お盆過ぎに現れる
子供の頃の夏休み。お盆が過ぎてから海に行きました。
白っぽいプカプカしたものが、海に漂っているのを見て、「あー、海にビニールのゴミを捨てたらいけないよね」と親に話すと、「ああ、あれは、クラゲだよ。刺されると痛いからね」と教えてくれました。
ビニール袋と思ったら、生き物だったとは……。初めて見るクラゲに驚きました。
調べてみると、クラゲは、お盆を過ぎると海に現れるのですね。
清少納言(せいしょうなごん)の会話にも「海月(くらげ)の骨」が出てくる『枕草子』の一段がありました。
木村耕一さんの意訳でどうぞ。
誰も見たことのない「素晴らしい骨」って、何でしょうか
(意訳)
皇后定子(こうごうていし)さまのところへ、弟の藤原隆家(ふじわらのたかいえ)様がお越しになって、こうおっしゃいました。
「隆家は、素晴らしい扇の骨を手に入れました。その骨に紙を張って、姉上に差し上げようと思っています。しかし、並大抵の紙では、とても釣り合わないので、よい紙を探しているところです」
定子さまも、ほほえんで、
「それは、いったい、どんな骨なの?」
と尋ねられました。
「何から何まで、素晴らしいのです。人々も、『今まで、見たこともない扇の骨だ』と言います。本当に、私も、これほどの骨は、見たことがありません」
隆家様が、一段と声を大きくして、自慢されるので、そばから私がしゃしゃり出て、
「そんな誰も見たことのない、珍しい骨でしたら、扇の骨ではなくて、きっと、海月(くらげ)の骨じゃないでしょうか」
と言ってしまいました。
隆家様は、
「これは参った! 実に、面白い。その言葉は、私が言ったことにしてしまおう」
と、大笑いされました。
(解説)
海に漂う海月(くらげ)には骨がありません。「海月の骨」は、非常に珍しいこと、ありえないことの例えとして、ことわざのように使われていました。それを清少納言が、洒落(しゃれ)として、うまく使ったので大受けしたのです。当時は、海月を塩漬けにして食べていたようです。
(『こころきらきら枕草子』木村耕一著 イラスト 黒澤葵 より)
会話を楽しむ
木村耕一さん、ありがとうございました。
会話を楽しんでいる清少納言の姿が目に浮かぶようです。
非常に珍しいこと、ありえないことの例えとして、「海月の骨」といわれるのですね。
面白いです。
それを洒落にして、その場の雰囲気をパッと明るくする清少納言は、素敵な女性だなと思いました。
千年も前から、身近な存在だったクラゲさん、ビニール袋と間違えてごめんなさい。
クラゲを見たら、清少納言の洒落を思い出して、明るくいきたいと思います。
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