HSP(ひといちばい敏感な人)の基本的な知識から、最新の議論までをご紹介する、精神科医・明橋大二先生の「HSP大全」第14回です。
これまでの連載はこちらHSPの基本的な内容は下記でまとめていますのでご覧ください。
「親密さへの恐れ(親密になることを恐れる理由)」の5番目は、攻撃・破壊の衝動への恐れです。
私たちの行動のほとんどは「無意識」に動かされている
アーロン氏は、人を好きになり親密になることは、私たちの心が全体性を得ようとしていることだと言います。
ちょっと分かりにくいかもしれません。どういうことでしょう?
心理学では、私たちの心は、意識と無意識の二つに分かれていて、私たちが感じ行動する多くは無意識が決めていると言われます。
私たちは、無意識の力によって動かされているのです。
あの人が好き!でも、どうして好きなのか、「目が素敵」「父親に似ている」「食べ物の好みが合う」「尊敬できる」など、いろいろあるかもしれませんが、意識が納得する合理的な理由は、しばしば後付けです。
無意識には知識と経験が蓄積されています。
私達はあまり自覚していませんが、特定の職業を選択したり、ある人を本能的に嫌悪したり、同じ失敗ばかり繰り返すのは、すべて無意識が私達を突き動かしているのです。
無意識にはまた、もっとディープな感情や記憶も保存されています。
激しい怒りや悲しみ、あるいは遥か彼方に葬り去ってしまわないと、とても意識の正常を保てない思い出(例えばトラウマ)を、人(意識)は遥か彼方(無意識)に葬り去ります。
そして、それがあることさえ認めずに封印してしまうのです。
しかしその封印された記憶が、私達に道を誤らせたり、過剰な不安や恐怖症を引き起こしたりすることにもなります。
ユング*はそこで、その無意識に封印されたものを意識化し、意識と無意識を統合することが、心の健康への道と考えました。
そしてそれを「全体性」と名付けたのです。
*スイスの心理学者。無意識などの研究で「分析的心理学」を創始した。
親しい人ほど、なぜ激しい怒りを感じてしまうのか?
恋をする、相手と親密になる、ということは、その無意識の蓋を少し開けることになります。
相手を心から愛するとは、相手のすべてを受け入れるということです。
愛されるとは、誰にも言えなかった自分の本当の姿をさらけだし、それを受け入れてもらう、ということです。
しかしそれは同時に、今まで封印していた怒りや悲しみをさらけだすことでもあります。
今までは、人に腹を立てたことなどなかったのに、恋をすると、時として相手に激しい怒りの気持ちを覚えることはないでしょうか。
今までは、「自分は一人でも大丈夫、生きていける」と思っていたのに、愛する人ができると、逆に激しい孤独を感じることはないでしょうか。
それは、今まで封印していた無意識の蓋が、少し開いた、ということです。
特にHSP は感情反応が強いので、怒りや悲しみを強く感じがちです。
よい環境で育ったHSPの場合は、幼少期から、刺激が一杯一杯になった時に、かんしゃくや大泣きを繰り返すことで、自分の感情を解放します。
しかし周囲が自分の怒りを受け入れてくれる安全な環境でない場合、敏感な子どもは一切の怒りや悲しみを無意識に封印してしまいます。
そしてその激しい感情は危険なものと思い込んでしまいます。
やがてそのまま大人になると、愛する人ができたときにようやく、その封印した感情を解放することになるのです。
HSPは、その激しい感情に驚き、恐れを感ずるかもしれません。
エアコンの温度設定で暑い寒いの感覚が合わず、ムっと我慢している瞬間。相手が自分の頼んだことを簡単に忘れてしまう時。相手がその母親や妹と楽しげに会話しているのを見た時。
自分の中に攻撃性、破壊性、サディスティックなものがあることに気づいて、これはなんだろう?本当に愛なのか?と恐くなるのです。
しかし、これは無意識が意識と交わる自然な過程で、全体性を回復するために、必要なプロセスなのです。
親密な交わりを避け、無意識から出てくる情報やエネルギーを否定し抑圧することは逆に、困難で危険でさえあります。
抑えようとすれば、無意識はもっとあなたの注意を引こうとパワーアップして働きかけてきます。
片頭痛に悩まされたり、なぜか泣いてしまったり、死にたくなったり、強烈な夢を見たり、イケナイ相手に恋するといったことがそうです。
HSPが楽になる考え方「自分の怒りを恐れて我慢しない」
抑圧された衝動や本能的な欲望が、そのまま本当に相手や自分を傷つけてしまうと恐れる必要はありません。
純粋なストレスでイライラしたら、その感情が圧倒的になる前に、ちゃんと怒っていいのです。怒れないのなら、それはなぜか突き止めましょう。
自分を守るための怒りもあります。
深く傷つけられたとか侮辱されたと感じて、自分を守るために怒っているのなら、その怒りは我慢すべきではありません。
それに、攻撃的で破壊的な本能があったからといって、あなたはそのまま行動することはないので安心してください。
結局、恐く感じるのは、長いことそれを意識から切り離してきたからです。
むしろ、そういう本能を認めて受け入れることで、意識と無意識がひとつになり、暴発を防ぐことができるのです。
パートナーと話し合い、一緒に無意識を受け容れれば、さらに強い絆で結ばれるかもしれません。
過剰に気を遣ってしまうのは、怒りを受け容れてもらえなかったから
アーロン氏は、HSPは意識と無意識の扉(境界線)に鍵がかかっていなくて、扉が動くのを垣間見ると言います。
怒りの衝動に気づいたときは、幼少期から封印してきた怒りに気づいて解けるチャンスかもしれません。
たしかに、幼少期、敏感なあなたが怒りを表現すると、周囲は途方に暮れたり、嫌がったり、そんなあなたを罰してきたかもしれません。
怒りを受け容れてもらえない子は、ストレスを封印するようになり、どんなに小さな怒りも悪いものと思うようになってしまいます。
成人すると、過剰に相手に気を遣い、いつも優しくあろうとします。
無意識が見せる夢は、その代償です。
号泣し怒り狂う夢は、純粋無垢な子どものあなたの悲しみや怒りが分かってほしくて、意識に顔を出しているのかもしれません。
仕事に遅刻する夢は、本当は「それをしたくない」ということ、殺人の夢は、「いつもいい人」であろうとする自分に決別するときが来た、という意味かもしれません。
しかし怒ったとしても、パートナーは、あなたが幼少期にされたような反応はしないかもしれません。
自分の気持ちをパートナーと話し合うことで、もっと好きになってくれることだってあります。
それに、怒りも無限ではありません。
怒りがどこから来たのか、その意味は何なのか、それを考えてみることで、逆に心の健康を取り戻し、パートナーとの関係をより深めることもできるのです。
あなたの無意識と向き合い、肯定してみましょう
封印してしまっている怒りや悲しみはありませんか?アンケートに答えながら、自分を見つめる時間をとってみていただけたらと思います。
また、この記事へのご感想もぜひお寄せください。ご質問については、一部ですが「Dr.明橋のこころがほっとするラジオ」でお答えいただいています。
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