日本人なら知っておきたい 意訳で楽しむ古典シリーズ #92

  1. 人生

『徒然草』からの生きるヒント〜どんな人と友達になれば、幸せになれますか(徒然草 第117段)

友達から、近況を知らせるはがきが届きました。懐かしいやら、うれしいやら。
友達は、人生を豊かにしてくれますね。
一方、いろいろな人間関係の中には、ちょっと困るな、という人もあります。
『徒然草』には、どんな人と友達になったら幸せになれるのか、という兼好さんのアドバイスがありました。
木村耕一さんの意訳でどうぞ。

どんな人と友達になれば、幸せになれますか

(意訳)
友とするのに、よくない者が、七とおりいます。
一つには、身分が高く、偉い人。
二つには、若い人。
三つには、病気をしたことがなく、非常に健康な人。
四つには、大酒飲み。
五つには、勇敢な武士。
六つには、うそをつく人。
七つには、欲の深い人。

よい友に三とおりあります。
一つには、物をくれる友。
二つには、医者。
三つには、知恵のある友。

【原文】
友とするにわろき者、七つあり。一つには高くやんごとなき人。二つには若き人。三つには病なく身強き人。四つには酒を好む人。五つには武く勇める兵。六つには虚言する人。七つには欲深き人。
よき友、三つあり。一つには物くるる友。二つには医師。三つには智恵ある友。(第117段)

──原文には「友とするにわろき者」とありますが、悪友という意味でしょうか?

いいえ、「悪友」という意味ではありません。「他に比べて劣っている友」「どちらかといえば避けたい人」という意味合いです。

──そうなんですね。

友達になりたくない人の第一に「身分が高く、偉い人」を挙げるとは、意表を突いていますね。

──それは、なぜでしょうか?

兼好法師は、「そんな人とは、対等に話ができないから、肩が凝るだけですよ」と言いたいのでしょう。

また、「偉い人は、ひとりよがりで、相手に配慮できない人が多いから、私は、ごめんだね」というつぶやきが聞こえてきそうです。

──それは、現代でも共感できますね。では、二番めは?

第二が「若い人」
これは若者を嫌っているのではなく、「年齢の差が大きいと、若い人に合わせるのは、体力的に大変だよ」という気持ちからでしょう。

──確かに、若い人に合わせていたら、体力がもたないですね。

第三の「病気をしたことがなく、非常に健康な人」は、どうしても、病弱な人の気持ちが分からず、思いやりに欠けることが多いからです。

──そうですね。とても健康な人に「具合が悪い」と伝えた時、「根性が足りない」と言われたことがあり、ショックでした。

第四が「大酒飲み」
『徒然草』には、酒を飲んで醜態をさらす人々の姿が、何カ所も書かれています。兼好法師は、酔っ払いには我慢できなかったようです。

第五が「勇敢な武士」
現代でいえば、荒々しく血気にはやっている人に置き換えてもいいでしょう。

第六の「うそをつく人」、第七の「欲の深い人」は、誰もが避けたい相手だと思います。

──はい、うそつきと、欲深い人からは、離れたいと思います。

よい友のトップに、「物をくれる友」を挙げたのは、少し露骨な感じがするかもしれません。

──なんだか、おねだりしている感じがしますね。

しかし、兼好法師は、釈迦の教えを根拠にしているのだと思います。
仏教では、「相手に与えることだけを考えなさい」と、布施(ふせ)の大切さを教えられています。

──「布施」というと、困っている人に、食べ物や品物を援助することでしょうか?

はい、それも大切な布施です。しかし、困っている人に、食べ物や品物を援助することだけが布施ではありません。
優しい言葉をかけ、明るい笑顔で接し、親切を心掛け、助け合うことも布施にあたります。

──それでは、お金や物を持っていなくてもいいのですね。

「布施の精神で、周囲の人に喜びを届けている人は、素晴らしい人です。そういう人と友達になれば、きっとあなたも、幸せな日々を送れるようになれますよ」と、兼好法師は伝えたかったのです。

『徒然草』からの生きるヒント〜どんな人と友達になれば、幸せになれますか(徒然草 第117段)の画像1

(『月刊なぜ生きる』7月号「古典を楽しむ」 意訳・解説 木村耕一 イラスト 黒澤葵 より)

周囲の人に喜びを届けている人

木村耕一さん、ありがとうございました。

「周囲の人に喜びを届けている人」は、とても素晴らしいです。一緒にいると楽しいので、ずっとそばにいたい人ですね。
そういう人と一緒にいると、私も「喜びを届ける人」になれそうです。

どんな人と一緒にいるかで、人生が変わってくると思います。

兼好さん、大切なアドバイスをありがとうございました。

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