関係に大きな亀裂が走るでしょう。
しかしEQが高ければ、衝動に駆られて相手を非難したり、軽蔑したりするといったことは抑えられるようになります。
EQの高い人の特徴② ストレスに強く、挫折からも立ち直りやすい
EQの高い人も、怒りやストレス、不安の影響を受けるのですが、認知システムがしっかりと働いているため、ネガティブな感情にとらわれることはありません。
挫折をして落ち込むことはあっても、無力感に浸り続けることはなく、立ち直りが早いです。
挫折や失敗をそのままで終わらせることなく、そこから学びや教訓を得て、自己成長にもつなげられます。
EQの高い人の特徴③ 目標をしっかりと達成する
マシュマロ・テストで見たように、EQの高い人は自制心が強く、目の前の快楽からも気をそらし、楽しみを先延ばしして、やるべきことに集中することができます。
そのために目標も達成しやすいのですね。
特徴②で、EQの高い人はネガティブな感情にとらわれないとお話しましたが、とらわれないだけでなく、怒りやストレス、不安をうまく利用することもできます。
「怒りやストレスを感じるのは、それだけ自分は重要なことに取り組んでいるからだ」と考え方を変えて、負の感情をエネルギーに変換できるのです。
EQが高い人の特徴と高め方については下記でも書いてもいますのでご覧ください。
あなたのEQはどれくらい?EQの診断テスト
では、あなたのEQはどれくらいなのか、質問を通して、おおよその値をチェックしてみましょう。
それぞれの質問に対して、
- あまりできない
- 普通
- できるほうだ
の中から1つを選んでいってください。
- 自分が何を感じているかを、いつも理解できる(能力①)
- 自分の気持ちに変化が生じたとき、それを敏感につかむことができる(能力①)
- 自分が感情的になった時、どのように対処したらよいかを考え、実行できる(能力②)
- どれだけ感情が高ぶっていても、感情のままに行動することはない(能力②)
- 集中して物事を行うために、自分の感情をコントロールできる(能力③)
- 物事を始める時、積極的な気持ちをつくりだすことができる(能力③)
- 話をしている相手の表情の変化にすぐ気づける(能力④)
- 表情や態度から、その人の気持ちを察することができる(能力④)
- 話をしていて、相手が自分に何を言ってほしいかわかる時がよくある(能力⑤)
- 課題解決のために、その場のムードを適切に変えることができる(能力⑤)
いかがでしたか。
あまりできないと思われたことも、今後ご紹介していくEQを高める方法を実践され、できることがより増えていけば幸いです。
質問の末尾にある「能力+数字」は、実はEQは5つの能力に分けることができ、それぞれの質問にどの能力が結びついているかを表しています(各能力の詳細は次回、お話しします)。
EQの中でも、自分はとくにどの能力が優れていて、どの領域は苦手なのかを把握すると、その能力が活かしやすくなるとともに、苦手な領域も克服しやすくなります。
あわせてチェックしてみてください。
次回は、EQとはより具体的にはどんな能力なのか、EQを高めるにはどうすればいいのかについてお話ししていきます。
【参考文献】
『EQ こころの知能指数』(ダニエル・ゴールマン著 講談社)
『EQ 2.0(「心の知能指数」を高める66のテクニック) 』(トラヴィス・ブラッドベリー/ジーン・グリーブス著 サンガ出版)
『EQ入門―対人能力の磨き方』(高山直著 日経文庫)