HSP(ひといちばい敏感な人)の基本的な知識から、最新の議論までをご紹介する、精神科医・明橋大二先生の「HSP大全」第10回です。
HSPの基本的な内容は下記でまとめていますのでご覧ください。
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人には、他人とつながりたい、という気持ちと同時に、他人とつながることを恐れる気持ちがあります。
それが「親密さへの恐れ」です。
恋人との関係がいずれ何かしらトラブルの源となってしまうならば……と、愛情を求めながらも相手との関係が深まることを避けようとする人も多くいます。
非HSPにもそれはありますが、HSPなら、なおさら多いかもしれません。
必要なのは、お互いがありのままの自分でいられること
「親密さ」は、英語では“intimacy(インティマシー)”といいます。関係性が、フレンドリーというよりも、もう少し近い距離、恋人や夫婦、家族、私的なパートナーなどがそれに当たるでしょう。
アーロン氏は、親密さとは、お互いがありのままの自分でいられること、相手に一番のプライベートと、この瞬間の本当の自己(思考、感情、肉体的自己)をさらけ出せることだと言います。
そしてアーロン氏は、HSPが幸せになるために、数は多くなくとも、人との親密なつながりは必要であること、しかし、多くのHSPは、親密な関係を恐れていることを述べています。
なぜ親密な関係を求めながら、それを恐れるのか、その理由を、アーロン氏は8つ挙げています。
そしてその恐れをさらに強める要因として、幼少期の愛着関係に注目しています。
この章からしばらく、その親密さへの恐れについて、一つ一つ学んでいきましょう。
まずは親密さへの恐れの8つについてです。
「親密さへの8つの恐れ」とは
❶ 素の自分を出して嫌われるのが恐い —Fear of Exposure and Rejection—
❷ 怒りで攻撃されるのが恐い —Fear of Angry Attacks —
❸ 見捨てられ不安 —Fear of Abandonment—
❹ コントロールを失うことへの恐れ —Fear of Loss of Control—
❺ 攻撃・破壊衝動への恐れ —Fear of One’s “Attack-and-Destroy” Impulses—
❻ 飲み込まれることへの恐れ —Fear of Being Engulfed—
❼ 結婚など長期的な約束をすることへの恐れ(落ち着きたくない) —Fear of Commitment—
❽ 些細なことで嫌ってしまうことへの恐れ —Fear of Disliking the Other for Subtle Annoyances—
それでは、アーロン氏の親密さへの恐れを1つずつ詳しく見ていきましょう。
【親密さへの恐れ】①素の自分を出して嫌われるのが恐い
素の自分を出せず、苦労している人は多いです。
以前のアンケートで、「他人には心の安定した人、温かい人、サバサバした人と思われたい」に、約8割の方が「当てはまる」と回答してくれました。
もちろん、多少疲れても、ちょっと無理して明るく振る舞ったり、笑ったりすることで前向きに頑張れることはあります。
しかし、背伸びした自分を「いつでも」演じ続けていると疲れてしまいます。
気がつくと、こういう瞬間はないでしょうか?
- 相手に対し不安や不満に思っていることがあっても、言葉で伝えられない
- かつて「いじめ」の被害者であったこと(いじめの原因、いじめっ子の言葉)は内緒にしておきたい
- 誰かについての不満や愚痴を話すとき、本音は怒っている(傷ついている)のに、聞き手に器が小さいと思われたくないから「別にいいんだけどさぁ」「私だからいいんだけど」と前置きをする
- 「〇〇って知ってる?」と聞かれ、全然知らなくても「名前だけは聞いたことがあるような」と答える
- 「なんだ、嘘だったんだ」とがっかりされたくないので、もうひとつ嘘を重ねる
誰もが暴かれたくないものを持っています。
それは、過去、欲望、ねたみ、無知、嘘、衝動、不安、変態的な趣向などいろいろです。
HSPは、特に自分の「敏感さ」が露呈するのを恐れ、強い人、敏感でない人を演じがちです。しかしそんな背伸びを続けていると疲れてしまいますし、何より自分自身を肯定できないでしょう。
あなたはきっと、そんな自分の欠点を知られたら、嫌われてしまう、と思っています。
特にHSPは、自分のネガティブな部分を顕微鏡で見るように拡大して見てしまうので、自己否定的になりがちです。そういう気持ちを完全に払拭するのは、土の中に広く張った根を取り除くようなもので、簡単なことではありません。
ただ、別の見方をすることで、考え方が少し変化することはあります。その方法を一つ紹介しましょう。
自分の欠点が受け入れられなくなったきっかけは?
世の中に欠点のない人はありません。あなたにもあるし、周りの人にもあります。
ところで、あなたの周りの人に欠点があったとして、あなたはその人をどれほど軽蔑するでしょうか?
それほど気にしないのではないでしょうか。
相手が「自分はこんな欠点があるし…」と悩みを打ち明けてきたら、あなたはどう答えますか?
「誰だって欠点くらいあるよ。気にしないで」と言うのではないでしょうか。
あなたがそうなら、相手もきっとそうでしょう。
何より、欠点と思っているものをさらけ出してみると、たいしたことなかったと安心できるものです。
「素の自分を誰にも見せられない」
「ありのままの自分では人に受け入れてもらえない」
そう思うようになったきっかけは、どこにあったのでしょうか。
たとえば、自分の本当の気持ちを言って、親がいきなりキレ出したことがあったのかもしれません。
自分の欠点を相談したとき、親ががっかりした様子を見せたことがあったのかもしれません。
だとしても今、目の前にいる相手は、本当の自分を出すとあなたを拒否してきたかつての親ではありません。
相手の優しさを信頼してみましょう。人と関わることで、恐れは現実的なサイズになります。
幼少期の恐れを克服するのには、今の現実の相手との関わりが不可欠です。
ハードルが高いこともあるでしょう。本当に好きで、嫌われたくない相手のときです。
秘密を明かしたことで、相手の信頼やイメージが変化し、二人の関係が変わってしまう。
警戒してしまうのも無理はないです。
しかしアーロン氏は言います。
「本当の自分を隠してまで、その人と一緒にいたいのですか?」
その答えを出しておけば、失うものは少ないと励ましています。
どんな素敵な人にも欠点がある。むしろ欠点のない人はつまらない。
自分が相手を許せるとわかれば、相手だって許してくれます。欠点があって普通なんだとわかって安心できるでしょう。
素の自分のほうがかえって話しやすく、深い話もできて、相手も喜び仲が深まるはずです。
あなたには、親密さへの恐れはありそうでしょうか?
当てはまるものがあれば教えてください。
【ぜひ読んでいただきたい書籍】