HSP(ひといちばい敏感な人)の基本的な知識から、最新の議論までをご紹介する、精神科医・明橋大二先生の「HSP大全」第18回です。
これまでの連載はこちら
HSPの基本的な内容については下記でまとめていますのでご覧ください。
気質は変わらなくても、生きづらさは変えられる
ここまでの話で、あなたの魅力も課題も、「生まれつき、ひといちばい敏感なこと」と「過去の経験(特に幼少期の経験)」の両方が深く関係していることが分かってきたのではないかと思います。
HSPは生まれつきだから変わらない、治療すべきものではない。それはもちろんその通りです。
しかし、もしあなたが今現在「生きづらさ」を感じていたり、悩みを抱えたり傷を負っているのなら、それは放置すべきではありません。
この連載でも、これまでのアンケートの中で、読者の方から様々な悩みを教えていただきました。今回はその結果をご紹介しながら、お話ししたいと思います。
HSPの特徴を表す「DOES」について、「当てはまる」をチェックした人の割合が高い例から、5つずつ挙げてみました。
(ちなみに回答のリンクはまだ有効ですので、引き続きご協力いただける方はお願いいたします)
HSP大全(第3~7回)のアンケート結果より(上位5つ)
D(処理が深い)の例
- 複雑な思い(自分の中の矛盾した気持ち)を持ちやすい …93.7%
- 不正直なことをしてしまうと、自己嫌悪に陥る …88.4%
- 身に覚えのない指摘をされても真剣に悩んでしまう …86.3%
- 人間の内面や物事の本質を考える …85.3%
- 常に、相手の言葉の「本当(裏)の意味」を考えてしまう …84.2%
その他の声
「考えすぎ」と指摘される、落ち込んで手につかなくなる、差別的発言が気になる、考え出すと終わりがなくて困る、答えが出ても数日引きずる、深読みして疲れる、くよくよ悩み続ける
O(刺激がオーバーしがち)の例
- ショックを受けたり疲れたりすると回復に他人よりも時間がかかる…95.2%
- 忙しい日々や緊張が続くと不調になる…94.3%
- 騒音や、誰かの怒る声が聞こえる環境はつらい…91.4%
- 一度に色々言わないでほしい…82.9%
- 誰かにじっと観られるとダメ…81.9%
その他の声
疲れる、眠れない、話がややこしくなる、緊張する、興奮する、気が休まらない、しんどい
E(感情と共感力が強い)の例
- 他人の感情に気分が左右されがち…96.4%
- 相手が味方であり理解者と分かれば心を開く…94.1%
- 不機嫌な人といると「自分のせい」ではないかと思ってしまう…92.7%
- 相手の喜ぶ顔が見たい…87.3%
- 誰かが叱責されていると自分のことを言われているようでつらい…85%
その他の声
不安で焦りパニックになる、苦痛、泣きたくなる、逃げたくなる、聞いていられない、気分も体調も悪くなる
S(小さなことが気になる)の例
- 不調を抱えやすい(アレルギー、身体の凝りや痛み、腹痛、頭痛、月経前症候群、慢性疲労etc…) …84.3%
- 騒がしい場所から離れたい …78.7%
- ときにBGMが不快だ …72.2%
- 派手な服は着ない …71.3%
- 車のクラクション、自転車の鈴の音、来客のチャイムにもびっくりする …65.7%
その他の声
つらい、負担、人の視線が痛い、大らかに受け止められない、不快、集中できなくなる
差次感受性の例
- ほめられると非常に嬉しく励みになる…89.6%
- 職場に不機嫌オーラを放つ人がいると、途方もなく振り回される…84.9%
- 他人には心の安定した人、温かい人、サバサバした人と思われたい…79.7%
- 仕事では、かつての失態や誰かの注意の言葉がよみがえり、類似の失敗を徹底的に避ける…78.3%
- 恋人には、尊敬できる、自分を高めてくれる(導いてくれるほどの)相手がいい…74.5%
その他の声
気持ちが落ち着かず不安、マイナス思考で疲れきる、仕事が続かない、不安や恐怖を感じる、落差がつらい
刺激を受けすぎるHSPが、過去を引きずらない方法
感動や感謝もひといちばい深いHSPですが、事実や感情をシンプルに整理できて、サバサバしていて、堂々と生きられる非HSPと比べると、苦悩や葛藤の数も圧倒的です。
またそれらの負の刺激を大きく深く受け止めて、心身が疲れてしまいがちです。その影響を受ける期間も長いのです。
アンケートに具体的な「生きづらさ」を書いてくれるHSPもいました。
読者の声
- ピアノの発表会では、必ず緊張して、ミスをしていた
- 偶然のミスがトラウマになり、またミスをする
- 緊張すると失敗するのは、私の行動パターンなので、緊張しない方法を自分で模索している
- 自分の正義感に振り回され、他人を傷つけて自己嫌悪になる
- そこまでしなくてもよいと上司から指摘される
- 個性の強すぎる人や意見を押しつける人、聞く耳を持たない人などといると、憂鬱になり仕事に支障をきたす
- 中学生時代のいじめが、今も酷く影響している
- 物が壊れる音がする=自分が壊れる
- 女性の集団が怖いです。また、仲間はずれや無視されるのが恐ろしい
過去の嫌な出来事の引き金が、刺激であれば、その経験はおそらく「ひといちばい敏感」であることが多かれ少なかれ関係しているでしょう。
しかし、一方で、そのつらい経験は「敏感だったせいで失敗した」「敏感すぎる反応をしてしまった」ということなのでしょうか。
そこで自分の敏感さを責めてしまってはいないでしょうか?
