古典『枕草子』を書いた清少納言は、皇后定子(ていし)に仕える女房(にょうぼう・秘書役のスタッフ)でした。
『枕草子』には、定子や女房たちとの王朝生活が、キラキラと記されています。
中でも「春は、あけぼの」は、有名ですね。
そこには、こんな定子からの問いかけがあったのです。
「春、夏、秋、冬、それぞれの季節の中で、何がいちばん好きですか──」
型にはまった、平凡な答えでは合格点がもらえないとよく知っている清少納言は、
「春は、あけぼの」
と答えたのでした。
続いて、「夏」は?
木村耕一さんの意訳でどうぞ。
「夏」は、夜
(意訳)
「夏」は、夜。
月の美しい夜は、もちろん素敵。
でも、月のない闇夜もいいわよ。たくさんの蛍が、やわらかい光を放って飛び交っているじゃないの。
蛍が、一匹か二匹しかいなくたって、闇の中で舞っている、ほのかな光を見つめていると、心が癒やされてきます。
雨でさえ、夏の夜ならば、涼しさを運んでくれるので、気持ちよく感じるのが不思議ですね。
(原文)
夏はよる。月のころはさら也、闇もなお、ほたるの多くとびちがいたる。又、ただ一二など、ほのかにうちひかりて行もおかし。雨などふるも、おかし。(第一段 春は曙)
(『こころきらきら枕草子』木村耕一著 イラスト 黒澤葵 より)
短い「夏」の夜を楽しむ
木村耕一さん、ありがとうございました。
「夏」は、日が沈むのが遅く、夜明けも早いので、四季の中では夜の時間がいちばん短いです。
『百人一首』にも、短い夜を歌った、清原深養父(きよはらのふかやぶ)の一首がありました。
夏の夜は まだ宵(よい)ながら 明けぬるを
雲のいずこに 月宿(やど)るらむ
そんな、短い夜に目を向けるところに、清少納言の非凡な感性が光っているようです。
しかも、月夜も、闇夜も、雨夜も、すべていいという懐の広さが心地いいですね。
そして、蛍の光。
今ではなかなか見られないですが、やわらかくて、ゆったりと明滅する光は、いつまで見ていても飽きないものです。
そういえば、「ゲンジボタル」「ヘイケボタル」と名づけられているのは、蛍を見ると、昔の人の生き様を思い出すからでしょうか。
短い夏の夜に、好きな古典をひらくのも、趣がありますね。
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