HSP(ひといちばい敏感な人)の基本的な知識から、最新の議論までをご紹介する、精神科医・明橋大二先生の「HSP大全」第11回です。
HSPの基本的な内容は下記でまとめていますのでご覧ください。
仕方のないことで、いつまでも文句を言い続ける人、イライラオーラを醸し、周囲を緊張させる職場の彼女、店員に執拗に怒り続けるオジサン、恋人にびっくりするほどの剣幕で怒鳴る彼氏…。
自分には関係がなくても、怒っている人を見ているだけで、嫌な気持ちになるものですが、HSPならなおさらです。
ましてや、その怒りを向けられる当事者になってしまったらどうでしょう?
HSPはすぐに(そう想像するだけでも)刺激がオーバーしてしまいます。
怒りによるダメージを必要以上に恐れていませんか?
怒りは、「身の危険を感じて、攻撃の準備をする」原始的な本能という人もいます。
怒りが起きるのは、生き物として自然なことです。
しかし特にHSPにとって、怒りの感情は、あまりに刺激が強く、容易にダメージを受けてしまいます。
それは他人から怒りを向けられた時だけではなく、自分の中の怒りに対してもそうです。
「こんなに怒ってしまった。何て自分はダメな人間なんだろう…」と、怒ったあとに激しく自分を責めてしまったことは、一度や二度ではないでしょう。
そういうところから、HSPは怒りを恐れ、怒りをなんとか避けて通ろうとします。
相手の顔色を見て、なるべく怒らせないようにしたり、自分の中の怒りにフタをしたりして、「仕方がない」「自分が悪いんだ」と思い込もうとします。
中には、怒りから受けるダメージを恐れるあまり、親密な関係そのものを避けようとする人もあります。
幼少期に、親の怒りによってダメージを受けた人は、特にそうかもしれません。
しかし親密な関係には、ある意味、怒りは避けては通れないものです。
アーロン氏は、「怒りがまったく起きない親密な関係を求めるのは、予約なしでもすぐに入れる三つ星レストランを探すようなものだ」と言っています。
そういうものはないのです。三つ星レストランなら必ず予約が必要ですし、親密な関係なら、必ず、怒りの感情は起きて当然なのです。
気をつけて!親密な関係に起きる2種類の怒り
ただアーロン氏は、親密な関係に怒りは避けて通れないとしても、「怒りにも2種類ある」ことを知るといいと述べています。
それは、相手をただ傷つけたいだけ、自分のストレスの単なるはけ口として向ける怒りと、道徳的な怒りです。
前者は、本来、親密な関係には決して存在しないものですし、してはならないものです。
それは信頼関係を壊しますし、HSPにとっては有害でしかありません。
しかし道徳的な怒りとは、相手を守るための怒り、あるいは二人の間の境界線を守るための怒りです。
これは、親密な関係にはむしろ、必要なものだと言ってもいいでしょう。
たとえば、「今度から、待ち合わせに1時間以上遅れる時は、必ず電話かメールしてね」と伝えていたのに、またしても、連絡もなしに1時間以上待たされたとしたらどうでしょう。
そこで起きる怒りは正しく、怒りによって、相手に境界線の大切さを伝えねばなりません。
しかし、ストレスのはけ口にするような怒りは、親密な関係にとっては、あってはならないものです。
もし相手が、繰り返しそのような怒りを向けてくるなら、そういう人とは距離を取ることが必要な場合もあります。
道徳的な怒りへの対処法とは?
(1)相手の気持ちや背景を知る
ただ、道徳的な怒りであっても、HSPは、相手の怒りによってダメージを受けてしまうことがあります。
その場合も、HSPは、何とか怒りを回避しようとしてしまいますが、ここでもう一つの道をお示ししたいと思います。
それは、「相手が何を怒っているのか、なぜ怒っているのか、その背景を探る」ということです。
怒りの背景には、実は、悲しみ(大切なものを失いそう)、寂しさ(分かってくれない)、恥ずかしさ、不安、困惑、恐れなどが隠れています。
そういう感情を処理できない時、人は、「怒り」という形で相手にぶつけることがあるのです。
HSPは、その特性から、相手の隠された感情に気づく力があります。その能力を使って、相手の怒りの背景にある気持ちを探りましょう。
もしそれが分かれば、その感情にアプローチすることで、相手の怒りを鎮めることができるかもしれません。
夫が夜遅くに酔って帰ってきた時、妻が決まって腹を立てるのは、夫の身体を心配してのことでしょう。
彼女が、友人の彼氏の高収入をうらやましそうに語る時、男性が不機嫌になってしまうのは、劣等感にさいなまれているからでしょう。
そういう時には、怒りに怒りで返したり、気づかない振りをしてスルーしたりするのではなく、「僕の身体を心配してくれてたんだね。ありがとう」と伝えたり、「でも私は収入だけがその人の価値とは思ってないからね」とフォローすることで、相手の怒りを鎮め、逆に絆を深めたりもできるのです。
HSPは、相手の言葉を深くとらえ、非難を真に受けてしまいがちです。
しかし、相手の本当の気持ちに気づけば、「怒りだけを受け取ってしまって傷つく」ということは少なくなるでしょう。
怒りの陰に隠れている気持ちに気づけば、相手が腹を立てている要因を取り除くこともできるし、その人が自分の思いや願いに気づけるよう、サポートすることもできるのです。
(2)自分の伝え方の強さを考えてみる
また自分の中の怒りについても、HSPは、特に非HSPに境界線について伝えようとする時には、少しキツめの言葉で伝える必要があるとアーロン氏は言います。
HSPは、自分が怒りによって傷つくので、相手も同じように傷つくだろうと思って、控えめに伝えようとしがちです。
HSP同士ならそれで十分ですが、非HSPの場合は、それでは伝わらないことがあります。
怒りを恐れるあまり、伝えたいことが伝えられていないなら、もう一度、伝え方の強さを考えてみるといいかもしれません。
それでもHSPは怒りが苦手です。
たとえ道徳的な怒りであっても、相手の怒りがどうしても苦痛なら、それを我慢する必要はありません。
「してほしいことがあるなら、プリプリせずに教えて」とお願いしたり、「そういう言い方は、自分にはダメージが強すぎるからやめて」と伝えたりしましょう。
それでも収まらないなら、相手が落ち着くまで一人にさせてもらうのもいいでしょう。
怒りをコントロールしない/できない人からは離れる
しかし、道徳的な怒りではなく、以下のような怒りを爆発させる人には注意が必要です。
このような特徴のある人は、あなたの力だけでは改善は困難です。
専門家(カウンセラー)の力を借りるか、それも相手が拒否するなら、できるだけ早く離れることも考える必要があります。
最初はうまく行きそうでも、やがて深いダメージを受けてしまうことになりかねません。
あなたがHSPなら、なおさらです。
- 急に性格が変わったように怒る人
- 過剰なほどの怒りに駆られる人
- 気分を切り替えられず、いつまでも怒りを持続させる人
- ささいなことでカッとなり、無意識に乱暴な行動をとる人
- 激しい怒りを爆発させたことを覚えていない人
- 昔の出来事なのに、まるで今起きたかのように怒り狂う人
このような人に必要なのは、あなたの時間と優しさではなく、専門家の力です。
【ぜひ読んでいただきたい書籍】