日本人なら知っておきたい 意訳で楽しむ古典シリーズ #104

  1. 人生

自分らしさを見失わずに、明日への一歩を踏み出すには 〜『方丈記』より

他人から非難されたり、挫折したりの人生

人生には、他人から非難されたり、挫折したりすることがあります。
他人に言われた言葉が、頭の中を駆け巡って、「なんて自分はダメなんだ」と、自分自身にもダメ出しをしてしまうことはありませんか。
非難や挫折の中でも、自分らしさを見失わずに、明日への一歩を踏み出せたらいいですよね。

そんな時に読みたい『方丈記(ほうじょうき)』の一節をご紹介しましょう。

『方丈記』を書いた鴨長明(かものちょうめい)は、御曹司として育てられました。
順風満帆だった18歳の時に、父親が急死します。長明は、たいへんなショックを受けました。
しかも親戚でゴタゴタがあり、長明の将来の地位も、財産もなくなってしまうのです。
親族に裏切られて、さらに火災や竜巻や、地震など、大災害にも見舞われたのでした。

そんな中でも長明は、琵琶や和歌の勉強に励みます。
特に和歌では、その才能を認められ、『新古今和歌集』の編纂(へんさん)メンバーに大抜擢(だいばってき)されました。
後鳥羽上皇は、長明に恩賞を与えることにします。ところが、親族からの猛反対が起き、中止になってしまいました。
絶望した長明は、50歳の時に失踪してしまったのです。

その後長明は、車に乗せて運べる移動式の家「方丈庵(ほうじょうあん)」で、自分の好きなところへ行って、住むようになりました。
山の中で、暮らしていたある日のことが『方丈記』に記されています。

木村耕一さんの意訳でどうぞ。

一人で演奏し、一人で歌い、我が心を慰め、楽しむ日々

夕方になって、高木が風に揺れて、葉がカサカサと音を鳴らすと、唐の詩人・白楽天が「琵琶行(びわこう)」を作った故事を思い出すのです。

木の葉が色づく秋の夕暮れ、白楽天が、友人の見送りに、波止場へ行った時のことです。
琵琶を弾く一人の女性に出会います。
その人の、不幸な生い立ちを聞いて感動した白楽天が、挫折を繰り返した自らの人生を重ねて詠んだ詩が、かの有名な「琵琶行」なのです。
 
私の人生においても、不幸、挫折は、何度もありました。しみじみと、過ぎ去った日々を振り返り、私も、この方丈庵で、琵琶を演奏するのです。

私の演奏は拙いものですが、他人に聞かせるのが目的ではありませんから、少しも恥ずかしくありません。

一人で演奏し、一人で歌って、我と我が心を慰め、楽しませているのです。

自分らしさを見失わずに、明日への一歩を踏み出すには 〜『方丈記』よりの画像1

(『こころに響く方丈記』木村耕一著 イラスト 黒澤葵 より)

自分らしく生きる

木村耕一さん、ありがとうございました。

不幸、挫折を何度も経験した長明が、自分らしく生きる姿に感動します。

琵琶の演奏は、「他人に聞かせるのが目的ではない」
キッパリと長明は言います。
他人の評価はコロコロ変わるものと身をもって経験した、長明の凛とした強さを感じました。

長明の琵琶の音に思いを馳せると、自分らしさを見失わずに、明日への一歩を踏み出せそうですね。

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自分らしさを見失わずに、明日への一歩を踏み出すには 〜『方丈記』よりの画像2

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