本当にすべてが「敏感さ」のせいだったのか、ひとつずつ振り返って見直していかなければなりません。
ミスや失敗、恥ずかしい思い、誰かの心無い言葉や態度は、なぜ起きたのでしょう?
いじめっ子はあなたの敏感さを攻撃していたのでしょうか?
あなたが敏感だから自分を守ることができなかったのでしょうか?
その出来事を、当時のあなたはどう捉え、今にどう影響していますか?
もしあなたや両親、友達、上司がHSPをよく理解していたら、どのような結果になっていたでしょうか?
【悩み相談】正義感で他人を傷つけたり、煙たがられたりする
全ての悩みに、できれば直接お応えしたいのですが、次の2つを例にもう少し具体的な考え方を示したいと思います。
1.自分の正義感に振り回され、他人を傷つけて自己嫌悪になる
2.そこまでしなくてもよいと上司から指摘される
よく気がつき、必ず過去を振り返ってリスクを確認するHSPが抱えがちな悩みだと思います。
悩み1:自分の正義感に振り回され、他人を傷つけて自己嫌悪になる
正義感を持つのは大切なことです。あなたが気づいて声を上げることで、ほんの一時傷ついてしまう人もいるかもしれませんが、それ以上に、もっとたくさんの人が助かっているはずです。
見ないこと、無かったことにするより、大切な経験が蓄積されていくのです。
悩み2:そこまでしなくてもよいと上司から指摘される
上司への報・連・相は、煙たがられることがあったとしても、それはトラブルを防ぎ、あなたの信頼にも繋がる、重要な仕事です。
いい加減な上司だと、あなたの報告が批判のように聞こえて嫌がるかもしれませんが、それはその人の問題です。あなたは関係なく、なすべき仕事をしていればいいのです(報告内容をシンプルにまとめることや、タイミングは大事です)。
思い通りに進まなかったり、結果が裏目に出てしまったりするのは、その時々の状況によるのですが、過去の不安感が拭い去れないのなら、以下のチェックリストで振り返ってみてください。
心の傷を消すための振り返りチェックリスト
1.心の傷になった出来事を思い出し、ひとつ選びましょう。
2.そのとき、どのような刺激があり、あなたは何を感じましたか?
3.どうしてそのような状況になったのでしょう?
4.それが起きたとき、親や教師や上司は何を考えていたでしょうか?
5.彼らがもし、あなたがHSPだと知っていて、必要な配慮を心得ていたなら、違う結果になっていたでしょうか?
「気質か、過去の経験か」を切り分けるのは決して簡単ではありませんし、思い出したくないこともあるかもしれません。
しかし「敏感さは悪くなかった」あるいは「敏感さから、そうせざるを得なかった」と分かれば、不要な痛みは消え去るでしょう。
そこから、今後のあなたの人生は、大きく変わり始めるかもしれません。
悪いパターンを繰り返すのではなく、安定した愛着スタイルへ
過去の影響は繰り返す、それを「パターン」という言葉で書いてくれた方が数名ありました。
人は、生まれたときから、少しでも安心して生きていくために「パターン」を持つようになります。中でも、「愛着スタイル」と言われるパターンは、すべての土台になります。
「愛着スタイル」が「安定型」であることは、「変化への適応力」を生み出します。安定した愛着スタイルは、幸せな人間関係と人生には不可欠なのです。
ぜひあなたの話をお聞かせください。
【ぜひ読んでいただきたい書籍】