HSP(ひといちばい敏感な人)の基本的な知識から、最新の議論までをご紹介する、精神科医・明橋大二先生の「HSP大全」第20回です。
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HSPの基本的な内容については下記でまとめていますのでご覧ください。
幼少期の家庭環境で安心を得た「安定型」は、約50%
愛着のスタイルを詳しく話します
養育者との関係で安心を感じていた「安定型」は約50%です。今も「私は大丈夫」「私は愛される」と自分に自信があり、「人は信じてくれる」「誰も私を見捨てない」「みんないつでも助けてくれる」と他人を頼れます。
人は、自分に期待や信用をしてくれる人を裏切りたくないので、相手を信じることのできる安定型は、友情も恋愛もうまくいきやすいです。
仕事でも自立心とバランス感覚があって、ストレスがあっても投げ出さず、感情的になることもネガティブになることも少ないです。
過干渉か放任か、安心できずに育った「とらわれ型」
養育者が側にいない、接し方が一貫しないことで愛情を感じられなかった「とらわれ型」は約10%です。
養育者に、ある時は突き放され、またある時は過干渉をされてきたので、相手のことが好きでも、自分の価値を信じられません。
養育者が側にいたのは養育者自身の求めを満たすためだったので、あなたはずっと「ありのままの自分が愛されている」と感ずることができず、一人で「どうしたら私を見てくれるのだろう?」と不安を感じてきました。
乳幼児なら、何とかして親の気持ちを繋ぎ止めようとします。生きるためにそうするしかなかったのです。
大人なら、相手を好きだからこそ、気になったり疑ったりしてしまう気持ちが強くなって、しつこく連絡をしたり、思い通りにならないと怒ったりします。
しかしそれは相手に「あなたのことを信じていない」と伝えているようなものです。
あなたに信頼してもらえない人たちは、「どうせ信じてもらえないのなら」と、本当に裏切る行動に出てしまうかもしれません。
そんなことが繰り返されてきたのですから、あなたがいつも不安で自分に自信が持てないの無理もないことなのです。
40%が当てはまる「回避型」に、2通りあり
1.心に鎧を着た「拒絶・回避型」~悪いのはあなた
「回避型」には二つあります。一つは、養育者に「僕のことを見て」「抱きしめて」という心の求めにも、身体的な求めにも応えてもらえなかった人です。「拒絶・回避型」と言います。約25%が当てはまります。
あなたは、「刺激がオーバーして辛い」「愛してくれなくて悲しい」という感情を、「僕は平気だよ」と自分から切り離すことで、刺激や痛み、悲しみから自分を守ってきたのです。
大人になると、「自分は正しく、相手が悪い」と自信に溢れているようですが、本当は、自分を否定しています。自分の感情をずっと否定しているからです。
悲しみ、怒り、恐れを受け容れず、心を切り離して来た結果、あなたには幼少期の記憶がありません。
大人になると、虚無感や疎外感に気づくこともあります。
カウンセリングを受けても、心に鎧を着て感情に乏しいので「問題無し」と診断されたり治療が難航したりします。
「自立している私に愛は不要」「忙しいので」と言うのですが、心の底には隠し切れない「とらわれ」があります。
だから、「甘え上手な人」を見ると、異常にイライラしたりするのです。「本当は甘えたい」という気持を押し殺してきたからです。
あるいは、人との付き合いを損得勘定でしか考えなかったりします。「この人は自分にとってどういうメリットがあるか」でしか、人間関係に意味を見いだせないのです。
アーロン氏は、いわゆる「男らしさ」の概念の中に、「他人を頼ったり、感情を現してはいけない」とあるのでこのタイプは男性に多いと言います。
2.トラウマを抱える「恐怖・回避型」~悪いのは自分
自分を否定しているという点では、深刻なトラウマに苦しむ「恐怖・回避型」もそうです。約15%に当てはまります。
彼らは、慢性的に臆病で心配性で抑うつ状態で孤独です。
同じ回避型でも、「自分は正しい」と思っている「拒絶型」と違い、「恐怖型」はどんなときも「自分が悪い」としか考えられません。「悪いのは自分」と思い込むことで自分を守ろうとしているのです。
たとえば「私はいい子にしているのに、お父さんとお母さんに罰せられる」と思うよりも、「お父さんとお母さんがケンカするのは、私が悪いからだ」と思ったほうが、まだコントロールが効くようで、安心できるからです。
「恐怖型」の愛着スタイルの大人は、自分は傷つけられて当然と思っていて、傷つく前に他人を攻撃しなくてはならず、敵意さえ抱いていることもあります。
混乱型という別名があるように、人に近づくことを本心では求めていながら、人に近づくと、強い恐怖に襲われます。
「見捨てられるのではないか」「傷つけられるのではないか」と恐れ、強い葛藤と動揺から言動も混乱しがちになるのです。
不安定型は、人間関係で不幸な選択を繰り返しがち
生きることは世界を探索し続けることで、いつも危険や刺激と隣り合わせです。そこで刺激を調整しながらどう対処するか、という生きる術は、生まれつきではなく、養育者との関りの中で温められ、磨かれていくものです。
今、もしも不安定なパターンが染み付いてしまっていたとしたら、敏感さのせいではありません。養育者との関りが不幸だったのです。
しかし、HSPであることによって、愛着スタイルから受ける影響は、さらに大きくなります。
実は、安定型は、安定型同士惹かれ合うのですが、不安定型も、お互いに苦しくなるのに、不安定な相手と惹かれ合う傾向があります。 これは、恋人との関係だけではありません。
子どもの頃、愛情を感じられず、ずっと不安だったとらわれ型や、精神的または身体的に虐待されてきた回避型は、人間関係や職業選びで不幸な選択を繰り返しがちです。
誰も守ってくれない、あるいは敵ばかりの世界にたった一人取り残される恐怖から、偽りの愛や信じる価値のないものに強く引き寄せられてしまう人もいます。虚無感や疎外感に飲み込まれ、自殺を図る人もいます。
特に、両親に自分の理想を重ねていたのに、急に極端な形で裏切られたり幻滅させられたりした人に多いです。
HSPは、ずば抜けた才能を持っている
愛着のスタイルがときどき不安定になる、あるいはいつも不安定な場合、何より大切なことは、これから安定型に変わることです。「安定型」は、幼少期に決定してしまったら、一生変わらない、というものではありません。
「獲得された安定型」という言葉があるように、「安定型」は後天的に身につけることができます。
しかも、HSPは、安定型を身につけることに、ずば抜けた才能を持っているのです。
次回、その方法についてお話ししましょう。