コロナ禍の今、DIY(ディー・アイ・ワイ)を始めて自分好みの家具やインテリアを手作りするのがブームになっているとテレビで紹介されていました。工夫次第で、毎日を楽しく過ごせそうですね♪
『徒然草』にも、とても楽しい時間を過ごした粋なお話がありました。
木村耕一さんの意訳でどうぞ。
「酒の肴は、どこかな?」 あの頃は、こんなに質素でした
鎌倉幕府の重職を務めた平宣時朝臣(たいらののぶときあそん)が、昔のことを思い出して、こんな話を聞かせてくださいました。
ある日の夜、幕府の最高権力者であった北条時頼(ほうじょうときより)様から、
「屋敷へ来てもらいたい」
と使いが来たのです。
私は、「すぐにお伺いします」とお返事したものの、礼儀にかなった服が見つからず、あれこれと手間取っていました。
すると、また使者が来て、
「着替えをするのに時間がかかっておられるのでしょうか。夜中のことですから、変なかっこうでもかまいませんので、早くおいでください」
と催促がありました。
そこで、よれよれの普段着のままで、お屋敷へお伺いしました。
こんな時間に、どんな用かと思っていたところ、時頼様は、素焼きの杯と銚子(ちょうし)を持って出てこられ、
「この酒を一人で飲むのはもの足りなく、寂しく感じたので、あなたを呼んだのですよ」
と言われるので、うれしくなりました。
さて、酒をつごうとすると、時頼様は、
「これはうっかりしていた。酒の肴(さかな)がないなあ。家の者たちは寝静まっているので、今さら起こすわけにもいかない。面倒だが、肴になりそうなものがないか、この屋敷の中を、どこでもいいから探してもらえないか」
と言われます。
私は、燭(しょく)に火をともして、真っ暗な屋敷の中を、隅々まで探しました。ようやく、台所の棚に、味噌(みそ)が少しついている器があるのを見つけたのです。
「こんなものがありました」
と申し上げると、時頼様は、
「ああ、これで十分です」
と言って、気持ちよく杯を重ねられました。とても楽しい時間を過ごすことができました。あの頃は、こんなに質素だったのですよ。
【原文】
銚子に土器とり添えて持て出でて、「この酒を一人とうべんがそうぞうしければ、申しつるなり。肴こそなけれ。人は静まりぬらん。さりぬべき物やあると、いずくまでも求め給え」とありしかば、脂燭さして、くまぐまを求めしほどに、台所の棚に、小土器に味噌の少し付きたるを見出でて、「これぞ求め得て候う」と申ししかば、「事足りなん」とて、快く数献に及びて、興に入られ侍りき。その世には、かくこそ侍りしかと申されき。(第二一五段)
(月刊なぜ生きる4月号「古典を楽しむ」 意訳・解説 木村耕一 イラスト 黒澤葵 より)
飾らない素顔のまま
木村耕一さん、ありがとうございました。
鎌倉幕府の重職を務めた方ですから、豪華絢爛(ごうかけんらん)な酒宴を何度も経験していると思います。
しかし、兼好さんに語ったのは、本当に質素で、静かな酒盛り。
飾らない素顔のままのお付き合いに、読んでいる私まで心地よくなりました。
「とても楽しい時間」とは、豪華さなどとは関係ないのですね。
兼好さん、素敵なお話をありがとうございました。