HSP(ひといちばい敏感な人)の基本的な知識から、最新の議論までをご紹介する、精神科医・明橋大二先生の「HSP大全」第15回です。
これまでの連載はこちら
HSPの基本的な内容は下記でまとめていますのでご覧ください。
「親密さへの恐れ(親密になることを恐れる理由)」の6番目は、「飲み込まれることへの恐れ」です。
共感力の高いHSPは、言葉でお願いされなくても相手の無意識の求めや感情を感じ取ります。
- 本当は傷ついているのに、場が白けないよう笑顔でいる
- 意見を求められ、自分の感想ではなく相手の望むコメントを返す
- 「趣味は?」と聞かれ特にこれといった嗜好はないが、とりあえず「相手がイメージしている自分像」を壊さないように返す
- 尊敬する相手、好きな相手に指摘されると(軽くでも)、必要以上のものを受け取ってしまう
- 恋人との親密な時間、相手が喜ぶことしか頭になくそのためになら自分は気持ちのいいフリでもする
困ったり弱ったりしている相手を見て放っておけなかったり、空気を読んだり、相手に応じ柔軟になれるのは、HSPの優しさや強みでもあります。
ただ、もしこれらに当てはまるのなら、あなたは「自分らしさ」を犠牲にする習慣が身についてしまっているかもしれません。
なぜ、妻が少し要求しただけで夫はキレるのか
もし、「自分は自分」という感覚や、十分な安心感を持てていなければ、“コントロールを失う不安”と同じように、“飲み込まれる不安”も強く感じるでしょう。
特に人を愛することは、相手の磁場に立ち入ることで、HSPはそれによって、自分が強く影響を受けることを知っています。
だから人に近づくのを躊躇するのは当然のことです。
例えば非HSPの恋人が、「もっと一緒にいたい」と言ってきたとき、その人はその人の感覚で、普通にあなたのことが大好きで、ただ一緒にいたいだけなのですが、あなたの眼には、相手が自分を飲み込もうとしているように映るかもしれません。
あるいは、妻に何か頼まれたけれど、その要望を半分しかかなえられなかったHSPの夫がいるとします。
足りない半分の要望を、妻が再度詳しく伝えた時、妻は家族にとって必要な用件を伝えているだけで、悪気はないのですが、夫は、まるで自分が奴隷扱いされているように受け取ってしまうことがあります。
自分のことを「能無し」と言われているような気がしたり、耳を塞いでしまったりします。
自分はまるで意志も思考も必要ない、ただ強く賢い妻の言いなりの、ロボットになるしか生きていく術はないように思ってしまうことさえあります。
これが、相手に飲み込まれる不安です。
「この関係を続けるには、自分が我慢するしかない」
「自分のことは後回しにしたほうが楽」
そんなふうに思っているかもしれません。
しかしあなたが求める本当の愛は、あなたの犠牲で成り立つものではないはずです。
だからと言って、逆に相手の求めに全く応じないとか、相手の痛みを見て見ぬふりすることもできないでしょう。
カウンセラーはよく、「自分自身をしっかり持って」「自分を見失わないように」とアドバイスします。
しかし相手と距離をとることばかり考えていたら、相手との親密な関係に入ることはできません。
「相手の痛みをやわらげたい」「相手が望むことをしたい」と思わない関係なら、それは果たして愛と呼べるでしょうか。
ではHSPは、どのようにそのバランスを取ればよいでしょう?
相手か自分か、どちらかだけを正当化してしまう「投影」とは
ここで、「投影」について話をしたいと思います。
それを知ることが、この恐れを解決する鍵になると思います。
果たして、相手はあなたを、本当に飲み込もうと思っているのでしょうか?
確かに、幼少期のあなたは「まわりを喜ばせる」のが好きで、それを嗅ぎつけた大人たちは、そんなあなたを利用し飲み込もうとしたかもしれません。
しかし、今あなたの前にいる人はそうではないです。
恋人が、束縛してくるのが問題ならば「自分には一人の時間が必要だ」と伝えないといけません。
一度遠回しに話して伝わらなかっただけで、全然分かってくれない気がしたり、相手が強すぎて、対等な話し合いができない気がしたり(本当は自分のほうが正しい気がしているのに)、どうせ間違っているのは自分だとあきらめてしまったりするのは、自分の恐れや見たくない自分を相手に「投影」しているのかもしれません。
「投影」とは、自分にも相手にも良いところと悪いところがあるのに、「相手はいつも素晴らしく自分は全然ダメ」とか、「自分は正しいのに相手が間違っている」というように、片面しか見えなくなることです。
これは、見たくない自分の一部分を、そんな自分はまるで「いない」かのように否定し、相手に押しつけてしまう自己防衛です。
本当は自分にもあるのに相手に押しつけてしまうのは、悪い面だけではありません。
素晴らしいもの、いい資質を全部相手に受け渡してしまい、自分には何もないように思ってしまうこともあります。
適切な境界線を引くには、まずはお互いを正しく知ること
飲み込まれるのが恐いあなたが、「投影」を減らすために必要なのは、「相手は相手」「自分は自分」という境界線です。
投影と境界線について、アーロン氏は水槽に例えます。
あなたの水槽を誰かの水槽と合体させるとします。
二つの水槽が一緒になると、広くなり、魚も増えるのでよさそうです。
しかし、パートナーの水槽には珍しい豪華な魚がたくさんいて、あなたのところには灰色の地味なグッピーが数匹しかいなかったらどうでしょう。
水槽が混ざると、あなたの魚は無視されるか、食べられてしまうでしょう。
相手に飲み込まれてしまうという怖れは、自分の水槽は小さく、二人の間の壁を取り払うと、自分がどこかに行ってしまうと思っていることです。
さて、パートナーの魚の実際の数や、サイズをチェックしてみてください。
あなたが否定してきた、あるいは育ててこなかった魚は、本当は自分の水槽にいるのに、相手の水槽に「投影」して見てはいませんか?
もう一つ。パートナーは一体どれほど、あなたの小さい魚を飲み込み、食べたいと思っているのでしょうか?
幼少期にあなたに様々な要求をしてきた強力(パワフル)な大人たちを振り返り、それをパートナーに投影していないか考えてみましょう。
相手が「鈍感」で「強力」で自分を飲み込もうとするように見えるとき、他人よりも刺激が早くにオーバーし疲れてしまう敏感な自分を、本当は、あなた自身が受け容れていないことがあります。
自分にとって必要なことを、自分が知って受け容れること。
そしてそれを相手に伝えられるし、相手も受け容れてくれると分かったとき、飲み込まれることへの怖れも消え去るでしょう。
ちなみに、影響を受けやすいHSPは、褒め言葉から影響されます。
褒められると、「相手の期待を裏切ってはいけない」と、よけいに相手の要望に応えようとします。
それがまた「飲み込まれる不安」につながってしまうかもしれません。
しかし相手は、あなたが自己を殺してまで、自分の要求に応えてほしいと本当に思っているでしょうか?
自分にできることを伝え、相手が求めていることを聞けば、お互い、ちょうどいい合意点が見つかると思います。
それが、適切な境界線を持つ、ということでもあるのです。
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